神戸大学大学院理学研究科の津田明彦准教授の研究グループは、同氏が本年4月に創業した光オンデマンドケミカル株式会社と協力して、下水、家畜の糞尿、食品廃棄物などから発生するバイオガスを使って、医農薬原料やポリマーの合成に成功しました。

バイオガスには約60%のメタンが含まれており、そのメタンを、同グループで開発した光オン・デマンド合成法を用いて、安全・安価・簡単・短時間・低環境負荷で、超高反応性物質であるホスゲンに一時的に変換し、それを即座に所望の化学物質と連続的に反応させて、それら化学品の合成を達成しました。さらにその新たな方法で、神戸市東灘処理場で発生した消化ガスから、高付加価値の有用化学品が合成できることを実証しました。

メタンからホスゲンの合成に関して昨年10月12日に国内特許出願を行い、上記研究成果を加えて、本年10月11日に優先権主張および国際特許出願を行いました。バイオ由来原料と光をつかって、これまでにまったく前例のない、カーボンネガティブな「光ものづくり」による循環型社会の形成およびSDGsへの貢献が期待されます。

研究の背景

地球沸騰化時代が到来し、世界規模での温室効果ガス削減が急務となり、化学品生産分野においてグリーントランスフォーメーション(GX)が強く求められています。メタン(CH4)は地球上で最も豊富に存在する炭化水素であり、天然ガスの主成分であり、また微生物による家畜の糞尿や生ゴミの分解によっても発生します。メタンは主に発電や都市ガスなどの燃料として使用され、燃焼してエネルギーを発してCO2を生成します。メタンはCO2の主たる排出源であるだけでなく、それ自身もCO2の約25倍の地球温暖化係数を持ちます。それらの理由から、メタンを化学品合成原料として利用することが強く望まれてきました。しかし、メタンは非常に安定な化合物であり、また、化学反応を起こしても爆発したり、複雑な混合生成物を与えることが多いため、それを原料とする工業的化学品生産は困難であると考えられてきました。

そのような背景において、津田明彦准教授のグループでは昨年、メタンから超高反応性物質であるホスゲンを光で合成することに成功し、国内特許出願(特願2023-176533)を行いました。そして、その成果を社会で役立てるために、光オンデマンドケミカル株式会社を創業しました。アカデミアと企業の両視点から、バイオ由来原料で、小規模多品種の高付加価値化学品生産の事業化を目指し、「メタンを原料とする光オン・デマンド化学品合成法」の開発に取り組んできました。

研究成果

(1)メタンもしくはバイオガス(約60%のメタンと約40%の二酸化炭素を含む)から、常温、常圧で、触媒や溶媒などの薬品を一切用いずに、最大99%を超える変換率で、ホスゲンの合成に成功しました。

(2)発生したホスゲンを取り出さずに、即座に連続的に次の化学反応に用いて、クロロギ酸エステル、カルボン酸塩化物、カーボネート、N-保護アミノ酸、尿素誘導体、イソシアネート、Vilsmeier試薬、エステル、アミド、芳香族アルデヒド、カルバモイルクロリド、α-アミノ酸N-カルボン酸無水物(NCA)、ニトリル化合物、などの有用化学品の合成に成功し、計17種類の化合物の合成を達成しました(34〜99%収率)。現在のシステムでは、1日に0.5〜1kg程度の化学品を合成することができます。

(3)さらに、神戸市東灘処理場((株)神鋼環境ソリューション)から提供いただいたバイオガス(一般に消化ガスと呼ばれる)を用いて、同様に有用化学品が合成できることを実証しました。

将来性

本発明によるメタンを原料とする光オン・デマンド合成法は下水にとどまらず、家畜の糞尿、生ゴミ、草木ゴミ、紙ゴミなどの廃棄物から発生するガスをアップサイクルすることができる革新的な化学品合成法です。畜産業、食品産業、飲食業界、林業、廃棄物処理事業、上下水道事業などの廃棄物処理に大きく貢献し、社会におけるそれらの事業価値を大きく向上させる効果を期待できます。本事業は、それら様々な地域産業と密接な結びつきを形成し、地球規模での温室効果ガス削減に貢献し、また日本経済の発展にも貢献することが期待されます。

謝辞

本研究は、NEDO NEP躍進3000、KOBEゼロカーボン支援補助金による支援を受けて実施しました。

特許情報

出願番号:PCT/JP2024/36434 (特願2023-176533のPCT優先権主張出願)

発明者:津田 明彦

発明の名称:ハロゲン化カルボニルの製造方法

出願人:神戸大学

出願日:2024年10月11日

関連サイト

[1] 神戸大・津田研究室HP:http://www2.kobe-u.ac.jp/~akihiko/index.html

[2] 光オンデマンドケミカル株式会社HP:https://photo-od-chem.co.jp

研究者

SDGs

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