神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野の野津寛大教授、兵庫県立こども病院の飯島一誠病院長及び国立成育医療研究センター佐古まゆみ部門長らの研究グループは、神戸大学医学部附属病院 臨床研究推進センターを治験調整事務局として、2019年4月1日より、小児期発症の「難治性ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群」を対象としたリツキシマブとステロイドパルス療法の併用療法の多施設共同単群臨床試験(医師主導治験)を実施しました。この治験において、全薬工業株式会社が製造販売する「リツキサン®点滴静注 100 mg、同500 mg」[一般名:リツキシマブ(遺伝子組換え)]の「難治性ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群」に対する有効性及び安全性が確認され、2024年9月24日付で厚生労働省から適応追加の承認を取得しました。

難治性ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群について

ネフローゼ症候群は、腎臓を構成するネフロンにおける糸球体スリット膜の障害により高度蛋白尿と低アルブミン血症が生じた結果、全身性浮腫をきたす病態の総称です1)。小児期に発症するネフローゼ症候群は小児の慢性腎疾患で最も頻度の高い原因不明の指定難病で2)、そのうち約10%~20%は第一選択薬であるステロイド治療で完全寛解が得られない「ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群」に分類されます3)。「ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群」に対しては、ステロイドパルス療法や免疫抑制薬による寛解導入療法が推奨されます。「難治性のステロイド抵抗性ネフローゼ症候群」は、これらの治療に反応せず、寛解が得られない難治性で、今後末期腎不全に進行する可能性が高く、予後は不良です3)

研究の内容と結果

小児期発症の難治性ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群患者を対象として、リツキシマブ※1とステロイドパルス療法を併用投与した場合の有効性及び安全性を評価する医師主導治験※2を全国の11の大学病院等において実施しました。被験者の代諾者から文書により同意を取得した6名を対象とし、ステロイドパルス療法(1クール;メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムを30mg/kg/日を3日連続、最大5クール)にリツキシマブ(375 mg/m2/回を1週間間隔で4回投与)を併用投与しました。6名(男性2名、女性4名)は、1歳から19歳までで、シクロスポリンとステロイドパルス療法に全く反応を示していませんでした。Day169時における尿蛋白クレアチニン比の治療前からの減少率、Day169時における完全寛解、不完全寛解の状態(達成の有無)、観察期間中における慢性腎不全以降の有無等を評価しました。

その結果、6名中5名でDay169時の尿蛋白クレアチニン比が治療前に比べて50%以上減少していることが認められました(割合 83.3%、95%信頼区間 43.6%~97.0%)4)5)。さらに2例で完全寛解、2例で不完全寛解を達成しました。また、観察期間中に慢性腎不全に移行した症例はありませんでした。

この研究の意義と今後の展開

リツキシマブとステロイドパルス療法の併用療法が難治性ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群患者に対して有効かつ安全な寛解導入療法であることが確認できました。当該療法は、難治性ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の予後改善に寄与することが期待でき、その意義は大きいと考えられます。

用語の説明

※1 リツキシマブ

造血幹細胞や形質細胞以外のB細胞上に発現するタンパク質であるCD20抗原に特異的に結合する抗CD20モノクローナル抗体で、標的となるB細胞をヒトの体内に備わった免疫系を用いて攻撃し、細胞を傷害する。ネフローゼ症候群の病因や疾患活動性にはB細胞の影響も示唆されており、リツキサンによりB細胞を除去することで、ネフローゼ症候群への治療効果が期待される。リツキシマブは、2014年8月に小児期発症の「難治性のネフローゼ症候群(頻回再発型あるいはステロイド依存性を示す場合)」を効能又は効果として承認されている。

※2 医師主導治験

医師自らが計画し、実施する治験をいう。患者数が少ない疾患では、治療薬が必要とされているにも関わらず、製薬企業が開発に着手できないことがあり、そのような場合に、医師が自ら治験を実施し、医薬品の開発を行うものである。

出典

  1. 第I章総論 1. 疾患概念・病因. 日本小児腎臓病学会監修, 難治性疾患政策研究事業「小児腎領域の希少・難治性疾患群の診療・研究体制の確立」(厚生労働科学研究費補助金) 作成. 小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2020, 診断と治療社, 2020, pp2-4
  2. Iijima K, Sako M, Nozu K. VII. 小児特発性ネフローゼ症候群. 日本内科学会雑誌. 2020; 109(5): 926-932.
  3. 第II章治療. 日本小児腎臓病学会監修, 難治性疾患政策研究事業「小児腎領域の希少・難治性疾患群の診療・研究体制の確立」(厚生労働科学研究費補助金)作成. 小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2020, 診断と治療社, 2020, pp26-34.
  4. Nozu K, Sako M, Tanaka S, et al. Rituximab in combination with cyclosporine and steroid pulse therapy for childhood-onset multidrug-resistant nephrotic syndrome: a multicenter single-arm clinical trial (JSKDC11 trial). Clin Exp Nephrol. 2024; 28(4): 337-348.
  5. Japan Registry of Clinical Trials(jRCT)臨床研究等提出・公開システム https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2051190019/

 

 

*この研究成果はWEBリリースのみ行っています

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