農研機構と神戸大学は、「ため池ベントナイトシート工法設計・施工マニュアル」を共同で策定しました。このマニュアルは、兵庫県が発刊した「兵庫県ため池ベントナイトシート工法設計・施工マニュアル」*1をもとに、農林水産省の指針に沿って、全国の自治体で活用できるよう設計方法および施工方法、維持管理方法等を統一化しています。ベントナイトシート工法は、ため池の堤体内にベントナイト系遮水シートを敷設することでため池の安全性を向上させる工法であり、ため池の改修工事で採用数が増加しています。今後、このマニュアルを使用することで、全国の自治体で効率的にベントナイトシート工法の設計・施工が可能となります。

マニュアルは、2025年6月6日に農研機構ウェブサイトにて公開されました。

*1  本件に関するプレスリリースはこちらから

背景

 

防災重点農業用ため池1)に係る防災工事等の推進に関する特別措置法の施行により、ため池改修工事が、全国で計画的かつ集中的に進められています。従来、改修工事では良質な土質材料を必要とする前刃金工法2)が採用されていましたが、その調達が多くの地域で困難な状況です。そこで代替工法として、ベントナイト系遮水シート3)を堤体内に敷設するベントナイトシート工法(以下、本工法といいます)の採用が増加しています。しかしながら、地区ごとに膨大な時間をかけて設計・施工方法が検討されており、統一的なマニュアルの整備が求められていました。

そこで、農研機構と神戸大学は、共同で既往の施工事例を収集し、実験等により本工法の耐震性を評価しました。農林水産省の指針4)に沿って設計、施工および維持管理方法等を統一化することで、各種ベントナイト系遮水シートを用い、全国で適用可能な「ため池ベントナイトシート工法設計・施工マニュアル」(以下、本マニュアル)を作成しました。

マニュアルについて

本マニュアルは、共通編、設計編および施工編は次の通り構成されています。神戸大学大学院農学研究科の澤田豊教授が実験および数値解析を行い、設計編に示される設計式やその根拠を提供してきました。 

【共通編】
  • 堤高が10m以下のため池への適用
  • 施設の供用期間内に1~2度発生する確率の地震(レベル1 地震動)を対象とする安定性評価
  • 用語解説
【設計編】
  • ベントナイトシート系遮水シートに要求される特性
  • ベントナイトシート系遮水シートの敷設位置等を決定する「安定計算方法」
  • ベントナイトシート工法を用いたため池堤体の浸潤線の設定方法
【施工編】
  • 施工手順を写真や図を用いて詳細に解説
  • 施工管理基準に関するチェックシートや出来高管理基準、施工後の維持管理方法等

 

なお、「兵庫県ため池ベントナイトシート工法設計・施工マニュアル」が兵庫県から発刊されていますが、本マニュアルは、ベントナイトシートの敷設位置の参考値や堤体内部の水位の設定方法について全国の都道府県で利用できるように改良しています。

 

<マニュアルの利用方法>

マニュアル(PDF)はこちらからご覧いただけます。

用語解説

1.防災重点農業用ため池

決壊した場合の浸水区域に家屋や公共施設等が存在し、人的被害等を与えるおそれのあるため池。令和6年3月末時点で52,701箇所が再選定されています(出典:農林水産省HP )。

2.前刃金工法

良質な粘性土を堤体内の上流側に傾斜させて設置して遮水機能を向上させる工法。

3.ベントナイト系遮水シート

無機系の天然粘土鉱物であるベントナイトを粉状または粒状に加工し、織布・不織布あるいは高密度ポリエチレン樹脂で挟み込んだ遮水シート。ニードルパンチやステッチボンドによって一体化加工された「ベントナイト補強型」と、一体化しない「ベントナイト非補強型」に分類されます。本マニュアルでは、各種「ベントナイト補強型」をため池ベントナイトシート工法に適用することを記載しています。

4.農林水産省の指針

土地改良事業設計指針「ため池整備」を指します。この指針では、農業用ため池の調査および設計、施工の考え方がまとめられています。

関連情報

予算:農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究「ため池の適正な維持管理に向けた機能診断及び補修・補強評価技術の開発」、運営費交付金

研究者