国立大学法人神戸大学大学院医学研究科 外科学講座 肝胆膵外科学分野(教授:福本 巧、以下「神戸大学 肝胆膵外科」)と株式会社ヴィータ(本社:兵庫県神戸市、代表取締役:土田 忍、以下「ヴィータ」)は、オオサキメディカル株式会社(本社:愛知県名古屋市、代表取締役社長:大崎 将男、以下「オオサキメディカル」)と共同で、腹腔鏡手術やロボット支援下手術に代表される鏡視下手術におけるガーゼ遺残リスクの低減を目指した「ICG蛍光ガーゼ(以下、トロックスICG)」を開発し、発売・臨床使用を開始しました。

トロックスICGは、近赤外線領域で蛍光を発するインドシアニングリーン(ICG)を利用し、鏡視下手術におけるガーゼの視認性を向上させることで、腹腔内でのガーゼ紛失・遺残リスクの低減に加え、手術の安全性および効率の向上に寄与することを目指した、世界で初めて製品化された、鏡視下手術用ICG蛍光ガーゼです。 

トロックスICG Ⅱ-Bタイプ   左:通常の白色光による観察、右:近赤外光による蛍光観察

開発の背景

近年、腹腔鏡手術やロボット支援下手術に代表される鏡視下手術は、患者さんへの侵襲が小さいことから広く普及しています。一方で、鏡視下手術のような限られた視野による手術操作では、ガーゼが周囲の臓器や組織の背面に隠れたり、出血を吸収すると周りの出血や凝血塊との区別がつきにくくなり紛失しやすいこと、さらにガーゼの位置確認や探索に時間を要し、レントゲン撮影など放射線被ばくを伴う確認作業が患者さんや医療スタッフの大きな負担となることが課題となっています。

神戸大学 肝胆膵外科では、これらの課題を解決するため、ヴィータとともに、蛍光を利用してガーゼの位置を“見える化”する取り組みを進めてきました。2025年3月には、安全性の高い医療用の蛍光造影剤であるICGを用いて近赤外光下で蛍光を発するガーゼを作製し、その視認性や有用性を評価した基礎研究の成果を、国際学術誌 「Scientific Reports」に報告しています(Scientific Reports 2025 Mar 25;15(1):10189)。この研究により、鏡視下手術においてICG蛍光ガーゼの蛍光は大動物の腸間膜を数枚程度透過可能で、腹腔内でのガーゼ紛失や遺残防止に寄与しうることが示されました。その知見を実際の医療現場で活用できる製品へと発展させるべく、医療用ガーゼメーカーであるオオサキメディカルとの共同開発を進めてきました。なお、神戸大学大学院医学研究科医療創成工学専攻および医療機器社会実装支援ユニットが開発および産学連携に関する伴走支援を実施しました。

今回、その成果として、世界に先駆けて鏡視下手術用ICG蛍光ガーゼを発売し、実際の手術症例での使用が開始されました。

開発した鏡視下手術用「ICG蛍光ガーゼ」について

トロックスICGのコンセプト

トロックスICGは、近赤外線領域で蛍光を発するインドシアニングリーン(ICG)と、すでに多くの医療現場で使用されているICG蛍光観察に対応した近赤外光イメージング搭載の内視鏡システムを組み合わせ、鏡視下手術の術野でガーゼを「光らせて探す」ことを可能にする製品です。ICGを含んだガーゼに近赤外光を照射することで強い蛍光が得られ、腹腔内に挿入されたガーゼの位置確認、腸間膜などの背面に紛れたガーゼの検出やガーゼ遺残の有無の確認を、従来よりも容易に行えることが期待されます。

これにより、ガーゼ紛失・遺残リスクの低減に加え、レントゲン撮影によるガーゼ探索の頻度を減らすことで放射線被ばくを抑え、また臓器や組織を剥離操作する際のランドマークとしても活用しうるなど、手術の安全性および効率性の向上に寄与することを目指しています。

 

製品規格

製品ラインナップは以下の2規格

<企画品目(規格)>
  • トロックスICG Ⅱ-Aタイプ 5枚入(20袋) 
    ガーゼのサイズ:3㎝×15㎝ 4ply(※)
  • トロックスICG Ⅱ-Bタイプ 2枚入(20袋)
    ガーゼのサイズ:5㎝×7㎝  8ply(※)

 

※ply(プライ)はガーゼの重ね枚数を示します。

 

 

いずれの規格も、鏡視下手術において多くの症例で使用されている「鏡視下手術用ガーゼ トロックス(オオサキメディカル)」をベースに規格しており、X線不透過マーカーも付いています。既存の手技やワークフローを大きく変更することなく導入できることを目指しており、神戸大学医学部附属病院をはじめとする医療機関において、症例ごとの適応を検討しながら臨床使用を開始しています。

今後の展開

神戸大学 肝胆膵外科、ヴィータとオオサキメディカルは、実際の手術症例で得られる経験・データを踏まえて、ICG蛍光ガーゼの有用性のさらなる検証を進めるとともに、使用方法や製品仕様の改善・最適化を継続していきます。

また今後は、鏡視下手術だけでなく開腹手術での活用や、消化器外科以外の他分野の手術への展開も検討し、「見える化」による手術安全性の向上と医療現場の負担軽減に、より広く貢献していくことを目指します。

共同研究体制

神戸大学大学院医学研究科 外科学講座 肝胆膵外科学分野

助教 浦出 剛史
教授 福本 巧

株式会社ヴィータ

代表取締役 土田 忍(神戸大学 客員教授、三菱神戸病院 外科部長)

オオサキメディカル株式会社

常務取締役 粂田 隆行
課長    中村 貴之

神戸大学大学院医学研究科医療創成工学専攻・医療機器社会実装支援ユニット

特命教授 保多 隆裕
特命教授 福岡 靖史

報道問い合わせ先

神戸大学総務部広報課

E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者

SDGs

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