公立はこだて未来大学の佐藤直行教授、京都大学大学院医学研究科臨床神経学の松本理器教授、同・てんかん・運動異常生理学講座の池田昭夫教授、国立病院機構宇多野病院の下竹昭寛臨床研究部長、神戸大学大学院医学研究科脳神経内科学分野の尾谷真弓助教ら共同研究グループは、認知課題遂行中の皮質脳波の進行波を解析し、大域的な脳波進行波が認知課題に依存せず、課題関連の脳部位では局所脳波と脳波進行波との同期の強さが変化することをはじめて明らかにしました。
ポイント
- 皮質脳波(※1)が認知課題によらず前部側頭葉から後方への進行波を成すことを発見しました。
- 課題に関わる脳部位では、脳波進行波への同期の強さが変化する現象を発見しました。
- 同結果は、大脳における選択的な情報伝搬の新しい神経メカニズムを示唆するものです。
背景
皮質脳波は大脳皮質の表面を進むようなパターン(進行波)を示すことが知られています。理論研究では、この脳波進行波の大域的なパターンが大脳皮質間の情報伝搬に役立つ可能性が指摘されています。しかし、認知課題遂行時の皮質脳波進行波はほとんど調べられておらず、脳波進行波の大域的なパターンがどのように認知課題時の情報伝搬に関わっているかは明らかではありませんでした。
研究手法
認知課題(絵画呼称課題(※2)・手関節伸展課題(※3))における10名の皮質脳波データを解析しました。認知課題の遂行と対応して、各局所脳部位(18ヶの脳部位を選定)の脳波と大域平均脳波との位相差、及びその同期の強さを指標として、大域的な脳波進行波の課題依存性を調べました。
研究成果
皮質脳波(7 Hz)は側頭部前方から後方への進行波を示し、その方向は認知課題にほとんど影響を受けないことを明らかにしました。一方、各局所部位の脳波の同期の強さは、課題の遂行に合わせて変化することがわかりました。絵画呼称課題では、絵画提示から0.5~1秒後に前部および後部紡錘状回、後部下側頭葉、後部海馬傍回で脳波同期が強まり、前部および後部内側頭葉では脳波同期が弱まりました。手関節伸展課題では、伸展開始から0.4~0.7秒後に中心後回の脳波同期が強まりました。
これらの脳波同期の変化は、認知課題と関係するものと考えられます。
以上の結果は、大域的な脳波進行波は認知課題に依らず側頭葉前部から後部への一定の方向を示し、これが一定の方向性を持った脳内情報伝搬を促すことを示します。また、認知課題に関わる脳部位の脳活動の同期の強さが変化することから、伝搬される神経情報は局所脳部位で調整されうることも示唆されます。これらは、大脳皮質における情報伝搬に関する新しい神経メカニズムを示唆するものです。

今後の展望
今回得られた皮質脳波進行波の性質は、頭皮脳波(※3)の解析にも応用できるものと考えられます。これまで頭皮脳波の進行波現象はよく調べられてきましたが、その発生の仕組みは必ずしも明らかではありません。今回の成果に基づき、大脳皮質での大域的な情報伝搬に関わる新しい指標を設計できることが期待されます。
用語解説
※1 皮質脳波
脳の表面に設置した電極から計測される脳波です。てんかんなどの診療の目的で用いられます。
※2 絵画呼称課題
動物や道具などの線画を提示後、速やかにその名称を発声する課題。
※3 手関節伸展課題
自由な間隔で繰り返し手関節を伸展する課題。
※4 頭皮脳波
頭皮上に設置した電極から計測される脳波です。侵襲性がなく、科学研究や診療などで広く用いられています。皮質脳波と比べて空間解像度が低いです。
研究支援
本研究はMEXT科研費(科研費22H02945、22H03913)、およびJSPS科研費21K12610、23K18275の助成を受けて行われました。
論文情報
タイトル
DOI
10.1038/s42003-025-09362-4
著者
佐藤 直行 (公立はこだて未来大学), 下竹 昭寛 (京都大学大学院医学研究科臨床神経学,独立行政法人国立病院機構宇多野病院), 尾谷 真弓 (京都大学大学院医学研究科臨床神経学,神戸大学大学院医学研究科内科学講座脳神経内科学分野), 菊池 隆幸 (京都大学大学院医学研究科脳神経外科), 國枝 武治 (愛媛大学大学院医学系研究科脳神経外科学講座),高橋 良輔 (京都大学大学院医学研究科臨床神経学), 池田 昭夫 (京都大学大学院医学研究科てんかん・運動異常生理学講座),松本 理器 (京都大学大学院医学研究科臨床神経学,神戸大学大学院医学研究科内科学講座脳神経内科学分野)
掲載誌
Communication Biology
報道問い合わせ先
神戸大学総務部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)


