神戸大学大学院農学研究科の東若菜准教授らと宮崎大学農学部の徳本雄史准教授の研究グループは、兵庫県六甲山系の二次林での実証研究において、アセビ・ササ類の下層植生の刈り取りと多様な林相をともなう管理が森林再生に果たす役割について、土壌環境および土壌微生物の観点から明らかにしました。下層管理が土壌生態系に及ぼす具体的な影響を、土壌物理化学性と菌類の機能的構成の両側面から総合的に示した点が大きな成果です。下層植生の管理は、森林再生を促進するための重要な手法であり、菌類群集の機能的変化を通じて土壌生態系を改善する可能性があります。この研究成果は、2026年1月6日に国際学術誌『Landscape & Ecological Engineering』にオンライン掲載されました。

ポイント

  • 日本の二次林では、管理放棄によりアセビやササ類が下層に優占し、他の樹種の芽生えや成長を阻害している。
  • 兵庫県六甲山系の二次林において、アセビやササ類を刈り取る下層管理を実施した結果、森林の再生を促すような土壌環境の変化や菌類群集の機能構成の傾向を示した。
  • 地域固有の自然景観と土壌微生物群集を含む生態系全体を保全するためには、森林の樹種多様性を維持するとともに、アセビやササの適切な管理を行うことが重要である。

研究の背景

管理放棄された二次林注1では、特定の下層植物が優占し、光環境や土壌条件を変化させ、樹木の更新を阻害します。アセビやササ類は、土壌の有機物層注2や菌類群集に強い影響を与えることが知られていますが、これらの植物の刈り取り管理の効果については定量的データが依然として不足していました。

兵庫県神戸市に位置する六甲山上には100年以上前に開場した日本最古のゴルフ場があり、開場当初から自然地形を生かしたコースづくりと、自然環境と調和した維持管理が続けられてきました。一方で、ゴルフ場内を含む六甲山上の周辺二次林では、アセビやササ類が繁茂する場所が増え、林床が暗くなり芽生えが生育しにくい状況が確認されてきました。放置することで植生や種の多様性が失われる懸念が高まっています。本研究では、ゴルフ場内の二次林において、樹種構成や下層植物の管理と、林床の土壌環境や微生物(植物と共生する菌、病原菌、落ち葉分解菌など)の関係を調べました。

研究の内容

本研究では、六甲山系の二次林において、①樹種構成の異なる4つの森林プロット(ツツジ科の植物が優占する場所、アセビと針葉樹(マツ類)の多い場所、ササと落葉広葉樹の低木が多い場所、広葉樹が多い場所)と、②下層植生の管理方法を変えた4つの処理(アセビ除去、ササ除去、両方除去、無処理)(図1)プロットを設置し、土壌の物理化学特性(pH、C/N比、有機物量など)と菌類群集(ITS領域解析注3)を評価して比較しました。

図1.下層植生の管理方法を変えた4つの処理(アセビ除去、ササ除去、両方除去、無処理)の森林の様子

①4つの樹種構成プロットを比較したところ、森林を構成する樹木の違いが、土壌菌類の多様性指数(Shannon指数注4)や機能を大きく左右していました(図2)。つまり、ゴルフ場という景観の中でも針葉樹の多い場所、落葉広葉樹の低木が多い場所、ツツジ科の植物が優占する場所など、異なる林相が存在することで樹種構成に応じた多様な菌類群集が形成されていることが明らかになりました。

図2.樹種構成の異なる4つの森林プロット間の土壌菌類群集の多様性指数(Shannon 指数)の比較

 広葉樹が多いプロット(右端)が最も高く(5.16)、針葉樹が多いプロット(左から2番目) が最も低い(4.27)など、林相(樹種構成)の違いによる明確な差が示された(平均±SD、プロット間で有意差:p<0.001)。

バー上の英字は多重比較(Tukey 法)の結果を示し、同じ文字を含むプロット間は有意差なし、異なる文字のプロット間は有意差あり(p<0.05)を表す。

②4つの下層管理処理プロットを比較すると、アセビ除去により、土壌有機物量が増加し(図3)、菌類群集はマツやブナ科樹木の根に感染・共生する外生菌根菌注5、ツツジ科植物と共生するエリコイド菌根菌注6の相対量が増加していました(図4)。また、ササ除去では、土壌pHがわずかに上昇し、病原性菌類注7が増加など、アセビ除去とは異なる反応が見られました。両方の除去処理では最も顕著な変化が確認され、林床の光環境が改善し、アセビ除去と同様に外生菌根菌など共生性菌類の割合が高まる傾向を示しました。これらの結果から、アセビやササ類を適切に刈り取る管理を実施することで、土壌有機物量や光環境が改善され、菌類の機能が変化することで、樹木の更新・定着を支えうる基盤が形成されることが示唆されました。

図3.4つの下層植生の管理方法の違いによる土壌有機物量の比較

アセビを除去した区(左から2番目)とアセビとササの両方を除去した区(左から3番目)では無処理区(左端)よりも有機物量が多くなり、有機物の蓄積が高まっていた。一方、ササを除去した区(右端)では最も低い値となった(平均±SD、プロット間で有意差:p<0.001)。

バー上の英字は多重比較(Tukey 法)の結果を示し、同じ文字を含む処理間は有意差なし、異なる文字の処理間は有意差あり(p<0.05)を表す。

図4.4つの下層植生の管理方法の違いによる外生菌根菌の相対量の比較

アセビを除去した区(左から2番目)とアセビとササの両方を除去した区(左から3番目)で無処理区(左端)よりも相対量が高まる傾向が確認された(アセビ除去の効果で有意差:p<0.05)。一方、ササ除去の効果は見られなかった(有意差:p>0.05)。全体的に処理による統計的な差の有無は限定的(多重比較(Tukey 法)の結果:p>0.05)であったが、アセビ除去の効果が大きい傾向があった。

今後の展開

本研究では多様な林相の維持と下層植生の管理によって、土壌環境と菌類の機能的構成がどのように変わるかを示しました。特に下層管理は樹木の定着や更新を促進するための重要な手法であり、森林管理政策や生態系修復の実務に科学的根拠を提供できました。

一方、森林の回復そのものは、長期的な追跡調査と反復実験による確認が必要なことから、今後は長期的なモニタリングと多地点での再現性検証により、下層管理から土壌環境の変化を通じた森林の再生までの因果関係を解明することが必要です。また、それらの研究が発展すれば、都市近郊の森林管理や自然再生を両立へと繋げられるようなモデルの構築への展開が期待できます。

用語解説

注1 二次林

伐採、山火事、風水害などの影響をうけた森林が、その後、人為的に植林されたのではなく、土中の種子や根から自然に再生した森林のこと。

注2 有機物層

森林土壌のいちばん上にたまる落ち葉や細かくなった有機物あるいは腐植の層。

注3 ITS領域解析

カビ・キノコなど真菌の種類を識別するために用いられるDNAの領域(ITS1)を、専用の装置でまとめて読み取る手法。得られたDNAのデータ量から、どの真菌がどれくらい存在しているかを相対的な割合で推定できる。

注4 Shannon指数

群集の多様性を数値化した指標(多様性指数)の一つ。種類の数と偏り(均等さ)の両方を反映し、値が高いほど多様で、特定の種に偏っていない状態を示す。

注5 外生菌根菌

主にブナ科やマツ科などの樹木の根の表面付近に共生し、とくに窒素やリンといった栄養のやりとりを助ける菌のグループ。

注6 エリコイド菌根菌

アセビを含むツツジ科の植物と共生し、貧栄養な土壌での栄養獲得を補助する菌のグループ

注7 病原性菌類

植物に病気や病変を引き起こし、その組織から栄養を獲得する菌類。植物に寄生して生きるタイプの菌で、森林の更新やストレス環境では増減しやすい特徴がある。

謝辞

本研究は、公益財団法人市村清新技術財団「植物研究助成(課題番号:2023-20)」、文部科学省卓越研究員事業(課題番号:JPMXS0320200080)、日本学術振興会 科研費「基盤研究(課題番号:22H03793, 22K05692)」、神戸市「大学発アーバンイノベーション神戸 (課題番号:A22112)」の支援により実施されました。調査においては一般社団法人神戸ゴルフ俱楽部にご協力いただきました。

論文情報

タイトル

“Variations in soil compositions and fungal communities are linked to tree composition and understory management”

DOI

10.1007/s11355-025-00697-y

著者

徳本雄史(宮崎大学)、奥山颯太、末吉巧季、谷川晴宣、任睿、東若菜(神戸大学)

掲載誌

Landscape & Ecological Engineering

報道問い合わせ先

神戸大学総務部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者

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