自然界には、異なる種どうしが支え合う共生関係が数多く存在します。しかし、その多くは繊細なバランスの上に成り立っています。とくに、植物が果実を昆虫の“ゆりかご”として提供し、その見返りに送粉サービスを受ける関係では、植物と昆虫の双方が次世代を残すために「種子」を必要とするため、利害の対立が生じやすいと考えられてきました。

これまで、このような共生を維持する仕組みとして注目されてきたのは、卵が過剰に産みつけられた果実のみを早期に落とし、内部の幼虫を死に至らしめる“制裁”と呼ばれる仕組みです。しかし、この仕組みがすべての系に当てはまるわけではなく、別の安定化メカニズムについては十分に解明されていませんでした。

神戸大学大学院理学研究科の河島鈴さん(博士前期課程2年)と末次健司教授(兼 神戸大学高等学術研究院・卓越教授)らの研究グループは、身近な落葉低木ニワトコと、その種子食者であるケシキスイの一種との関係に着目しました。調査の結果、ニワトコは自家受粉や風による送粉ではほとんど結実できず、ケシキスイによる送粉に強く依存していることが明らかになりました。

さらに、幼虫が侵入した果実は成熟前にほぼすべて落下する一方で、幼虫は落下までに羽化可能な段階まで成長していることが確認されました。つまり、果実の落下は幼虫にとって致命的ではないことが分かりました。また、この早期の果実の落下は植物側にとっても、質の低い果実への投資を早期に打ち切ることにつながり、資源配分の面で有利に働いていることが示されました。

これらの結果から、果実の落下は植物と送粉者の双方に利益をもたらし、両者の利害が両立する進化的に安定した状態を生み出していると考えられます。本研究は、果実を幼虫のゆりかごとして利用する送粉共生において、新たな共生維持メカニズムを明らかにした重要な成果です。本成果は、3月6日午前0時(日本時間)に国際誌『Plants, People, Planet』に掲載されました。

ニワトコの果実をゆりかごとして利用するケシキスイ ©河島鈴(CC BY)

 

ポイント

  • ニワトコの開花期を通じて安定的に訪花していたのはケシキスイのみであり、ニワトコはこの甲虫に強く依存していることが明らかになった。
  • 幼虫が侵入した果実は成熟前に落下するが、幼虫は落下までに羽化可能な段階まで成長するため、果実の落下によって死亡することはない。
  • 幼虫が侵入した果実では、食べられずに残った種子の多くが未熟で質が低く、そのような果実を早期に落とすことは、限られた資源を健全な果実へ優先的に分配する戦略として機能している。
  • この「幼虫も植物も得をする落下」によって、両者の共生関係が安定的に維持されている。

研究の背景

多くの植物は光合成で養分を作り出すことができますが、他の生物の助けなしに生きているわけではありません。多くの被子植物は花粉や蜜などの報酬を提供し、その見返りとしてハナバチやチョウなどの動物に花粉を運んでもらっています。このような関係は送粉共生と呼ばれます。

ただし、共生関係は一方が過度に利益を得ると、もう一方の利益が損なわれやすい不安定な側面もあります。とりわけ不安定になりやすいとされるのが、植物が果実を送粉者の幼虫の発育場所として提供し、その代わりに送粉サービスを受ける関係性※1 です。幼虫が種子を食べて成長するため、植物側の負担が大きくなりやすいからです。

イチジクとイチジクコバチ、ユッカとユッカガなどは、この共生系の代表例として知られています。これらの系では、複数の卵が産みつけられた果実のみを途中で落下させ、内部の幼虫を死に至らしめる“選択的中絶”が、昆虫側の“儲け過ぎ”を抑える制裁※2として機能すると考えられてきました。一方で、すべての系でこの仕組みが働くわけではなく、別の安定化メカニズムの存在も示唆されていました。また、昆虫側が無駄な産卵や餓死などの自らの損失を防ぐ戦略については、これまでほとんど明らかにされていませんでした。

研究の内容

こうした背景のもと、神戸大学大学院理学研究科の河島鈴さん(博士前期課程2年)、末次健司教授、人間環境大学の久松定智准教授らの研究グループは、ニワトコとケシキスイ※3の関係に着目しました。ニワトコは日本各地の山林から里山にかけて生育する落葉低木で、春に多数の白い小花からなる花序をつけ(図1a)、6月頃に赤い果実を形成します。ケシキスイは古くから「ニワトコの種子を食べる甲虫」として知られてきましたが、この甲虫が送粉にどの程度関与しているのか、また両者の関係がどのように維持されているのかについては、これまで十分に明らかにされていませんでした。

そこで研究グループは、滋賀県犬上郡多賀町と兵庫県淡路市の2地域において、2020年から2025年にかけてニワトコの花序を訪れる昆虫を詳細に観察しました。その結果、開花期間を通して安定的に多数訪花していたのはケシキスイのみであり、他の昆虫の訪花頻度は極めて低いことが分かりました。

ケシキスイの成虫は花序上を盛んに歩き回りながら花粉を摂食し、その過程で口器や脚、体表に付着した花粉が雌しべの柱頭に触れることで送粉を担っていました(図1b)。また、メス成虫が子房表面に産卵する様子も確認されました。

次に、メッシュ袋で花序を覆って昆虫を完全に排除した区、自家授粉区、他家授粉区、さらにケシキスイのみが通過できる粗い網で花序を覆った区を設け、結実率を比較しました。その結果、自家授粉区や昆虫排除区では結実はほとんど起こらなかったのに対し、他家授粉区およびケシキスイを通した区では高い結実率が得られました。これらの結果から、ニワトコは同一個体の花粉では受精できない自家不和合性をもち、さらに風による送粉もほとんど期待できないことから、自然条件下ではケシキスイが実質的に唯一の送粉者であることが明らかになりました。

続いて、開花直後から果実成熟までの間に落下した果実と枝上に残った果実を回収し、幼虫の侵入状況を調べました。ニワトコは開花期が終わると同時に、未受精の“花(胚珠をもつ子房)”を大量に落下させる性質を示しますが、実際に幼虫が侵入していたのは、受精後に膨らみ始めた果実が大多数でした(図1c)。餌資源に乏しい未受精の“花”への侵入はごくわずかであり、ケシキスイ側が餓死を防ぐ行動を進化させていることが示されました。

さらに、幼虫が侵入した果実は受精済みであるにもかかわらず、ほぼ例外なく開花後約1〜2か月の間に落下していました。しかし、落下した果実から回収した幼虫の多くは正常に蛹化し(図1d)、最終的に成虫まで成長しました(図1e)。つまり、幼虫が侵入した果実は途中で落下するものの、その内部は幼虫にとって安全な“ゆりかご”として機能していることが明らかになりました。これは、果実の落下によって幼虫を死に至らしめる“制裁”とは異なる現象です。

一方、植物側の利益を検証するため、幼虫が侵入した果実に含まれる種子の発芽能力を調べたところ、幼虫に食べられずに残った種子の多くが発芽できないことが分かりました。つまり、ニワトコは成熟前に果実が落下することで、結果的に種子を失っていることになります。しかし、幼虫が侵入した果実中の食べられずに残った種子と、侵入していない果実中の種子の重量を落下時点で比較すると、前者の方が軽いことが明らかになりました(図2)。これは、ニワトコが質の低い種子のみを含む果実への資源投資を早期に打ち切っていることを示しています。さらに授粉実験から、ニワトコは利用可能な栄養や水、光といった資源が限られており、幼虫が侵入していない果実であっても、すべてを成熟させることはできないことも示されました。このような条件下では、幼虫が侵入した果実が成熟前に落下することは、限られた資源を健全な果実に優先的に配分する合理的な戦略といえます。

以上の結果から、ニワトコとケシキスイの関係では、果実の落下が両者にとって利益をもたらす重要な役割を果たしていることが明らかになりました。果実の落下が送粉者と植物の双方の利益につながることを実証的に示したのは本研究が初めてであり、進化的に不安定と考えられてきた共生関係が、どのように安定して維持されているのかを示す新たな仕組みを提示した重要な成果といえます。

 

図1. ニワトコとその訪花者         (a) 開花したニワトコの花序。
(b) 花粉を摂食するケシキスイ。
(c) ケシキスイの幼虫が発達中の果実に侵入した痕跡(矢印)。
(d) 落下した果実からケシキスイの幼虫が脱出したことにより、果実表面に形成された脱出孔(矢印)。
(e) 果実から脱出後、約3週間で羽化したケシキスイ。
スケールバー:5cm (a)、2mm (b–d)、1mm (e)。©河島鈴(CC BY)
図2. 種子重量の結果 両調査地点において、落下時点で、幼虫が侵入していない果実中の種子と比べて、幼虫が侵入した果実中の食べられずに残った種子は有意に軽かった。この結果は、果実の落下が、植物にとって質の低い種子のみを含む果実への資源投資を打ち切るという利点をもつことを示している。 ©河島鈴(CC BY)
図3. ニワトコとケシキスイの相互作用を示す模式図 多数のケシキスイがニワトコの開花花序に群がり、花粉の摂食、交尾や産卵を行う過程で花粉が運ばれる。発達中の果実に侵入した幼虫は内部で種子を摂食して成長する。開花から約1か月後、幼虫が侵入した果実は成熟前に落下し、内部からケシキスイの幼虫が脱出する。この時点で幼虫はすでに羽化可能な段階まで成長しており、脱出後は土中で羽化・休眠し、翌年の春にニワトコの花へ訪れる。一方、ニワトコにとっても、幼虫に食害された果実が成熟前に落下することで、限られた資源を質の高い果実へ効率的に配分できる。 ©河島鈴(CC BY)

注釈

※1 専門的な用語では、種子消費型送粉共生と呼ぶ。植物が種子を幼虫の餌として提供し、その見返りとして送粉サービスを受ける共生関係を指す。イチジクとイチジクコバチ、ユッカとユッカガなどが代表例である。

※2 共生関係において、一方のパートナーが過度に利益を得ようとした場合、もう一方が罰則的にその利益を減少させる仕組みを指す。典型例として、植物が幼虫による食害が多い果実のみを選択的に落とし、内部の幼虫を死亡させる現象が知られている。本研究では、この落果が幼虫を殺す制裁ではなく、植物と昆虫の双方に一定の利益をもたらす折り合いの仕組みとして機能している点が特徴である。

※3 ケシキスイ科およびヒゲボソケシキスイ科に属する小型甲虫の総称である。特に今回送粉者であることが明らかになったキイロチビハナケシキスイ属では、すべての種の幼虫がニワトコ属の種子を餌として成長することが知られている。

論文情報

タイトル

“The shared benefits of fallen fruits: A novel mechanism stabilizing a nursery pollination mutualism between Sambucus and kateretid beetles”

DOI

10.1002/ppp3.70175

著者

Suzu Kawashima(河島 鈴・神戸大学大学院理学研究科)・Hidehito Okada(岡田 英士・神戸大学大学院理学研究科)・Sadatomo Hisamatsu(久松 定智・人間環境大学環境科学部)・Kenji Suetsugu(末次 健司・神戸大学大学院理学研究科 / 神戸大学高等学術研究院)

掲載誌

Plants, People, Planet

報道問い合わせ先

神戸大学総務部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者

SDGs

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