神戸大学大学院医学系研究科の大谷淳二助教、宮西正憲教授、鈴木聡客員教授(昭和医科大学客員教授)、前濱朝彦客員教授(昭和医科大学教授)らは、がんの増殖・進展を促進するTEAD※1シグナルを活性化する新たな制御分子としてSAMD4※2を見いだし、その作用機序と関連する病態を初めて明らかにしました。これまではVGLL4※3が転写因子TEADと結合し、その働きを抑える因子であることは知られていました。本研究成果では、SAMD4がVGLL4のmRNAと結合しタンパク質発現を低下させ、結果としてTEADの転写活性を高めて、がんの進行を促進することを示しました。

今後、SAMD4を含むこの制御経路を標的とした新たながん治療法の開発につながることが期待されます。この研究成果は、4月21日に、Oncogene誌に掲載されました。

本研究の概要図 左)本研究で明らかになったがん増殖シグナルの制御機構の模式図
©Junji Otani, Oncogene 2026 (DOI: 10.1038/s41388-026-03778-w)(CC BY-NC-ND 4.0)
右) SAMD4B過剰発現によって肥大化したマウス肝臓(がん抑制遺伝子Nf2欠損条件)
©Junji Otani, Oncogene 2026 (DOI: 10.1038/s41388-026-03778-w)をもとに改変。 (CC BY-NC-ND 4.0)

ポイント

  • RNA結合タンパク質SAMD4がTEADシグナルを活性化することを発見した。
  • SAMD4が抑制因子VGLL4を発現抑制し、結果として、がんを増殖・進展させるTEAD活性を高める。
  • SAMD4–VGLL4–TEAD経路は、がんの進行メカニズムの解明や、新たな治療法の開発につながる。

研究の背景

がんの発症や進展には、細胞増殖や生存を制御するシグナル経路の異常が深く関与しています。中でも、転写因子TEADは、多くのがんで異常に活性化し、腫瘍の増殖や転移、薬剤耐性を促進することから、重要な治療標的として注目されています。TEADの働きを抑える因子としてVGLL4の存在が知られていましたが、その発現がどのように制御されているのかは不明でした。

研究の内容

本研究では、ヒトがん細胞株を用いて、全遺伝子を順に発現抑制する全ゲノムsiRNA※4スクリーニングを行い、TEADの遺伝子転写活性の制御因子を探索しました。その結果、RNA結合タンパク質SAMD4BがTEAD活性を強く促進する分子であることを見いだしました。

詳細な解析の結果、SAMD4Bに加え、配列のよく似たSAMD4Aも、TEADの抑制因子であるVGLL4のmRNA※5に直接結合し、その安定性を低下させるとともに翻訳を抑制することが明らかになりました。その結果、VGLL4タンパク質量が減少し、TEADに対する抑制が解除されることで、TEADによる遺伝子発現が活性化されることが分かりました。

さらに、がん細胞およびマウスモデルを用いた解析により、SAMD4の発現上昇は細胞増殖や腫瘍形成を促進することが確認されました。特に、肝臓でSAMD4Bを過剰発現させたマウスでは、がん抑制遺伝子Nf2欠損の背景において、早期から肝内胆管がん※6が発症しました。また、ヒト胆管がん組織においてもSAMD4Bの発現上昇が認められました。

これらの結果から、SAMD4はVGLL4を介してTEADシグナルを活性化し、がんの進展を促進する新たな制御因子であることが明らかになりました。

今後の展開

本研究により、RNAの安定性や翻訳の制御がTEADシグナルの調節に大きな影響を与えることが明らかになりました。今後は、SAMD4によるVGLL4制御の詳細な分子基盤や、他の標的mRNAの有無について解析を進めることで、がんにおけるRNA制御機構の理解がさらに深まると考えられます。

また、この経路の異常とがんの進展や薬剤応答との関連について検討することで、新たな治療法の開発や、患者さん一人ひとりに適した治療の実現につながることが期待されます。

用語解説

※1 TEAD (TEA domain transcription factor):

DNAに結合して遺伝子の働きを調節するタンパク質。細胞増殖や生存に関わる遺伝子の発現を制御し、多くのがんで活性化している。

※2 SAMD4 (Sterile Alpha Motif Domain–containing protein 4):

特定のmRNAに結合し、その安定性や翻訳を調節するタンパク質。本研究でVGLL4の発現を低下させることを示した。ヒトではSAMD4AとSAMD4Bの2つの相同遺伝子がある。

※3 VGLL4 (Vestigial-like family member 4):

TEADに結合してその働きを抑えるタンパク質。がん抑制因子として機能することが知られている。

※4 mRNA (messenger RNA):

DNAの情報をもとに作られ、タンパク質の設計図として働くRNA分子。

※5 siRNA (small interfering RNA):

特定のmRNAに結合し、その遺伝子発現を抑制するために用いられるRNA分子。

※6 肝内胆管がん:

胆管がんの一種で、肝臓内の胆管に発生する。予後不良の難治性がんとされている。

謝辞

本研究は、日本学術振興会(JSPS 科研費)基盤研究(A)(課題番号 JP21H04806、研究代表者:鈴木聡)、基盤研究(B)(課題番号 JP25K02518、研究代表者:鈴木聡)、基盤研究(C)(課題番号 JP23K06400、研究代表者:大谷淳二)、日本医療研究開発機構(AMED)(課題番号 JP23ama221117(P-PROMOTE)、研究代表者:鈴木聡)、医療分野研究開発推進事業(AMED-CREST)(課題番号 JP24gm1710007、研究代表者:鈴木聡)、東京医科歯科大学難治疾患研究所(研究代表者:鈴木聡)、持田記念医学薬学振興財団(研究代表者:西尾美紀)、鈴木謙三記念医科学応用研究財団(研究代表者:西尾美紀)、神戸大学メディカルトランスフォーメーション研究センター(大谷淳二・西森誠)からの支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル

“SAMD4 represses VGLL4 mRNA to activate TEAD and promote cancer progression”

DOI

10.1038/s41388-026-03778-w

著者

Junji Otani, Miki Nishio, Riko Tokita, Hiroki Hikasa, Makoto Nishimori, Shingo Dan, Isao Naguro, Hidenori Ichijo, Masanori Miyanishi, Takehiko Sasaki, Hiroshi Nishina, Tak Wah Mak, Tomohiko Maehama and Akira Suzuki

掲載誌

Oncogene

報道問い合わせ先

神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者

SDGs

  • SDGs3