神戸大学大学院医学系研究科臨床ウイルス学分野の有井潤准教授(現・広島大学大学院医系科学研究科教授)、森康子教授らは、藤田医科大学および米国テキサス大学との国際共同研究により、ヒトの抗ウイルス因子APOBEC3から逃れる力の違いが、ヒトヘルペスウイルス6Aとヒトヘルペスウイルス6Bの病態の違いを生み出す重要な要因であることを明らかにしました。これは、近縁でありながら異なる病態を示す理由を、宿主とウイルスの攻防という視点から示した成果であり、ヘルペスウイルス感染症の理解と治療法開発の前進が期待されます。この研究成果は、5月1日付でNature Communicationsに掲載されました。

©有井潤(CC BY)

ポイント

  • 近縁なヘルペスウイルスで病態が異なる理由の一端を解明した。
  • 病原性の高いHHV-6Bは、ウイルスタンパク質U28を使ってAPOBEC3の働きを抑えることを明らかにした。
  • 宿主とウイルスの攻防が病態の違いを生む可能性を示し、新たな治療戦略につながる成果である。

研究の背景

ヒトに感染するウイルスの中には、はっきりとした病気を引き起こすものがある一方で、ほとんど症状を示さずに長く体内に潜伏するものもあります。ウイルスがどの細胞に感染できるか、細胞内でどれだけ効率よく増えるか、さらに宿主の免疫防御をどのように回避するかは、病気の起こりやすさや重症度を左右する重要な要因と考えられています。しかし、こうした要因だけでは、よく似たウイルスどうしで病態が大きく異なる理由を十分に説明できませんでした。

ヒトヘルペスウイルス6Aと6B(HHV-6AとHHV-6B)※1は、成人の多くが感染しているありふれたウイルスです。この2種類のウイルスは遺伝情報の9割以上を共有する近縁なウイルスですが、ヒトで示す病態には大きな違いがあります。HHV-6Bは突発性発疹の原因として知られ、免疫が低下した患者さんでは脳炎や肺炎などの重い合併症を起こすことがあります。一方、HHV-6Aはヒトでは一般に症状を示さないと考えられています。これほどよく似たウイルスでありながら、なぜ病原性に違いが生じるのかは、よく分かっていませんでした(図1)。

図1. HHV-6Bは突発性発疹や脳炎などの原因として知られている一方、HHV-6Aが引き起こす病気は、まだ十分には分かっていない。 ©有井潤(CC BY)

これまで、ウイルスが細胞に侵入する際に利用する受容体の違いが、その性質の違いに関わると考えられてきました。しかし、受容体を持つ細胞でもHHV-6Aが増えにくい場合があることから、細胞への侵入後に働く別の仕組みが存在すると考えられました。そこで本研究では、ウイルスが細胞内に入った後の過程に注目し、宿主細胞が本来もつ抗ウイルス因子が、HHV-6AとHHV-6Bの増え方や病態の違いに関わっているのではないかと考え、研究を進めました。

研究の内容

本研究では、よく似た二つのヘルペスウイルスであるHHV-6AとHHV-6Bについて、なぜ病態に違いが生じるのかを調べました。まず、両ウイルスの増えやすさが異なるT細胞株を比較したところ、細胞が本来もつ抗ウイルス因子「APOBEC3」※2の量に違いがあることが分かりました。APOBEC3は、ウイルスの遺伝情報に変異を入れることで感染を抑える防御因子です。HHV-6Bが増えやすい細胞で実際に解析すると、HHV-6Aではウイルスゲノム※3に多数の変異が入り、増殖が強く抑えられていましたが、HHV-6Bではこうした変異は少なく、増殖が保たれていました(図2)。さらに、APOBEC3の一部を抑制するとHHV-6Aは増えやすくなり、ウイルスゲノムに入る変異も減少しました。これらの結果から、HHV-6AはAPOBEC3の作用を強く受ける一方、HHV-6Bはそれを回避していることが明らかになりました。

次に、HHV-6BがどのようにしてAPOBEC3から逃れているのかを調べたところ、ウイルスがもつU28※4というタンパク質が重要な役割を果たしていました。HHV-6B U28は、複数のAPOBEC3タンパク質と結合し、それらを本来働く核の中から細胞質へ移動させ、さらに量そのものも減少させていました。つまりHHV-6Bは、U28を使って宿主の防御因子を無力化し、自分のゲノムが傷つくのを防いでいたのです。実際、U28の発現を抑えると、HHV-6B感染細胞におけるAPOBEC3の量が回復し、ウイルスゲノムに変異が増えました(図2)。

さらに興味深いことに、HHV-6AのU28タンパク質そのものにもAPOBEC3を抑える働きはありましたが、感染細胞の中で作られる量がHHV-6Bより少ないことが分かりました。このため、HHV-6AではAPOBEC3を十分に抑えきれず、ゲノムに変異が蓄積しやすいと考えられます。実際、患者さん由来のウイルスゲノムを調べると、HHV-6Bでは全体としてゲノムの安定性が保たれていたのに対し、HHV-6Aでは多くの変異が蓄積していました(図2)。これらの結果は、APOBEC3から逃れる力の差が、HHV-6AとHHV-6Bの性質や病態の違いを生み出す重要な要因であることを示しています。

図2. HHV-6AはAPOBEC3の作用を強く受ける一方、HHV-6Bはこれを回避する。その結果、HHV-6BはAPOBEC3が働く細胞でもゲノムを比較的安定に保ち、増殖できる。 ©有井潤(CC BY)

今後の展開

本研究により、ウイルスそのものの性質だけでなく、宿主がもつ抗ウイルス因子をウイルスがどこまで回避できるかが、病態の違いを生み出す重要な要因であることが示されました。今後、HHV-6Bが利用するU28の働きやAPOBEC3との相互作用をさらに詳しく調べることで、ウイルスの回避戦略を妨げる新たな治療法の開発につながる可能性があります。また、本研究で示された「宿主とウイルスの攻防が病態の違いを生む」という考え方は、他のヘルペスウイルスや関連する感染症の病原性を理解するうえでも、新しい視点を与えることが期待されます。

用語解説

※1 ヒトヘルペスウイルス6A・6B(HHV-6A・HHV-6B)

多くの人に感染しているヘルペスウイルスの仲間。HHV-6Bは小児の突発性発疹のほか、脳炎などの原因となることがある。一方、HHV-6Aがヒトで直接引き起こす病気は、まだ十分には分かっていない。

※2 APOBEC3

細胞がもつ抗ウイルス因子。ウイルスの遺伝情報に変異を入れて増殖を抑える働きをもつ。ヒトでは7種類が知られている。

※3 ゲノム

生物やウイルスの設計図となる遺伝情報全体。

※4 U28

HHV-6AおよびHHV-6Bがもつウイルスタンパク質の一つ。本研究では、HHV-6Bが宿主の抗ウイルス因子APOBEC3の働きを抑えるために利用することが示された。

謝辞

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP20H03496、JP23K18589)、文部科学省 卓越研究員事業、日本科学技術振興機構 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2148)、日本医療研究開発機構 新興・再興感染症研究基盤創生事業「単一細胞解析によるヘルペスウイルス持続感染の分子基盤の解明」、同・革新的先端研究開発支援事業「核内膜プロテオスタシスの制御」、武田科学振興財団、MSD生命科学財団、シオノギ感染症研究振興財団、日本ワックスマン財団、および化学及血清療法研究所などの支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル

“A viral APOBEC3 antagonist distinguishes HHV-6A from HHV-6B”

DOI

10.1038/s41467-026-71951-6

著者

 Jun Ariia,b*+, Salma Aktara,c,d+, Jing Rin Huanga, Mansaku Hiraia, Yoshiki Kawamurae,f, Hiroki Miurae, Bochao Wanga, Satoshi Nagamataa, Mitsuhiro Nishimuraa, Tetsushi Yoshikawae, Reuben S. Harrisc,d and Yasuko Moria

aDivision of Clinical Virology, Center for Infectious Diseases, Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, Hyogo, Japan 
bGraduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University 
cDepartment of Biochemistry and Structural Biology, University of Texas San Antonio, San Antonio, TX 78229, USA 
dHoward Hughes Medical Institute, University of Texas San Antonio, San Antonio, TX 78229, USA 
eDepartment of Pediatrics, Fujita Health University School of Medicine, Toyoake, Aichi, Japan 
fDepartment of Pediatrics, Fujita Health University Okazaki Medical Center, Okazaki, Aichi Japan

+ The authors contributed equally. 
* Correspondence.

掲載誌

Nature Communications

報道問い合わせ先

神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者

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