神戸大学大学院工学研究科の塚本昌彦教授らの神戸大学の3学部が協力する学際的研究グループは、人工知能(AI)を搭載した眼鏡型デバイス「スマートグラスAI」がもたらすプライバシー問題に対処するための包括的フレームワーク「6層・21施策」モデルを策定し、政策提言(ガイドライン)として発表しました。
本研究は、撮影等のセンシング行為の不可視化やAIによる即時推論といった「スマートグラスAI」に固有のプライバシー課題を明らかにし、これらの問題に技術・制度・社会的信頼といった多角的な観点から、「見える」「知らせる」「守る」「制御する」「忘れる」「信頼をつくる」という6つの層を通じて対処する、21の施策によるガイドラインを提示したものです。今後、ポストスマホ時代における安全なIT社会の実現と、「スマートグラスAI」の産業的・社会的受容の飛躍的な促進が期待されます。

ポイント
- 「スマートグラスAI」特有のプライバシーリスクの体系化:センシング行為の不可視性、AIによる即時推論、利用者と周囲(第三者)との構造的な不均等、生活空間への常時浸透という4大リスクを複合的脅威として整理した。
- 世界でも早い対処提案として、多層的防護アプローチ「6層・21施策」ガイドラインの提案: 物理的・電子的対策、エッジ処理、コンテキスト制御、データ最小化(忘却)、独立監査等、6つの層にわたる21の具体的な施策を「設計地図」のガイドラインとして構造化。
- 実在する主要5機種の適合度分析:「Ray-Ban Meta」などの最新スマートグラス製品や、カメラ非搭載の縮退設計モデル「Even G2」に対し、本フレームワークを適用したベンチマーク調査を併せて公開。
研究の背景
近年、Meta社やEssilor Luxottica社によるRay-Ban Metaシリーズの急速な普及に代表されるように、スマートグラスは「ポストスマートフォン時代」の最有力プラットフォームとして市場に定着しつつあります。さらに、AI技術の飛躍的進化によって、周囲の環境情報をその場で高度に推論する「スマートグラスAI」が実現しています。
その一方で、これらは従来の眼鏡と見分けがつかない外観を持つため、第三者(bystander)から「いつ撮影・解析されているか分からない」という深刻なプライバシー侵害の懸念を生んでいます。実際、リアルタイム顔認識による通行人のドクシング(個人特定)実証や、委託先業者によるクレジットカード・プライベート映像の日常的レビューといった実例が2024年~2026年にかけて相次いで顕在化し、米・英・EUを中心に法規制やデータ保護機関による調査が活発化しています。技術開発を促進しつつ、個人の自律性や安全な社会空間を守るための、体系的な設計基準と政策提言が強く求められていました。
研究の内容
本研究では、「スマートグラスAI」が生活空間に浸透することで生じるプライバシー問題に対し、個別的な技術対策に留まらない包括的防護フレームワーク「6層・21施策」のガイドラインを提案しました。このガイドラインは、複数の学術的基盤に基づくフライバシーの重要性の分析も含んでおり、各層の施策がどう理論的に根拠づけられるのかについても論じています。
本提言の特徴は、すべての機能を備えたフルスペック機だけでなく、カメラやマイクをあえて搭載しない(その機能を厳しく限定した)縮退設計デバイスに対しても、どの施策を優先・省略すべきかを示す設計地図として機能する点にあります。
今後の展開
本モデルは、ポストスマホ時代におけるウェアラブル機器の開発やAI産業の国際基準ロードマップとなることを目指しています。今後は、本フレームワークをもとに、個人の自律性、心理的安心、経済活動、政治的自由、知識生産といった多元的な学術的指標に基づいたデバイス評価手法の整備を進めます。さらに、中国情報通信研究院(CAICT)が発表したスマートグラスガイドライン等との比較・相違点の検討を重ね、国際的な開発プロセスと連携しながら、設計・実装現場への応用とモデルのアップデートを図ってまいります。
謝辞
本研究は科研費 基盤研究A「スマートグラスAIのためのプライバシ制御技術」(22H00550, 2022-2026)によるものです。
なお、神戸大学 生命・自然科学ELSI研究プロジェクト(KOBELSI)からも支援を得ています。
This research was supported by JSPS KAKENHI Grant-in-Aid for Scientific Research (A), "Privacy Control Technology for Smart Glass AI" (22H00550, 2022–2026). Additional support was provided by the Kobe University Life and Natural Science ELSI Research Project (KOBELSI).
論文情報
タイトル
「スマートグラスAIのプライバシ制御のための政策提言:6層モデル・21施策のガイドライン」
DOI
(2027年3月、紙媒体の刊行時に付与の予定)
※神戸大学大学院人文学研究科倫理創成プロジェクト『21世紀倫理創成研究』2026.7受理、2027.3掲載予定
著者
塚本昌彦、塚原東吾、新川拓哉、喜多伸一、寺田努、小澤誠一、森井昌克、丸山栄治、大畑浩志(神戸大学)
報道問い合わせ先
神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)












