茨城県北部に存在する日立鉱山には約5.3億年前に生成された日本最古の鉱床があります (Nozaki et al. 2014)。日立鉱山不動滝鉱床中の鉱石を精査した結果、新鉱物を発見し、これを「日立鉱」と命名しました。日立鉱は極微小で、重元素を含むため、結晶構造の決定が困難でしたが、放射光 (注1) を用いることで構造解析に成功しました。

このような新発見と、新たな鉱物結晶学的考察を行った研究成果は、鉱物学分野で最も権威ある英国の学術雑誌「Mineralogical Magazine」に掲載されました (2019年7月6日受理)。

発表のポイント

  • 日本最古の茨城県日立鉱山不動滝鉱床から、新鉱物が発見された。
  • 茨城県から新鉱物が発見されたのは初めて。
  • 新鉱物「日立鉱」の化学組成・結晶構造から、鉱物の分類について新しいシリーズを提案。さらなる未知鉱物の発見の手がかりを得る。
  • この発見は、地球科学的見地から、鉱床の生成当時の環境の推定・制約に役立ち、さらに新規材料物質開発への寄与が期待される。

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図1 (a) 鉱物中の新鉱物「日立鉱」 (b) 新鉱物「日立鉱」の結晶構造図

詳細な説明

国立大学法人東北大学大学院理学研究科 栗林貴弘准教授、同大学総合学術博物館 長瀬敏郎准教授、国立研究開発法人海洋研究開発機構 野崎達生グループリーダー代理*、国立大学法人九州大学 石橋純一郎准教授、国立大学法人富山大学 清水正明名誉教授、独立行政法人国立科学博物館 門馬綱一研究主幹による共同研究グループは、日本最古の日立鉱山不動滝鉱床 (Re-Os放射性同位体による年代測定から約5.3億年前に形成; Nozaki et al., 2014) の鉱石から新鉱物を発見し、「日立鉱」(hitachiite, Pb5Bi2Te2S6) と命名、その鉱物を記載しました。記載内容については、国際鉱物学連合の新鉱物、鉱物の記載や分類に関する委員会において審査され、2018年6月に承認を受けました。茨城県からの新鉱物の発見は初めてであり、鉱物名は、鉱物の産地である日立鉱山にちなんでいます。本研究には、国立大学法人岡山大学加瀬克雄名誉教授が1971-1973年にかけて日立鉱山不動滝鉱床の坑道内から採取した鉱石試料を使用しました。

*神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻 客員准教授

研究内容

鉱物の分類は、化学組成と結晶構造の類似性でグループ化されます。発見された日立鉱の理想化学式はPb5Bi2Te2S6であり、申請時、日立鉱は硫化鉱物、硫テルル蒼鉛鉱グループ (注2) に分類されました。現在、このグループの分類に関しては、国際鉱物学連合において再検討が進められています。関連するいくつかの鉱物をPb-Bi-(Te+S)の三角図にプロットすると図2のようになり、日立鉱の発見により、化学組成が直線的な関係になる鉱物のシリーズの存在がより明確になりました (図2(a))。この関係性については、これまでにも議論されてきましたが、端成分の鉱物の結晶構造以外、まだ決定されていなかったため、明確な結論が出せない状況でした。そのため、新鉱物「日立鉱」の結晶構造を決定できれば、この問題に対し大きな前進となることから、本研究では、結晶構造の決定を試みました。

図2 (a) Pb-Bi-(Te+S)の三角図, (b) 新鉱物「日立鉱」の組成のばらつき

発見された日立鉱は重金属元素 (PbとBi) を含み、かつ、極微小サイズ (最大で100 μm程度) でしか見出されていないため、実験室での結晶構造の決定は困難でした。そのため、茨城県つくば市にある放射光共同利用施設フォトンファクトリー (大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構) を使用して、放射光単結晶X線回折実験を行うことにより、日立鉱の結晶構造を決定することに成功、新しいタイプの結晶構造であることが判明しました。

化学組成と結晶構造に基づく考察 (図3) から、前述の鉱物のシリーズはBi2Te2S・nPbS (n = 5が日立鉱) で表されることを示しました。この情報は、これまでの硫テルル蒼鉛鉱グループの分類を修正するものであり、日立鉱の発見は、鉱物分類に新たな知見を加える非常に重要な発見です。

図3 硫テルル蒼鉛鉱グループの鉱物の結晶構造の比較

(a) 都茂鉱 (b) 新鉱物「日立鉱」 (c) 硫テルル蒼鉛鉱
細線は単位胞を表し、数字 (24,27,30Å) はc軸方向の周期を表す。ABCの記号は、元素の積み重なり方を示すものであり、元素の層のタイプを表す。Tetradymite unitとgalena unitは、サンドイッチ構造を作るユニットで、日立鉱(b)は、tetradymite unitにgalena unitが5枚挟まれた構造である。(c)が最も基本となる硫テルル蒼鉛鉱で、サンドイッチの中身がない構造とみなせる。(a)の都茂鉱では、日立鉱と異なるユニットが存在する。

今後の展望

前述の式に基づくとn = 3および4の鉱物は未発見であり、新たな鉱物種として発見される可能性が残されています。現在の硫テルル蒼鉛鉱グループには、いくつかのシリーズが混在し、分類上複雑な状況であるため、今回の発見も含めて、より体系的な分類を進めていく必要があります。日立鉱の結晶サイズは極微小であることから、これまで見過ごされてきました。日立鉱山不動滝鉱床は、海底熱水鉱床 (注3) を起源とする鉱床であることから、海底で形成される熱水鉱床には日立鉱が普遍的に存在すると考えられ、地球科学的な見地から、鉱床の生成環境 (鉱物の沈殿条件) の推定・制約に役立ちます。

また、材料科学的には、日立鉱は、トポロジカル絶縁体・超伝導体物質として非常に注目されている硫テルル蒼鉛鉱 (Bi2Te2S) と、化学組成ならびに結晶構造の両面で密接に関連します。結晶構造の違いは、化学物質の物理的特性に影響を与える可能性が高く、これまでに日立鉱と同形の化合物 (注4) はまだ合成されていないことから、硫テルル蒼鉛鉱グループに関係する新規材料物質の開発に寄与する可能性があります。

謝辞

本研究は、高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリー共同利用プログラム (Proposal No.2017G137) によってサポートされました。

用語説明

(注1) 放射光
高エネルギーの電子など荷電粒子が磁場の中で、ローレンツ力などによって曲げられるときに、放射される電磁波を放射光と呼ぶ。赤外線からX線にかけての幅広い波長の光を含む。本研究では、このうちX線の波長領域の電磁波を使用している。放射光施設では、実験室に比べて圧倒的に強力なX線を利用することができ、最先端の研究活動に利用されている。「はやぶさ」により持ち帰られた岩石片も高エネルギー加速器研究機構内のフォトンファクトリーで詳しく調べられた。
(注2) 硫テルル蒼鉛鉱グループ
鉱物は、化学組成をベースに分類されており、クラス(級)からシリーズ(系)までのさまざまな階層が用いられる。これらの階層は、化学組成の元素の存在比や結晶構造の類似性などを考慮して決められる。その階層の一つがグループ(族)であり、グループ名は、それら鉱物の中で最も古く発見された鉱物名を冠として用いられることが多い。硫テルル蒼鉛鉱(Bi2Te2S)は、1831年に発見され、のちに、現在の分類方法に従って、硫化物鉱物に分類、硫テルル蒼鉛鉱グループとしてまとめられている。さらにグループの中は、より細やかな化学組成や結晶構造の類似性からシリーズと呼ばれるものに分類される。この規則に従うと、日立鉱は、硫化鉱物の硫テルル蒼鉛鉱グループ内硫テルル蒼鉛鉱シリーズに属する。
(注3) 海底熱水鉱床
海洋底の地下深部に存在する岩石中の「水」がマグマなどにより熱せられることで、その岩石中に含まれる有用元素は、熱せられた水 (熱水) の中に溶け込んでゆく。その熱水が、海底に噴出することによって、急激に冷やされると熱水中に存在していた有用元素は、熱水中に溶けていられなくなり、海水と反応して鉱物として晶出する。このような過程で、有用元素が濃集した鉱物が多量に存在する場所を海底熱水鉱床と呼ぶ。火山国である日本列島付近には、海底熱水鉱床が比較的浅い場所に多数存在しており、その調査・研究・開発が進められている。東北地方の秋田県北鹿地域には、「黒鉱」と呼ばれる大規模な海底熱水鉱床に由来する鉱床が存在しており、「黒鉱kuroko」という日本語の読みは、「津波tsunami」と同様、世界的にそのまま通じる国際学術用語として普及している。
(注4) 同形の化合物
同形とは、結晶構造が同じで化学組成が異なる鉱物同士の関係をいう。例えば、方解石はCaCO3という化学組成で表されるが、このCaの部分は、電荷が等しく、イオン半径が類似した元素(この鉱物の場合は、MgやFe, Mnなど)で置き換えることができ、それぞれ個別の鉱物種として存在する。これら鉱物では、幾何学的な原子の配置様式(結晶構造)は変わらない。日立鉱は、硫テルル蒼鉛鉱グループに属すると前述したが、このグループに属するBiTeやBi2Te3, Bi2Te2Seなどはトポロジカル絶縁体・超伝導体として物質材料科学的に着目されている鉱物である。日立鉱の結晶構造では、それら鉱物の基本となる部分構造と、それとは異なる構造とが、サンドイッチされたような構造であり、新しいタイプのサンドイッチの中身(構造タイプ)であることが判明している。そのため、この中身をコントロールすることで、同形の物質において、材料の特性を変化させたり、新しい物理的な特性を発現させたりする可能性を秘めている。

論文情報

タイトル
Hitachiite, Pb5Bi2Te2S6, a new mineral from the Hitachi mine, Ibaraki Prefecture, Japan
DOI
10.1180/mgm.2019.45
著者
T. Kuribayashi, T. Nagase, T. Nozaki, J. Ishibashi, K. Shimada, M. Shimizu and K. Momma
掲載誌
Mineralogical Magazine

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