神戸大学先端膜工学研究センターの松山秀人教授、吉岡朋久教授らの研究グループは、親水性シリカ※1超薄層を高分子多孔膜※2の表面に形成した油水分離膜の開発に成功しました。

油分で汚染された廃水の清浄化は、世界的に不足が叫ばれている水資源確保の面から非常に重要です。しかし廃水中の油滴のサイズが小さい場合は処理が難しく、有効な手法が見出されていませんでした。

本研究で開発した膜を用いると、高速の水透過と高い油分の阻止が達成できます。またこの膜は、油分の付着による性能劣化が起こりにくく、様々な種類の油分で汚れた廃水の清浄化に広範囲に適用できます。

この研究成果は、2019年10月3日に、国際学術雑誌「Journal of Materials Chemistry A」にオンライン掲載されました。

ポイント

  • 親水性シリカの超薄層を多孔膜上に形成することで、油分で汚染された水を清浄化できる高性能分離膜の開発に成功。
  • 超薄シリカ層は多孔膜の細孔を閉塞していないため、油分汚染水の清浄化速度が極めて速く、大量の汚染水処理が可能。
  • 開発した膜は、ナノメートル※3オーダーの微細な油滴を99.9%以上カットし、また膜表面への油分の付着が起こりにくい性質を有する。

研究の背景

現在、油成分をエマルション※4として含む産業廃水やシェールオイル随伴水、あるいは油流出事故により汚染された海水など、油分で汚染された廃水に対して、有効に油分を分離し、水を清浄化する技術が強く望まれています。2025年には世界の人口の2/3が水不足になるという予測もあり、廃水の清浄化による水の再利用に大きな注目が集まっています。

従来の油分汚染水の処理方法である凝集法や空気浮上法では、直径20マイクロメートル以下の微小な油滴の分離が難しく、清浄化が不十分でした。一方、膜分離法はその省エネルギー性のため、注目を集めていますが、油分汚染水処理では油滴が細孔を塞ぐため水の透過が減少するといった問題がありました。また膜表面へのタンパク質などの付着による性能低下も問題でした。これらの理由から、ナノメートルオーダーの超微細油滴を効率良く確実に分離でき、かつ高い水透過性を持った高機能性分離膜の開発が求められていました。

研究の内容

表面修飾によりプラスの電荷を与えた多孔膜に、マイナス電荷を有するシリカ源を反応させることで、多孔膜の表面に約10ナノメートルの厚さの超薄シリカ層を形成することに成功しました (図1)。

図1 多孔膜表面への親水性シリカ薄層形成法の概念図と表面の電子顕微鏡観察結果

超薄シリカ層は親水性であるため、その表面は水によく濡れます。そのため、開発した膜の表面には薄い水の層が形成され、油を弾きます。このように作製された膜を用いて油滴が分散した水を処理すると、水は膜を透過しますが、油滴は膜を透過できません。開発した膜を使うことで、油で汚れた廃水から油分を分離し、きれいな水を得ることができます。

超薄シリカ層は多孔膜の細孔を閉塞していないため、開発した膜は極めて高速で水を透過できます。水の透過には圧力を付加する必要はなく、わずか10センチメートルの高さの水位差 (約0.01気圧) があれば、重力によって透過します。油滴を99.9%以上阻止するとともに、1気圧の圧力差のもとで1m2面積の膜あたり1時間に6000リットルの廃水を処理できます。数10ナノメートルの極小の油滴も阻止でき、様々な種類の油分で汚染された水に対して優れた分離性能を有します (図2)。

図2 開発した膜で処理する前 (左) と後 (右) の油滴分散液の状態

また、開発した膜には油滴の付着がほとんど起こらず、簡単な洗浄によって油滴が容易に膜表面から剥がれます (図3)。従って従来の膜分離法で問題であった油滴の細孔閉塞もほとんど起こりません。さらに開発した膜の表面は、界面活性剤やたんぱく質に対しても汚れにくい性質を有していることが確認されました。

図3 開発した膜表面への油滴の付着性

今後の展開

今回の研究により得られた膜は、ベースとなる多孔膜の細孔を制御することによって、様々なサイズの油滴の除去に適用可能であることから、産業廃水をはじめとした種々の油分汚染水の清浄化への利用が期待できます。

油で汚染された水の浄化は、地球規模の水環境問題の解決に不可欠な技術で、水不足問題の解決への貢献が期待されています。今後はこの膜の実用化に向けて、更なる高性能化を進めます。

用語解説

※1 シリカ
二酸化ケイ素(SiO2)化合物の総称。その表面は親水性。
※2 多孔膜
通常数ナノメールから100ナノメートル程度の微細な孔がある膜。不純物を阻止して水を浄化する水処理膜としてよく用いられる。
※3 ナノメートル
10-9メートル。1マイクロメートルの1000分の1。
※4 エマルション
液体の中に、混ざり合わない他の液体の滴が分散している溶液。エマルジョンと表記されることもある。

論文情報

タイトル
An ultrathin in situ silicification layer developed by electrostatic attraction forced strategy for ultrahigh-performance oil-water emulsions separation
DOI
10.1039/C9TA07988B
著者
Lei Zhang, Yuqing Lin, Haochen Wu, Liang Cheng, Yuchen Sun, Tomoki Yasui, Zhe Yang, Shengyao Wang, Tomohisa Yoshioka, Hideto Matsuyama
掲載誌
Journal of Materials Chemistry A

関連リンク

研究者

SDGs

  • SDGs6
  • SDGs12