岡山大学異分野基礎科学研究所の長尾遼特任講師と神戸大学大学院理学研究科の秋本誠志准教授の共同研究グループは、理化学研究所環境資源科学研究センターの堂前直ユニットリーダーらと共に、強光下における珪藻Phaeodactylum tricornutumの集光性色素タンパク質FCPの発現および時間分解蛍光分光法(注2)を用いた励起エネルギー伝達機構の解析に成功しました。この結果から、Phaeodactylumは強光によりFCPの分子構造および励起エネルギー伝達経路の調節を行い、エネルギー消光を誘導することが明らかになりました。

本研究成果は、「珪藻は強光ストレスを受けた際、どのようにして集光性色素タンパク質FCPを調節し、機能させるのか?」、という問いに対して知見を与えるものです。この光応答メカニズムは珪藻にとって重要な生存戦略の一環であるかもしれません。

本研究成果は12月4日、欧州の科学雑誌「Biochimica et Biophysica Acta - Bioenergetics」にオンラインで掲載されました。

ポイント

  • 集光性色素タンパク質(注1)は、光合成に必要な光エネルギーを集め光化学系に供給する重要な役割を持つ一方で、過剰な光エネルギーを光合成には使わずに熱として散逸する役割(消光)を有します。
  • 集光性色素タンパク質が持つこの分子機構は陸上植物では広く知られていますが、褐色を呈する珪藻の集光性色素タンパク質であるフコキサンチン-クロロフィル結合タンパク質(FCP)の強光に応答する分子機構は不明でした。
  • 強光にさらされた珪藻Phaeodactylum tricornutumからFCPを調製し、生化学および分光学分析を行った結果、FCPのタンパク質および色素組成が大きく変わることを見出しました。さらに、色素間の励起エネルギー伝達機構も大幅に変化し、エネルギー消光が誘導されやすくなりました。
  • 珪藻FCPの分子調節機構は、強光に対する防御策として機能することを示唆しました。

発表内容

現状

光合成とは、太陽の光エネルギーを利用して水・二酸化炭素から炭水化物や酸素を合成する反応です。光化学系I・光化学系IIと呼ばれる膜タンパク質複合体が光合成反応の中心であり、光エネルギーを有用な化学エネルギーへと変換する役割を担います。光合成生物種は共通する光化学系タンパク質を有しています。一方、光化学系タンパク質に結合し、光エネルギーを供給する集光性色素タンパク質は、極めて多様性に富んでいます。その結果、光合成生物は見た目の色の違いが生じます。水域に存在する光合成微細藻類は、陸上植物と異なる進化を遂げており、それぞれの生存環境に応じて異なる集光性色素タンパク質を持ちます。太陽光エネルギーは水中の深度により残存する波長成分が異なるため、生育場所を確保するために独自の集光性色素タンパク質の進化を遂げる必要があったと考えられています。淡水域、汽水域、海水域に広く分布する珪藻は、重要な一次生産生物として知られています。紅藻を細胞内へ取り込んで進化した二次共生藻と考えられており、褐色を呈しています。その原因は集光性色素タンパク質であるフコキサンチン-クロロフィル結合タンパク質(FCP)にあります。FCPは太陽光エネルギーの中の青色から緑色の光を吸収することに優れており、これは植物が持つ集光性色素タンパク質の吸収領域(赤色と青紫色)と大きく異なります。

光合成生物にとって太陽光エネルギーは欠かせないものです。しかし、過剰な光エネルギーにより死滅の可能性があります。一日のうち、太陽光強度は絶えず変動します。陸上植物では日照状況により集光性色素タンパク質の組成や色素成分を調節することが知られています。この調節メカニズムは、過剰光に対する防御策であると考えられています。では、陸上植物と全く異なる集光性色素タンパク質FCPを持つ珪藻はどのようにタンパク質および色素組成を調節するのでしょうか?また、調節されたFCPはどのような機能を持つのでしょうか?その詳細は不明でした。

研究成果の内容

長尾特任講師と秋本准教授らの共同研究グループは、堂前直ユニットリーダーらと共に、珪藻Phaeodactylum tricornutumの強光照射におけるFCPの発現およびそれらの励起エネルギー伝達機構の解明に成功しました。弱光条件では一種類のFCP複合体(LL1)が得られた一方、強光条件では二種類のFCP複合体(HL1とHL2)が得られました(図)。三種類のFCP複合体の機能を時間分解蛍光分光法により調べました。弱光FCP(LL1)と比較し、強光FCP(HL1とHL2)では励起エネルギー伝達経路の変化および励起エネルギー消光が観測されました。これは弱光条件でのFCPでは検出されなかったため、強光条件によって初めて発現するFCPの特徴です。つまり、強光ストレスを受けたPhaeodactylumは、エネルギー消光を行うためにFCPの分子構造を変化させることが明らかになりました。珪藻が持つFCPの分子調節機構は、強光下で余剰の光エネルギーを積極的に散逸させるための防御策の一種であると言えます。

社会的な意義

太陽光を利用したクリーンエネルギーの活用は、エネルギー問題や環境問題の解決につながる非常に重要な事柄です。光環境変化によって調節される集光性色素タンパク質の励起エネルギー伝達機構をより詳細に理解することは、太陽光エネルギーを効率よく集める分子配置の設計に指針を提供する可能性があります。将来的には、得られた知見を利用することで、太陽光エネルギー成分の選択的利用に基づいたエネルギー利用デバイスの創出が期待されます。

図. 珪藻Phaeodactylumの強光におけるFCPの分子構造および機能の変化

(A) Clear-native PAGEによって弱光および強光培養細胞から調製されたFCP複合体。LL1, HL1, HL2はFCP複合体、FPはタンパク質に結合していない遊離した色素分子。
(B) 調製されたFCPの機能モデル。

研究資金

本研究は、日本学術振興会「基盤研究」(課題番号:JP20K06528、JP20H02914)、日本学術振興会「新学術領域研究(研究領域提案型)」(課題番号:JP19H04726、JP17H06434、JP16H06553)の支援を受け実施しました。

用語解説

※1 集光性色素タンパク質
クロロフィルやカロテノイドなどの色素を結合した、太陽光エネルギーを集める役割を持つタンパク質です。光合成生物の種類に応じて異なる集光性色素タンパク質が存在します。本報告で明らかにした、フコキサンチン-クロロフィル結合タンパク質(FCP)は珪藻や褐藻に特有であり、その名の通りクロロフィルa、クロロフィルc、フコキサンチンを結合しています。
※2 時間分解蛍光分光法
パルスレーザーを色素に照射した後、色素から発せられる蛍光の変化をフェムト秒(10-15秒)からピコ秒(10-12秒)の時間分解能で追跡する方法です。光エネルギーを吸収した直後の色素分子の挙動だけではなく、分子が置かれた環境に関するさまざまな物理化学的情報を解析するための非常に有用な分光法です。この手法により、集光性色素タンパク質の色素分子の役割を明らかにします。

論文情報

タイトル
Enhancement of excitation-energy quenching in fucoxanthin chlorophyll a/c-binding proteins isolated from a diatom Phaeodactylum tricornutum upon excess-light illumination
(強光によって誘導される珪藻Phaeodactylum FCPの消光機構)
DOI:10.1016/j.bbabio.2020.148350
著者
Ryo Nagao, Makio Yokono, Yoshifumi Ueno, Takehiro Suzuki, Minoru Kumazawa, Ka-Ho Kato, Naoki Tsuboshita, Naoshi Dohmae, Kentaro Ifuku, Jian-Ren Shen, and Seiji Akimoto
掲載誌
Biochimica et Biophysica Acta - Bioenergetics

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