神戸大学大学院海事科学研究科のChristopher Gomez教授と、ソルボンヌ大学及びケンブリッジ大学等の研究者の研究グループは、トンガ王国における現地調査において、15世紀に太平洋に落下した隕石によってこれまで知られていなかった津波が発生し、トンガ大国の時代が終焉をむかえたことを発表しました。

この研究成果は、12月20日に、国際学術誌「Frontiers in Earth Science」に掲載されました。

ポイント

  • 堆積物や木炭の放射性炭素年代測定や海洋生物の痕跡から得られたデータの解析により、15世紀に大きな津波が発生したことを解明
  • 海底にクレータが存在し、近傍に活発な活断層や火山がないことから、津波は隕石の衝突によるものであると推定

研究の背景

トンガと西ポリネシアの植民地時代以前(16世紀以前)の歴史は、科学の進歩した現在においても、大きな謎を抱えたままである。

考古学の分野では、14世紀には強力なトゥイ・トンガ王国が、各地を統一していたとされている。トンガ群島の島々は、中央集権の下にあり、伝承によると中央太平洋の近隣の島々にもその勢力を拡大していた。しかし、15世紀中頃に重大な危機が突然おとずれ、太平洋の深い海に隔てられた群島間の人々の移動は停止し、文化的にもはっきりとした変化が起こった。周辺の環境が変化し、利用可能な天然資源が減少した。また、近隣の首長国に対する対外的な影響力を失った。

このような歴史に刻まれたトンガの大きな変化の理由については、現在でも議論が続いており、内政上の混乱を引き起こした何らかの原因があると考えられている。

研究の内容

図1:15世紀の津波が運んできたサンゴの巨大なブロック

研究チームはこの岩の真下から土を掘りだしてC14年代測定を行った。

これまで大規模な自然災害の仮説が提示されることはほとんどなかったが、研究チームが現地調査を行ったところ、津波による堆積物が広範囲で発見され、過去に非常に大きな津波が発生したことが明らかになった。また、その津波によって運ばれたと考えられる大きなサンゴの岩(図1)の下から堆積物や木炭を採取し、放射性炭素年代測定(C14年代測定)を行って津波が発生した時期を求めたところ、津波は15世紀頃に発生したものであることがわかった。これらのことから、トンガタプ島は15世紀に大きな津波によって浸水したことが示された。

この地域のプレート運動や活断層、火山などの地質学的活動状況から推測すると、このような巨大な岩を動かすエネルギー源が見当たらない。一方で、海底にクレータが存在することから、津波は隕石の衝突によるものであると推測される。隕石衝突時の影響についてシミュレーション(図2)を行ったところ、最大30mの遡上高を持つ津波がトゥイ・トンガ島を襲っており、その島にあった王国は、この突然の天変地異によって取り返すことのできないダメージを受けたと考えられる。

図2:トンガの南洋上に落下した隕石が引き起こした津波のヴォルクフロモデルによる計算結果

現地の伝承のひとつに、「赤い波(ポークラとも呼ばれる)」によって多数の大きな岩が堆積したという神話が残されている。また、ニュージランドのマオリとオーストラリアのアボリジニの間にも、同じような隕石の伝説と「赤い海波」の伝説がある。また、トンガ語の「赤い波」は津波と言う意味の言葉に他ならない。トンガに残された神話が真実であったことが、科学的手法によって論証されたものである。

今後の展開

本研究成果は、これまで大きな謎であった16世紀以前のトンガと西ポリネシアの歴史的事実を科学的に解明したものであり、今後の中央、南太平洋諸島における歴史研究に大きな影響を与えると期待される。

論文情報

タイトル
Bridging Legends and Science: Field Evidence of a Large Tsunami that Affected the Kingdom of Tonga in the 15th Century
DOI
10.3389/feart.2021.748755
著者
Lavigne, Morin, Wassmer, Weller, Kula, Maea, Kelfoun, Mokadem, Paris, Malawani, Faral, Benbakkar, Saulnier-Copard, Vidal, Tu’I’afitu, Kitekei’aho, Trautmann and Gomez
掲載誌
Frontiers in Earth Science

研究者