神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科/先端膜工学研究センターの中川敬三准教授、吉岡朋久教授、松山秀人教授らの研究グループは、異なる機能を有する二次元ナノ材料 (ナノシート※1) を多孔質支持膜上に積層させることで、優れた透水速度と光触媒※2活性の両方を兼ね備えたナノシート積層型光触媒膜を開発し、光照射によって膜ファウリング※3を抑制することに成功しました。本研究は、浄水処理分野への応用が期待できるもので、安定した水資源の確保やクリーンエネルギーの利用といった環境・エネルギー問題の解決に貢献できる革新的膜技術であり、カーボンニュートラルの持続的社会実現の加速化に繋がります。

本研究は、神戸大学分子フォトサイエンス研究センターの立川貴士教授、国立台湾科技大学のChechia Hu准教授、英国オックスフォード大学の Shik Chi Edman Tsang教授らとの国際共同研究であり、この成果は、国際学術雑誌「Chemical Engineering Journal」に 2022年4月7日付けで掲載されました。

ポイント

  • 優れた透水速度と光触媒活性の両方を兼ね備えた新規ナノシート積層型光触媒膜の開発に成功。
  • ナノシート材料によるシナジー効果によって、透水速度と光触媒活性が大幅に向上。
  • 膜の目詰まり (ファウリング) を光触媒機能により解消。
  • クリーンな光エネルギーによる浄水処理膜プロセスの提案。

研究の背景

地球規模の気象変動や発展途上国の急激な人口増加と経済成長に伴って、世界各地で水不足が深刻化しています。2025年には世界人口の3分の2が水不足になるとの報告もあります。そのような深刻な水不足問題を解決するためには、水の再利用技術や浄化技術の普及、海水淡水化技術などの造水技術の有効活用が必要不可欠です。

浄水処理分野において、膜ろ過法は連続的に安定して良質な水が得られることから、現在900か所の浄水場で採用されています。一方、膜ろ過法は微細孔を有する膜で濁質を分離除去するため、膜の目詰まり (ファウリング) が問題となります。膜がファウリングを起こすと、ろ過水量が低下し必要な処理水量が得られなくなるため、膜を洗浄あるいは交換する必要が生じます。そのため、様々なファウリング抑制技術が検討されていますが、十分な解決方法は見出されていません。

より省エネルギーで環境負荷の低い手法の一つとして、チタニアに代表される光触媒材料を膜に導入することで、光触媒作用を利用した汚染物質の除去が挙げられます。しかしながら、このような光触媒膜には水処理膜としての機能と同時に、可視光応答性や高い光触媒活性が求められるため、膜材料や膜構造の観点からの構造設計が必要となります。

本研究グループでは、これまで金属酸化物ナノシートの一種であるニオブ酸ナノシート※4 (厚みは約1ナノメートル、横方向は数百ナノメートル) を多孔質支持膜上に積層することで、ナノシート層間を二次元チャネルとして利用したナノろ過膜を開発してきました。

本研究では、可視光応答性を有するカーボンナイトライド※5ナノシートをニオブ酸ナノシート積層膜に複合化することで、ナノろ過膜として高い透水速度を有しながらも、光触媒活性が大きく向上することを見出しました。またファウリングによって低下した透水性能がこの光触媒機能により完全に回復することが明らかになりました。

研究の内容

ナノシート積層膜は、ナノシート材料 (コロイド溶液) を高分子支持膜上に簡易な吸引ろ過を行うことにより製膜が可能です。本研究では、約100ナノメートルの厚みのナノシート積層薄膜を作製しました (図1a)。ニオブ酸ナノシート (HNb3O8) 積層膜にカーボンナイトライドナノシート (g-C3N4) を複合することで、層間に由来するチャネル径を制御できることを、X線回折および分画分子量測定により明らかにしました。膜性能の面では、HNb3O8:g-C3N4=75:25の場合において、積層膜ナノろ過膜としての分離性能を維持しながら、透水速度を約8倍に向上できることがわかりました (図1b)。一方、光触媒性能の面では、カーボンナイトライドナノシートを複合化することによって可視光領域の光を吸収するようになり、また、カチオン性色素 (ローダミンB) の光分解活性がナノシートの複合比率によって大幅に向上することがわかりました (図1c)。

図1

(a) 開発したナノシート積層型光触媒膜の断面電子顕微鏡像。
(b) ナノシートの複合比による透水速度の変化。
(c) ナノシートの複合化によるローダミンB光分解反応の反応速度定数の変化 (挿入図:光照射前後の色素溶液の変化の一例)。

開発したニオブ酸ナノシート/カーボンナイトライドナノシート複合積層膜は、分離膜としては、ニオブ酸ナノシートがナノシート積層膜を構成し、カーボンナイトライドがその層間に挿入されスペーサーとして機能します。これにより積層膜のチャネル径が拡大し、透水速度の増大に繋がりました (図2a左図)。このように制御されたチャネルは、分子量が1000程度の色素を90%分離することが可能です。一方、光触媒の面においては、カーボンナイトライドナノシートは可視光を吸収する光触媒として、ニオブ酸ナノシートは助触媒としてそれぞれ機能します。また、バンド構造が適切に制御されたことで効率的な電子移動が起こり、光触媒活性が飛躍的に高められることが明らかとなりました (図2a右図)。これらの結果を基に、浄水処理への応用として牛血清アルブミン (BSA) を用いた膜のファウリング試験を行ったところ、BSAでのファウリングにより透水速度が5分の1に低下したナノシート複合膜に光を照射することで、透水性を完全に回復させることに成功しました (図2b)。

図2

(a) 異なる機能を有するナノシートを利用した新規ナノシート積層型光触媒膜の設計。
(b) 光触媒膜における光照射前後の相対透水速度の変化。ファウラントには牛血清アルブミン (BSA) を用いた。ニオブ酸ナノシート (HNb3O8) 積層膜とニオブ酸ナノシート/カーボンナイトライドナノシート (HNb3O8/g-C3N4) 複合積層膜を比較した。

今後の展開

本研究では、異なる種類のナノシートが織りなす二次元ナノチャネルの形成により、優れた透水速度と光触媒活性を両立させることに成功しました。ナノシートの種類を変化させ二次元チャネル構造やバンド構造をより精密に制御することにより、膜性能や光触媒活性の更なる向上が期待できます。今後は、膜の大面積化、光触媒膜プロセスの開発に取り組み、社会実装・実用化を目指していきます。

用語解説

※1 ナノシート
分子レベルの厚みと数百ナノメートルからミクロンオーダーの平面方向の大きさを有するコロイド物質。酸化グラフェンをはじめ、金属酸化物など様々な種類のナノシートがこれまでに報告されている。
※2 光触媒
光を照射することにより触媒作用を示す物質。光を吸収して光触媒中に生じた励起電子と正孔がそれぞれ還元と酸化を起こす。本研究では、有機化合物の酸化分解に利用している。
※3 ファウリング
原水などの膜供給水中に存在する分離対象物質など (ファウラント) が膜表面や細孔内に付着・堆積する現象。
※4 ニオブ酸ナノシート
金属酸化物ナノシートの一種。NbO6-の八面体構造が水平方向に連なってできたナノシート結晶。光触媒や固体酸触媒として利用される。
※5 カーボンナイトライド
水素原子、炭素原子、窒素原子からなる平面物質。バンドギャップが小さい半導体であり、可視光応答型光触媒である。

謝辞

本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金「基盤研究 (C) 」 (課題番号:JP19K05121) 、Ministry of Science and Technology, Taiwan (課題番号:110-2221-E-011-012-MY3) の支援を受け、実施しました。

論文情報

タイトル
HNb3O8/g-C3N4 nanosheet composite membranes with two-dimensional heterostructured nanochannels achieve enhanced water permeance and photocatalytic activity
DOI
10.1016/j.cej.2022.136254
著者
Seiji Imoto, Keizo Nakagawa, Chechia Hu, Tomohisa Yoshioka, Takuji Shintani, Atsushi Matsuoka, Eiji Kamio, Takashi Tachikawa, Shik Chi Edman Tsang, Hideto Matsuyama
掲載誌
Chemical Engineering Journal

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