神戸大学大学院工学研究科の丸山達生教授、森田健太助教らの研究グループは、がん細胞の増殖に必要な酵素「チロシンキナーゼ」に着目し、チロシンキナーゼと反応するとがん細胞の中身を“物理的に固めて”殺傷する、新規抗がん剤分子を設計・作製しました (図1)。この分子は物理現象を用いるという全く新しい抗がんメカニズムを持つため、抗がん剤耐性株が出現しないことが期待されています。

本研究内容は2022年度第71回高分子学会年次大会において広報委員会パブリシティ賞を受賞しました (発表1066件中13件採択)。また、本研究成果をまとめた論文を英文科学雑誌に投稿中です。

図1 新規抗がん剤(C16-E4Y)の分子構造と作用メカニズムのイメージ

研究内容

図2 C16-E4Yを投与したがん細胞にアポトーシス検出試薬を処理した際の蛍光顕微鏡写真

緑:アポトーシス誘導細胞、赤:死細胞、青:細胞核

本研究グループは、一部のがん細胞で過剰に産生されているチロシンキナーゼという酵素を利用し、がん細胞の内部をゲル化することで抗がん効果を発揮する新規抗がん剤の開発を行いました。「C16-E4Y」というペプチド脂質分子は、チロシンキナーゼと反応してリン酸化されるペプチド配列 (E4Y) と炭素原子が直線状に16個連なった炭化水素鎖 (C16) から構成されます。C16-E4Yはがん細胞内でリン酸化されると分子同士が互いに集合し、球体やひも状、網状といった構造体を形成する (自己組織化) 性質を持ちます。その結果、がん細胞の中身は流動性を失い、ゲル化します。詳細な研究によって、C16-E4Yは「小胞体」という細胞内の組織に集まってゲル化することがわかっています。小胞体にストレスを加えることでがん細胞の「アポトーシス」と呼ばれる自殺プログラムが起動し、がん細胞が自ら死滅していく様子を観察できました (図2)。さらに、マウスを用いた実験でもC16-E4Yの抗がん効果が確認できています。現在、製薬企業との連携による実用化への道筋を模索しています。

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