神戸大学大学院農学研究科の宮路直実 (博士課程後期課程修了) と西オーストラリア大学のDr. Soodeh Tirnazらは、白さび病※1菌がコマツナに感染するとDNAメチル化※2の変化が生じることを明らかにしました。本研究成果は今後のコマツナにおける白さび病抵抗性機構の解明へと発展することが期待されます。

本研究は、神戸大学大学院農学研究科の藤本龍准教授ら、西オーストラリア大学、岩手生物工学研究センター、総合研究大学院大学らの研究グループにより行われました。

この研究成果は、6月23日に、Frontiers in Plant Scienceにオンライン掲載されました。

ポイント

  • コマツナに白さび病菌が感染すると、DNAメチル化の変化が引き起こされることを明らかにした。
  • 白さび病菌感染によるDNAメチル化の変化が見られるゲノム領域が、白さび病抵抗性品種と罹病性品種で、異なることを明らかにした。

研究の背景

図1. 白さび病の発病の様子

白さび病は、白さび病菌Albugo candidaによって引き起こされる病害で、コマツナ、ハクサイ、カブなどのアブラナ科野菜の重要病害の一つです。感染初期に葉の表側に不整形の薄緑色のまだら模様が見られ、感染後期には、葉の裏側に白い水膨れのような病斑を生じます (図1)。葉、葉柄、茎、花などの様々な部位に病斑が現れるため、コマツナなどの葉菜類では発病すると商品価値が大きく下がることが問題となっています。そのため、白さび病抵抗性コマツナ品種の開発が求められています。

図2. DNAのメチル化

シトシンの5位の炭素にメチル基 (-CH3) が付与される

遺伝子の発現調節機構には、塩基配列の変化 (突然変異) によるもの [ジェネティック] と、塩基配列の変化を伴わないもの [エピジェネティック※3 (後生遺伝的)] があります。近年、エピジェネティックな遺伝子発現制御機構の一つであるDNAメチル化 (図2) が、病原菌に対する宿主植物の病害抵抗性応答に重要な役割を担っている可能性が示唆されています。しかし、アブラナ科野菜において、病原菌が感染した際に、宿主植物のDNAメチル化が影響を受けるかどうかは明らかにされていませんでした。

研究の内容

図3. 白さび病菌の感染によりDNAのメチル化に変化が見られたゲノム領域の数

DNAメチル化はCGメチル化、CHGメチル化、CHHメチル化に分類される (HはA, T, Cを示す。)
抵抗性品種と罹病性品種でDNAメチル化が変化した領域は重複しなかった。

白さび病菌に対して抵抗性を示す品種と罹病性を示す品種を用いて、白さび病菌に感染させる前と感染させた後で、ゲノム全体でのDNAメチル化状態を明らかにしました。そして、それぞれの品種で、白さび病菌の感染によってDNAメチル化レベルが変化するゲノム領域を明らかにしました (図3)。DNAメチル化に変化が見られたゲノム領域は、抵抗性品種と罹病性品種で異なっていたことから、白さび病菌の感染によってDNAメチル化が変化したゲノム領域は白さび病抵抗性の有無によって異なることが考えられました。

図4. 遺伝子構造及び、DNAメチル化と遺伝子発現との関係性

四角はエキソン領域を示す。

植物では、CG、CHG、CHH配列 (HはA, T, Cを示す) にDNAメチル化が起こることが知られています。DNAメチル化と遺伝子発現の関係は、DNAメチル化が遺伝子のどの領域に生じるかによって変わります。例えば、発現量が高い遺伝子では、エキソン領域に位置するCG配列にDNAメチル化が見られることが知られています (図4)。一方、遺伝子の転写領域に存在するCHG配列やCHH配列にDNAメチル化が生じると遺伝子の発現は抑制される傾向にあります。同様に、遺伝子の上流領域にDNAメチル化が生じると遺伝子の発現は抑制される傾向にあります (図4)。

白さび病菌感染によってDNAメチル化が変化した遺伝子領域 (遺伝子の転写領域と、その上流配列・下流配列を含む) に着目したところ、罹病性品種では136遺伝子領域で、抵抗性品種では178遺伝子領域でDNAメチル化レベルに変化が見られました。遺伝子の転写領域内については、罹病性品種ではCG配列のDNAメチル化レベルが増加したのに対して、抵抗性品種ではCHG配列とCHH配列のDNAメチル化レベルが増加していました (図5)。また、遺伝子上流領域においては、罹病性品種ではCHH配列のDNAメチル化レベルが増加していたのに対して、抵抗性品種ではCHG配列のDNAメチル化レベルが増加し、CHH配列のDNAメチル化レベルが減少していました (図5)。このように、両品種の間でDNAメチル化レベルの変化様式が異なっていました。

図5. 遺伝子領域でのDNAのメチル化の変化

本研究から、白さび病菌に感染するとコマツナのDNAメチル化レベルが変化することが明らかになりました。さらに、DNAメチル化の変化のパターンは抵抗性品種と罹病性品種で異なることが分かりました。

今後の展開

今後の研究では、抵抗性品種と罹病性品種でDNAメチル化レベルが変化する領域と、白さび病抵抗性との関連性について明らかにしたいと考えています。将来的には白さび病抵抗性遺伝子を単離することで、白さび病抵抗性の分子機構を解明し、白さび病抵抗性品種の開発へと繋げていきたいと考えています。

用語解説

※1 白さび病
主として気孔から侵入、感染する。感染により葉や花茎に白色の斑点病斑が多数形成され、のちに膜が破れ白色の粉 (遊走子のう) を飛散させる。発病により花茎が変形することもある。特に葉菜類では発病すると品質が低下し、出荷不能となる。抵抗性品種の育成が急務であるが、白さび病に抵抗性を示す品種は少ない。
※2 DNAメチル化
DNAはアデニン (A)、チミン (T)、グアニン (G)、シトシン (C) の4種類の塩基で構成されている。DNAメチル化はほとんどがシトシン (C) で生じ、シトシンのピリミジン環の5位炭素原子にメチル基 (CH3) が付加されることでDNAメチル化が起こる。植物では、CG配列、CHG配列、CHH配列にメチル化が起こる (HはA、T、Cを示す)。DNAメチル化は遺伝子発現の調節に関わることが多数報告されている。
※3 エピジェネティック
DNAの塩基配列を変化させることなく、染色体の構造変化から生じる安定的に継承される遺伝子発現や形質のこと。

謝辞

本研究は、以下の支援を受けて行われました。

  • 生研支援センター・イノベーション創出強化研究推進事業 (30029C)
  • 日本学術振興会特別研究員 (DC1) (18J20027)

論文情報

タイトル
Whole genome DNA methylation analysis in Brassica rapa subsp. perviridis in response to Albugo candida infection
DOI
10.3389/fpls.2022.849358
著者
Soodeh Tirnaz+, Naomi Miyaji+, Shohei Takuno, Philipp Emanuel Bayer, Motoki Shimizu, Mst. Arjina Akter, David Edwards, Jacqueline Batley and Ryo Fujimoto
  • + These authors equally contributed to this work
掲載誌
Frontiers in Plant Science

研究者

SDGs

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