神戸大学大学院医学研究科健康創造推進学分野の田守義和特命教授らの研究グループは、65歳の神戸市民約11,000人を対象に、肥満に合併する代表的な疾患である糖尿病、高血圧、脂質異常症の肥満度別の有病率と、普通体重に対して各疾患を有するリスクを検討し、各疾患の有病率は肥満度の上昇に伴い増加すること、および男性では普通体重に比較し肥満が進むと各疾患を有するリスクが増加しますが、女性では、糖尿病と高血圧のリスクが大きく増加する反面、脂質異常症のリスクは軽度の増加に留まることを明らかにしました。

本成果から、男性では糖尿病、高血圧、脂質異常症を減らすのに、肥満者の減量が有効であること、また女性では糖尿病、高血圧を減らすには減量が有効であるものの、脂質異常症には減量だけでは不十分なことが分かりました。

この研究成果は、2023年2月9日に、「Scientific Reports」に掲載されました。

ポイント

  • 65歳の神戸市民約11,000人を対象にした解析で、糖尿病、高血圧、脂質異常症(注1)の有病率は9.7%, 41.0%, 63.8%でした。
  • 肥満が進行するほど、糖尿病と高血圧の有病率は大きく増加しました。一方、脂質異常症は普通体重者群でも有病率が高く、肥満が進行しても増加は緩やかでした。
  • 男女別に解析すると、男性では肥満の進行と共に3疾患を有するリスクは同じように増加しました。女性では糖尿病と高血圧のリスクが大きく増加した一方、脂質異常症のリスク増加は緩やかで、そのピークも軽度肥満者群に認められました。

研究の背景

肥満は各種の疾患を併発して、健康寿命を短縮し、日常生活の質を低下させます。なかでも肥満に合併する代表的な疾患である糖尿病、高血圧、脂質異常症は動脈硬化を進展させ、脳卒中や心疾患といった生命を直接脅かす病気につながります。とくに日本人を含め東アジア人は軽度の肥満でも代謝異常を発症しやすいという特徴があります。しかし、どの程度の肥満になれば、どういった疾患がどのくらい発症するのか、今まで詳しい研究はほとんどなされていませんでした。

高齢者の入り口である65歳という年齢は、肥満を回避することが重要なことはもちろんですが、同時にサルコペニアやフレイルの原因となる低体重や痩せにも注意が必要です。今回は、65歳の神戸市民、約11,000人を対象に糖尿病、高血圧、脂質異常症の肥満度ごとの有病率を明らかにするとともに、普通体重者と比較した時、肥満度別に疾患を有するリスクを検討しました。

研究の内容

65歳の神戸市民で、国民健康保険加入者の約11,000人を対象に、代表的な肥満併存疾患であり、動脈硬化症にも密接に関連する糖尿病、高血圧、脂質異常症の有病率を肥満度別に分析しました。さらに、普通体重者に比較し、肥満度が増加したときの疾患を有するリスク (疾患リスク) を解析しました。

各疾患の有病率は、糖尿病が9.7%、高血圧が41.0%、脂質異常症が63.8%でした (図1)。どの疾患も肥満度の上昇と共に有病率が増加しましたが、糖尿病と高血圧は肥満の進行と共に有病率が大きく増加しました。一方、脂質異常症は普通体重者群でも有病率が60%を越えて高い反面、肥満の進行に伴う有病率の増加は緩やかでした。また、この傾向は女性でより顕著でした。

図1 肥満度毎の糖尿病、高血圧、脂質異常症の有病率

糖尿病や高血圧は肥満度の上昇と共に有病率が大きく増加するが、脂質異常症は低体重や普通体重から有病率が高く肥満が進んでも増加の程度は糖尿病や高血圧に比して少ない。四角内の数字は全体での有病率。

疾患リスクについては、男性では肥満度の上昇にともない、3疾患とも疾患リスクが増加しましたが、女性では糖尿病と高血圧のリスクが大きく増加する反面、脂質異常症については軽度増加するに留まり、そのピークも軽度の肥満者群で認められました (図2)。

図2 男女別に見た肥満度毎の糖尿病、高血圧、脂質異常症のリスク

女性では糖尿病や高血圧は肥満度の上昇と共に疾患リスクが大きく増加するが、脂質異常症のリスク増加は低いうえ、ピークは肥満度Iという軽度の肥満で認められる。疾患リスクは普通体重者のリスクを参照値 (1.00) にしたオッズ比で示す(注2)。オッズ比を含む直線は95%信頼区間。

この研究の意義と今後の展開

今まで肥満に関連する疾患の有病率を肥満度別に検討した報告はほとんど無く、肥満すると、どの肥満関連疾患もリスクが増加するという漠然とした認識しか無いのが実情でした。そのため、生活習慣病や肥満症の診療でも、どの程度減量すればどのくらい疾患リスクが低下するかと言った具体的な指導ができませんでした。今回の研究で、糖尿病、高血圧、脂質異常症の有病率を減らすためには、男性では減量が有効であること、女性では糖尿病と高血圧を減らすには減量が有効であるものの、脂質異常症には体重を減らすだけでは不十分で、減量以外にも、食事や運動など生活習慣の改善を見据えた指導や診療が必要となることが示唆されました。

この3疾患以外にも、脳梗塞や冠動脈疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患、睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症といった運動器疾患など、肥満に関連する重要な疾患があります。今後は、このような肥満に関連する健康障害が、どの程度の肥満でどのくらいの有病率を示すのかを、年齢別、性別で解明することが肥満に関連して発症する疾患を指導および診療して行く上で重要なうえ、医療経済的な側面に対する減量の効果を推測する上でもたいへん参考になります。

補足説明

(注1)
この研究における3疾患の診断基準
  • 糖尿病:空腹時血糖値が126mg/dL以上かつHbA1c値が6.5%以上。または血糖降下薬を使用中の人。
  • 高血圧:収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上のいずれかの場合。または降圧薬を使用中の人。
  • 脂質異常症:血清の中性脂肪濃度が150mg/dL以上、または血清LDL-コレステロール濃度が140mg/dL以上、または血清HDL-コレステロール濃度が40mg/dL未満のいずれかの場合。または脂質降下薬を使用中の人。
(注2)
この場合のオッズ比は、普通体重者の疾患を持つリスクを1.0としたとき、各肥満度における疾患を持つリスクを反映した値。

研究者コメント(田守義和特命教授)

肥満症に併存する健康障害は減量することによって改善が見込まれる疾患です。しかし今までは肥満度別の詳しい検討が無かったため、どの疾患についても「減量が重要です」といった画一的な指導しかできない状況でした。

今回の研究で、女性では、肥満は糖尿病や高血圧には強く影響する反面、脂質異常症には糖尿病や高血圧ほどの影響を及ぼしていないことがわかりました。ただ、女性は閉経後、一般的に血清LDLコレステロール値や中性脂肪値が増加します。そのため今回の研究結果には、研究対象が65歳の女性であることも考慮に入れておく必要があると考えます。

脂質異常症には肥満以外にも各種の背景(遺伝的素因、年齢、ホルモン、食事、運動など)が関与します。このため、脂質異常症には特に女性の場合、単に体重を減らすことだけでは無く、過剰な脂質や糖質摂取を控える、アルコールを控える、運動不足に注意するといった良好な生活習慣を維持することが重要と考えられます。

日本人を含む東アジア人では内臓脂肪が蓄積しやすいため、軽度の肥満でも糖尿病や高血圧、脂質異常症などを発症しやすいことがわかっています。これ以外でもがんや気管支喘息、うつ病をはじめとした精神疾患など肥満に関連する疾患は多岐にわたります。このように多様な疾患が肥満と関連する事を考えると、健康寿命を延伸して行くためには、肥満度別に各種健康障害を有するリスクについて、日本人独自のデータを集めて行くことが極めて大切です。

論文情報

タイトル
Obesity and Risk for Its Comorbidities Diabetes, Hypertension, and Dyslipidemia in Japanese Individuals Aged 65 Years
DOI
10.1038/s41598-023-29276-7
著者
Tomoko Yamada1,2, Maki Kimura-Koyanagi3, Kazuhiko Sakaguchi2,4, Wataru Ogawa2, Yoshikazu Tamori2,5*

1 神戸大学医学部附属病院 栄養管理部
2 神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 糖尿病・内分泌内科学部門
3 神戸大学医学部附属病院 総合臨床教育センター
4 神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 総合内科学部門
5 神戸大学大学院医学研究科 地域社会医学・健康科学講座 健康創造推進学分野

掲載誌
Scientific Reports

研究者