日本は超高齢社会を迎え、腎臓病から透析が必要になる患者数が増加の一途を辿っています。一方で飼育されているイルカも高齢化社会を迎えようとしており、腎機能の悪化から死亡に至る例がしばしば報告されるようになっています。この度、神戸大学 大崎博之 准教授、香川大学 西山 成 教授、大学院生 Nourin Jahanさん、帝京平成大学 金子希代子 教授、プライムホスピタル 西山 武 医師、京都大学 杉浦悠毅 特定准教授、東京慈恵会医科大学 横尾 隆 教授・小泉 誠 助教、日本大学 鈴木美和 教授・伊藤琢也 教授、名古屋市立大学 濱野高行 教授、自治医科大学 黒尾 誠 教授、(一財) 沖縄美ら島財団 植田啓一 博士、他で構成された研究グループは、飼育されている高齢のイルカが腎臓病を発症する原因が、腎臓組織へのリンの蓄積であることを世界で初めて明らかにしました。本研究結果は、高齢イルカで生じる腎臓病の予防や診断治療法の開発の一助となるものと期待されています。

本成果は、米国科学誌「Scientific Reports」に掲載されました (2023年4月号掲載、責任著者:香川大学 西山 成 教授)。

研究の背景と概要

  • 水族館で飼育されているイルカは適切な管理によって寿命が伸びており、高齢化社会を迎えようとしています。その結果、人間と同様に腎臓病の悪化から死亡に至る例がしばしば報告されるようになってきました。しかし、高齢のイルカが何故腎臓病を発症するのかについては、原因は全くわかっておらず、診断法や予防・治療法もありません。
  • 今回、心臓病が原因で死亡した高齢の飼育イルカの腎臓を解析したところ、血液検査では腎機能が正常であったにもかかわらず、腎臓に激しい石灰化が生じていることが見出されました。そして、腎臓の石灰化組織を詳細に分析したところ、主な成分がリン酸カルシウムであるハイドロキシアパタイトで構成されていることが明らかとなりました。
  • 腎尿細管の細胞を使用した研究では、リンはカルシプロテイン粒子 (CPPs) と呼ばれる細かい粒子を作って細胞を石灰化して傷害することが明らかとなりました。一方、このようなリンによるCPPs形成を介した尿細管細胞の障害は、マグネシウムの投与によって、一部軽減されることが示されました。ハイドロキシアパタイトは、ヒトをはじめとする脊椎動物の骨や歯の主要な構成成分ですが、尿路結石の原因にもなる物質です。

成果と意義

本研究は、飼育下のイルカの高齢化に伴い生じる腎臓病は、リンが原因となる石灰化によって生じていることを、香川大学が中心となり、オールジャパンの研究チームによって世界で初めて明らかにしたものであります。本研究によって、イルカの高齢化に伴う腎臓病の病態メカニズムの一端が明らかとなり、マグネシウムの投与によって軽減される可能性が示されたことから、未来の予防や診断治療法の開発につながるものであると考えられます。

今後の展開

私たちは、香川大学 × SDGs ACTION「海の豊かさを守ろう」に賛同し、海洋生物の健康促進を目的とした研究を継続してまいります。本プロジェクトではイルカの健康を守るための研究を目指していますが、私たちは様々な生物における病気の病態解析を実施することにより、ヒトにおける全く新しい健康法の開発につなげる研究活動を続けていきたいと考えております (香川大学医学部薬理学教室)。

特記事項

本研究は、各法令や研究・倫理指針を遵守し、死亡した飼育イルカの死因を調べるために実施された剖検腎組織や細胞を使って行われたものであり、生きているイルカを研究の対象にしたものではありません。本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業 挑戦的萌芽研究 (健康長寿をもたらす夏眠反応同定とその制御:20K20664) と基盤B研究 (老化・加齢性疾患の予防に向けた「夏眠様反応」制御メカニズム解明のための基盤研究:22H03514) の支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル
Possible contribution of phosphate to the pathogenesis of chronic kidney disease in dolphins
DOI
10.1038/s41598-023-32399-6
著者
Nourin Jahan, Hiroyuki Ohsaki, Kiyoko Kaneko, Asadur Rahman, Takeshi Nishiyama, Makoto Koizumi, Shuichiro Yamanaka, Kento Kitada, Yuki Sugiura, Kenji Matsui, Takashi Yokoo, Takayuki Hamano, Makoto Kuro-o, Takuya Itou, Miwa Suzuki, Keiichi Ueda, Akira Nishiyama
掲載誌
Scientific Report

研究者

SDGs

  • SDGs14