小児外科は先天異常を持って生まれた新生児をはじめ、幅広い年齢のこどもたちを手術で治療し、成人後までの長期にわたって成長に伴う変化をフォローする、息の長い医療が特徴だ。不安を抱えるこどもや家族にも寄り添う必要があり、高度で繊細な手術の技術はもちろん、高い人間力も求められる。
 神戸大学医学部では2021年5月に新しく小児外科に教授職が配置され、准教授から初代教授に就任した尾藤祐子・特命教授は、この分野では日本の国立大学で唯一の女性教授だ。小児外科の特色と神戸大学の小児外科学分野が目指すものを、聞いた。
主配置 大学院医学研究科 外科学講座小児外科学分野
資格 日本外科学会指導医・専門医、日本小児外科学会指導医・専門医、日本周産期新生児医学会認定外科医
詳細情報

尾藤 祐子(BITOH Yuko)|神戸大学研究者紹介システム

尾藤特命教授は京都市出身。東京大学で学び、京都で医師のキャリアをスタートした。

尾藤特命教授:
 医学生時代に外科医を志すようになりました。臨床実習で、病変部を目で見て手術や処置を施して患者さんを治療できること、チーム一丸となって医療を行うこと、に外科の魅力を感じました。中でも小児外科では、こどもを対象に手術を行い、そのこどもがその後数十年成長し生きていってくれる、未来を創る医療を行っている、というところにやりがいがあると感じました。それに、こどもと接する職場では自然と皆が笑顔になり、毎日明るく楽しく仕事ができるのではないかと思いました。そのような明るいイメージを持って小児外科医を目指す道を選択しましたが、医師となり小児外科の初期研修中に難病のベビーたちを最大限の治療の甲斐なく失う経験をし、一時は小児外科を専門にすることを考えなおしたこともありました。その後小児外科の仕事を続けていくうちに、こどもの回復力や生命力を実感することが多くなり、こどもを助けて未来を創ることに再びやりがいを見出すようになりました。また、学問としての小児外科学、特に先天性疾患の発生学にも興味を持ち、研究も行いました。

 神戸大学医学部の複数の関連施設で臨床経験を積み、2015年に神戸大学医学部附属病院小児外科特命准教授・診療科長(2019年からは医学研究科外科学講座小児外科学分野准教授)として赴任しました。

 

手術室で執刀する尾藤特命教授(中央)
小児外科は守備範囲が広い。

 臓器ごとに専門分化が進んでいる他の外科分野と異なり、小児外科ではほぼすべての臓器の疾患を対象として手術治療を行います。生まれたての赤ちゃんから時には成人まで、幅広い年齢、体格の患者さんを治療します。小児外科の患者さんたちは、私たちが手術した体で成長し一生を過ごしていくので、責任は重いです。こどもの体の変化は大きく、成長に伴って新たな問題が出ることもあり、長期間にわたってフォローアップすることも手術と同じくらい大切にしています。

 診療の場では、こどもが小さい場合はご両親に治療方針などを話し意思決定していただきますが、ある程度の年齢になるとこども自身の意思も尊重する必要があると思います。こどもが手術を受けるということはどこの家庭にとっても一大事です。さらにこどもの気持ちとご両親の考えが異なることもあり、診療の際にはその親子関係にまで配慮しながら接することもあります。このように、小児外科医には、確かな知識と技術に加えて、こどもとご家族の気持ちに寄り添える人間力が必要です。知識、技術、人間力を総動員して全力で診断や治療を行い、苦しんでいるこどもたちの病気が治り心配事も解決していくように日々努力しています。

気道疾患の治療の実績が評価されている。

 神戸大学小児外科とその関連施設では以前から気管や喉頭の病気の診断治療を専門としていて、多くの患者さんを診療しています。特に声帯のすぐ下の気道が狭くなって呼吸が困難になる「声門下腔狭窄症」は治療を手がけている施設が少なく、兵庫県内だけでなく近畿や中部、九州などの遠方から患者さんが治療を求めて来院されます。

 また、体重が1000グラム未満で生まれた超早産児・超低出生体重児の手術も行います。神戸大学医学部附属病院では産婦人科、小児科、小児外科が連携して周産期医療に取り組んでいますが、特に出生体重が小さく未熟性の強いベビーの入院が周辺施設よりも多いのが神戸大学病院の特長です。小児外科でも他ではあまり経験しない体重500グラム未満のベビーの手術を担当することがあります。

神戸大学は医工連携に力を入れている。

 医学部小児外科学分野も医工連携に取り組んでいます。現在、診断が難しいとされているこどもの気道疾患のための「新しい小児気道診断機器の開発」に取り組んでいます。特に声門下腔狭窄症は、狭くなっている気道の壁構造の細かい診断、たとえば狭窄部を狭くしているのは肉芽組織なのか軟骨組織なのかなどを詳しく把握した上で適切な手術治療計画をたてる必要があります。そこで、臨床現場で成人血管疾患の一部に使用されている撮影方法を小さな乳幼児の気道に応用することを目指し、若手医師とともに機器開発を行っています。この他にも、地元企業と協力して手術のトレーニング機器やこどもの体位固定具などの開発を進めています。

教授として人材育成にも力を入れる。

 神戸大学に着任した2015年当時は、小児外科医師は自分ひとりの一名体制でしたが、地道に成果をあげていったことをその都度評価していただき、現在は教員と大学院生を含め医師10名の体制となりました。そしてこのたび小児外科学分野に教授職を配置していただいたことで、ようやく他の診療科と同じスタートラインに立てたと思います。教授職が新しく作られたことは神戸大学の小児外科学分野の歴史にとって大きな一歩ですが、あくまでも通過点であり、組織としてはこれからがスタートです。人材育成については、自分の役割はチームの一人一人がやりがいを感じながら自らのキャリアを伸ばしていくために良い環境を整えることだと考えて行動しています。各自が優秀でかつ思いやりのある小児外科医に成長し、組織として小児外科学や医療に貢献できる人材を輩出したいと考えています。これからもいっそう人材育成と組織づくりに力を尽くしたいと思います。

神戸大学医学部附属病院小児外科

略歴

1993年 東京大学医学部医学科卒業
1993年 京都府立医科大学附属病院研修医
1997年 京都府立医科大学大学院医学研究科
2002年 愛仁会高槻病院小児外科医長
2007年 兵庫県立こども病院小児外科医長
2015年 神戸大学医学部附属病院小児外科特命准教授
2019年 神戸大学大学院医学研究科外科学講座小児外科学分野 准教授
2021年 同 特命教授

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