神戸大学大学院経済学研究科の衣笠智子教授、農学研究科の衛藤彬史学術研究員、経済学研究科の安田公治研究員(青森公立大学講師)は、養父市・広瀬栄市長へ養父市の国家戦略特区の効果の検証に関する報告を行いました。

兵庫県養父市は、2014年5月より国家戦略特区「中山間農業改革特区」の指定を受けるかたちで、規制緩和をはじめとした企業による農業参入を促進することを通じて、担い手の確保と育成に取り組んでいます。衣笠教授が広瀬市長から指名を受け、2019年度、養父市の国家戦略特区の効果を検証すべく、衛藤研究員、安田研究員とともに、養父市職員と協力して、研究を行いました。研究は、国家戦略特区事業者に対する聞き取り調査、市内農業者に対するアンケート調査、統計資料等を用いた効果検証の三つを重点的に行いました。

研究結果の要約

まず、国家戦略特区の事業者への聞き取り調査から、国家戦略特区の事業者は、規模や雇用の拡大意向が大きい傾向にあり、特区の特例で農地を取得した企業が、雇用の拡大意向が高いことが分かりました。そのため、株式会社が農業を行うことは、農業による雇用を生み出し、地方の経済を発展させうると示唆されました。つづいて、農家アンケートから、個々の農家は、高齢化が進行しており、農業をやめたいという農家も多く、やめた場合は、農地を貸したり売ったりしたいという希望が高いことがわかりました。また、六次産業化や、IT化など、高付加価値や効率的な農業に関して、関心が低いという結果となりました。これらのことから、農家だけで農業を支えていくことは困難であり、企業が農業に参入し、農業を牽引していくことが重要であることを主張しました。しかし、規模拡大や六次産業化・IT化をしようとする農家も少数ながら存在し、これらの農家の性質等について、より詳細な分析を進めているところです。さらに、統計資料を用いて、養父市が国家戦略特区指定後に、養父市の就業者や耕地面積、実質課税対象所得、一人当たり実質課税対象所得の減少を統計的に有意に緩和させることができたことを確認しました。また、特区事業者と取引のある事業者への聞き取り調査の結果から、特区制度は、特区事業者だけでなく、その他の事業者にも波及効果があることを示しました。 

以上の結果を踏まえて、養父市の国家戦略特区は、日本の中山間地域が抱える重要な問題の解決に貢献しているといえ、養父市の経済に大いに貢献していると結論付けました。そして、養父市の国家戦略特区の取組は、今後の中山間地域での農業のモデルとなり、是非、その規制緩和を全国展開すべきだと強調しました。