神戸大学大学院医学研究科の森康子教授(臨床ウイルス学)と株式会社イーベック(代表取締役社長:土井尚人、以下イーベック)は、兵庫県の全面支援を受けて、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)に対する治療効果を持つ抗体医薬※1の開発に着手します。
ポイント
- 神戸大学大学院医学研究科附属感染症センターの森康子教授らの研究グループは、兵庫県立加古川医療センターの協力を得て、1)抗体キットを用いた医療従事者に対する疫学調査、2)患者における中和抗体とサイトカイン測定による重症化メカニズムの解析——に取り組んできた。
- ウイルス増殖を抑える機能(中和能)は患者の重症度によって大きく異なることを解明した。
- 株式会社イーベックは、人由来の抗体を安全かつ高効率に作成する技術・実績を有しており、産学が協働することで、COVID−19の治療に有用な抗体薬を開発することが可能だと考えている。
- 神戸大学、兵庫県、イーベックの産官学が連携して、COVID−19治療に有効な治療薬開発を目指す。
研究・開発体制と製薬化について
兵庫県立加古川医療センターとの共同研究において、COVID-19回復者の協力を得て、中和抗体※2の産生された検体を採取します。これを神戸大学の医学部附属病院バイオリソースセンターが管理、医学研究科附属感染症センターが高い中和活性を持つ検体を選別し、得られた血液からイーベックが複数の完全ヒト抗体を作製します。さらに、神戸大学がそれらの抗体の中和能を評価することで、最適な抗体を選抜します。有効な抗体を作製した後は、動物実験などを経てエビデンスを取得し、大手製薬企業との共同研究によりワールドワイドでの製薬化を目指します。
用語解説
- ※1 抗体医薬
- 病原体の生体への感染や感染後の発症をおさえることを目的とした、「抗体」を用いた医薬品。標的となるウイルスなどの抗原に対して特異的に結合するため、副作用の少ない効果的な治療薬として期待されている。既に10億米ドルを超える売上を記録する製品が相次いでおり、世界の売上金額トップ10の過半数を占めている。抗体医薬(モノクローナル抗体)は、関節リウマチなどの自己免疫疾患やがんなどの治療薬として広く使われており、その市場は拡大を続けている。
- ※2 中和抗体
- 体内に侵入したウイルスを攻撃し、不活化する能力のある抗体。体内からウイルスを排除し、二度目の感染を防ぐための役割も担っていると考えられている。
謝辞
神戸大学では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行早期から井戸敏三兵庫県知事のご理解の下、県から多大なご支援を得て、COVID-19についての研究を行ってきました。兵庫県では大学と県との連携が緊密であり、県立病院群から得た患者検体を用いた研究がすぐに大学で行えるという利点は極めて大きいと考えています。ここに抗体医薬作製の技術に優位性があり、神戸市にラボを持つ株式会社イーベックが参加することで、兵庫県から世界に向けて成果を発信し、新型コロナウイルスに立ち向かっていきたいと考えています。