神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野の飯島一誠教授、野津寛大特命教授、粟野宏之准教授、山本暢之助教、坊亮輔助教、および兵庫医科大学小児科学の竹島泰弘主任教授、李知子講師らは、今回、重症複合免疫不全症、脊髄性筋萎縮症、ポンペ病、ファブリー病、ゴーシェ病、ムコ多糖症1型、ムコ多糖症2型の7疾患を対象として、新生児期に早期に診断するマススクリーニング検査を開始しました。この検査で診断された赤ちゃんに対し、早期に治療を開始することにより、重篤な症状が発症することを抑え込むことが期待されます。
ポイント
- 従来は治療法がなかった難病の中に、新しく治療が可能となった病気が増えてきました。しかし、それらの病気を早期に発見する方法はありませんでした。
- 治療可能な重症複合免疫不全症や脊髄性筋萎縮症などの7つの難病に対して、赤ちゃんの時期に任意の有料検査(新しい新生児マススクリーニング検査)を行い、病気の早期発見を目指します。
- 早期発見により、病気の進行を抑える早期治療に結び付けたいと考えています。
研究の背景
世の中には難病と呼ばれる、患者数が少なく、病気の原因が十分に明らかでなく、後遺症を残す恐れのある病気があります。従来、難病に対する有効な治療法はありませんでしたが、最近の新しい治療法の開発により、治療可能となった病気が増えてきました。
治療可能な難病には、重症複合免疫不全症、脊髄性筋萎縮症、ポンペ病、ファブリー病、ゴーシェ病、ムコ多糖症1型、ムコ多糖症2型があります。これらの病気を症状が出る前に早く見つけて、早く治療を行うことにより、病気の進行を遅くすることが期待されます。
しかし、現在はこれらの病気をもつ患者さんは、症状が出た後に病院を受診し、色々な検査を受けた後に診断される例がほとんどで、症状が出る前の早期に発見をする手段がありません。
研究の内容
今回の研究では、治療法がある重症複合免疫不全症、脊髄性筋萎縮症、ポンペ病、ファブリー病、ゴーシェ病、ムコ多糖症1型、ムコ多糖症2型の7つの病気の早期診断を目指します。
現在、兵庫県や神戸市などの自治体の公的事業として、公費を用いて20の病気に対する新生児マススクリーニング検査が実施され、生後間もない時期に採血が行われています。今回の研究では、保護者から参加に同意をいただいた赤ちゃんの採血の一部を用いて検査を行います。そのため、この研究のための追加の採血はありません。この任意の検査は有料です。
検査の結果、精密検査が必要と判断された場合のみ、専門医のもとに紹介され、本当に病気かどうかについて精密検査が行われます。精密検査で病気と診断された場合は、専門医による早期治療がなされます。
この研究を行うにあたり、一般社団法人兵庫小児先進医療協議会(代表理事:飯島一誠)を設立しました。研究の概要については協議会のホームページでも紹介しております(一般社団法人兵庫小児先進医療協議会 HP)。
今後の展開
今回の研究により、これまでは症状が出現してから発見・診断された難病が、症状が出る前に診断することが可能となります。症状が出る前に診断された患者さんに対して、早期に治療を始めることで、症状の進行を抑えることが狙いです。
例を二つ挙げます。
重症複合免疫不全症は生まれつきの免疫系の異常により、病原体から体を守ることができず感染症を繰り返す病気です。2020年10月から乳幼児に激しい嘔吐や下痢を引き起こすロタウイルス胃腸炎のワクチンが定期予防接種の対象となりましたが、この病気をもつ赤ちゃんがロタウイルスなどの生ワクチン接種を受けると、重症の副反応を起こす可能性があります。接種する前に、病気が診断されるとこのような事態を防ぐことができます。
脊髄性筋萎縮症は運動神経が十分に機能せず、全身の力が徐々に弱くなる病気です。重症の場合、赤ちゃんのうちに運動発達がとまり、次第に寝たきりとなり、食事をすることや呼吸ができなくなります。しかし早期に治療を行うことにより運動発達を改善する治療が開発されました。症状が進行する前に病気が診断されると、早期に治療を開始することができます。
この研究には現在、兵庫県下の16の病院が参加しています。しかし、兵庫県下で生まれる赤ちゃんすべてにこの任意検査を提供できていません。今後は、参加施設を増やし、多くの赤ちゃんを検査し、病気の赤ちゃんをいち早く診断し、治療に結び付けたいと考えています。
謝辞
この研究は、兵庫県および神戸市の協力を得て実施しています。
また、一般社団法人日本小児先進治療協議会から資金を得て実施します。