神戸大学大学院医学研究科の重村克巳教授、博士後期課程大学院生前田光毅らと、台北医学大学のKuan-Chou Chen教授、Shian-Ying Sung副教授、Shiuh-Bin Fang副教授らの研究グループは、COVID-19感染症により泌尿器科手術の件数がどのように影響を受けたかについて、神戸大学と台北医学大学のデータを比較・検討しました。神戸では病院単位でのCOVID-19診療への役割分担を明確にして対応にあたったのに対して、台北ではCOVID-19罹患者を増やさないように対応していることがわかりました。
この研究成果は、2023年2月14日に、International Journal of Urologyに掲載されました。
ポイント
- COVID-19感染症により医療機関は外来・入院診療だけではなく、手術件数にも大きな影響をうけたことが報告されている。
- 神戸大学医学部附属病院と台北医療大学の泌尿器科手術件数を比較し、2病院ともにアウトブレイクによる手術件数の減少は認めなかった。
- 神戸市では医療機関毎にCOVID-19への役割分担が明確にされ、神戸大学附属病院ではCOVID-19患者以外の診療に注力できたことが手術件数を維持できた要因である。
- 台北医学大学では、アウトブレイ後に早期にCOVID-19感染症の罹患者自体を減らすことに注力したことで、手術件数を維持できたと考えらえる。
研究の背景
ご存じの通り、2019年12月に中国で初めてCOVID-19感染症が報告され、私たちの日常生活はマスクをつけた生活や、三密を避けた行動が常に求められるなど非常に大きな影響を受けましたが、医療機関も同様に大きな影響を受けました。具体的には、患者さんの外来受診の敬遠や入院の延期希望だけではなく、感染初期にはマスクやガウンなどの医療資源不足など、また、感染流行期には入院病床のCOVID-19感染者による使用率が上昇することで、非COVID-19感染者への医療提供が困難になり、さらに重症COVID-19感染者の治療により術後患者に対して集中治療室が使用できなくなる、などのさまざまな影響がありました。
実際に、さまざまな施設からCOVID-19により診療体制に影響をうけたこと、また受診患者数が減少したことや手術件数が減少したことなどの報告がされていました。今回我々のグループは、日本と台湾という隣国ながらもCOVID-19の感染状況やそれに対する医療体制などの大きく異なる2国間で、COVID-19への診療体制や手術件数を比較することで、今後同様の感染症が出現した際にできうる対応について検討しました。
研究の内容
解析の対象期間は、神戸大学医学部附属病院では2019年1月~2020年3月を感染流行前、2020年4月~2021年9月を感染流行期とし、台北医学大学では2021年1月~2021年3月を感染流行前、2021年4月~2021年9月を感染流行期と設定し、それぞれの期間での3カ月ごとの泌尿器科手術件数を調査し、COVID-19感染流行の前後で比較しました。
上述の通り、神戸ではCOVID-19感染者については他医療機関との分業体制をとっており、神戸大学医学部附属病院では非COVID-19感染者の治療を優先して行うこととした。その結果、3ヵ月間の手術件数は感染前が237.2±29.6件に対して、感染流行期も246.3±20.8件 (p=0.453) と有意な変化は認めませんでした。
一方、台湾では2021年5月にCOVID-19患者が急増し (下図1)、台湾の主要な病院は全病床の20%をCOVID-19患者に提供することが行政から指示されました。そのため、該当機関である2021年4月~6月の手術件数は、感染流行前の平均と比較して33.3%もの減少がみられました。しかし、幸いにもその後のCOVID-19感染の抑制に成功したため、感染前の423.4±68.4件に対して373±91.0件 (p=0.298) と、こちらも有意な変化は認めませんでした。
手術の内訳について検討したところ、癌などの悪性疾患に対する手術件数は感染流行の前後で変化はありませんでしたが、排尿障害を呈することで有名な良性疾患である前立腺肥大症に対する手術件数は、神戸大学・台北医学大学ともに減少していました。
神戸大学では腎臓移植手術も行ってます。腎臓移植では術後に拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤が使用されるため、術後しばらくは集中治療室での管理を行っていました。しかし、COVID-19重症者の増加により当院でも一時的に手術患者へのICU利用が制限されました。その期間には腎移植手術は停止していました。
今後の展開
今回の2国間の診療体制や感染状況の比較を行うことで、神戸大学と台北医学大学へのCOVID-19への影響を評価することができました。特に神戸では、他医療機関との連携により手術件数を維持できていた一方で、台北では急激な感染者数増加に対して病床制限などをより強力に行い、早期に感染者数を抑制できたため手術件数を維持できていたことが明らかになりました。
今後も感染流行期に対して同様の対策をとることで安定した診療体制を維持できる可能性があると考えられます。
論文情報
- タイトル
- “A comparison of the impact of the COVID-19 pandemic on urological surgeries in Japan and Taiwan”
- DOI
- 10.1111/iju.15056
- 著者
- Koki Maeda, Katsumi Shigemura, Shiuh-Bin Fang, Young-Min Yang, Yi-Te Chiang, Shian-Ying Sung, Kuan-Chou Chen, Yuzo Nakano, Takayuki Miyara, Masato Fujisawa
- 掲載誌
- International Journal of Urology