神戸大学大学院海事科学研究科の岩田高志助教、松本大一氏(研究当時:大学院生)、荒木陸秀大学院生、海洋研究開発機構の小川真由特任研究員 (研究当時:京都大学大学院農学研究科)、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の赤松友成研究院教授、京都大学東南アジア地域研究研究所の木村里子准教授らの研究グループは、大阪湾の明石海峡周辺海域において、イルカが冬から春にかけて時々出現していることを、1年間以上にわたる受動的音響モニタリング注1で明らかにしました。イルカの出現は、海苔(ノリ)養殖が行われる季節と一致しており、イルカが人間活動によって一時的に生態系が豊かになった海域を利用している可能性が高いことが分かりました。日本有数の海上交通量を誇る明石海峡において、夜間を中心にイルカが採餌をしていることもわかり、高度に都市化された海域でも、海生哺乳類と人間活動が共存しうる可能性が示されました。この研究成果は、2026年1月12日に『Aquatic Mammals』にオンライン掲載されました。

イラスト:きのしたちひろ

ポイント

  • 大阪湾という都市型海域で、イルカの継続的な出現を初めて音響的に確認
  • イルカの出現時期はノリ養殖期と一致し、人間活動が生態系を一時的に豊かにしている可能性
  • 船舶交通量の多い明石海峡周辺海域でも、イルカと人間の共存が成立している可能性を示唆

研究の背景

大阪湾は日本有数の大都市・大阪と神戸に隣接し、1,000万人以上の生活圏を支える海域です。商業漁業、レジャー漁業、埋立をはじめとする海洋開発、船舶交通など、さまざまな人間活動が集中しています(図1)。また、大阪湾では、市民からの情報や新聞などの記事において、イルカが観察されることが報告されていますが、科学的な調査はこれまで行われてきませんでした。そこで本研究では、都市化された海域において、イルカと人間活動の関係を調べることを目的とし、大阪湾において音響調査を実施しました。

図1 船舶交通、埋立(空港含む)、漁業、養殖業など人間活動が盛んな大阪湾

研究の内容

本研究では、明石海峡周辺の2地点(神戸市舞子および須磨)に受動的音響観測機「A-tag」を設置し、約1年半にわたって合計13,000時間以上の音響データを取得しました(図2)。A-tagはイルカ類が発する鳴音(クリック音注2)を検出し、その記録からイルカの存在や採餌イベントを推定できる機器です。得られたデータを解析することで、マイルカ科とネズミイルカ科のクリック音に分類できます。

図2 音響観測機(A-tag)を設置した地点 明石海峡周辺の舞子(緑丸)と須磨(赤三角)の2地点にA-tagを設置。
大阪湾内の黒い四角は、冬から春にかけて行われるノリ養殖を示す。

解析の結果、マイルカ科のクリック音は合計253回検出され、冬から春(12~4月)に集中して出現し、夏や秋にはほとんど検出されませんでした(図3)。また、調査期間中に季節ごとに実施した洋上の目視観測調査では、マイルカ科の動物としてハセイルカ(図4)のみが確認されたことから、検出されたクリック音はハセイルカに由来することが推察できます。

クリック音の多くは夜間に検出され、その中には餌を捕らえる際に発する「バズ音」注3も含まれていました。このことから、ハセイルカが夜間に明石海峡を利用して採餌をしていることが示唆されました。さらに、検出されたクリック音の数は水温が低いほど多くなる傾向が統計的に確認され、冬から春にかけて行われるノリ養殖期と出現ピークの時期が一致することも明らかになりました(図3)。小魚やエビなどの小さな生物はノリ養殖網を棲家として利用する可能性があり、またクロダイなどの魚類はノリを捕食することが知られています。つまり、ノリ養殖期間には養殖網周辺の生態系が一時的に豊かになると考えられ、そこに集まる餌生物を狙ってイルカが出現している可能性が示唆されます。

図3 A-tagに検出されたハセイルカのクリック音の数の季節変化(上:舞子、下:須磨) 棒グラフは1日あたりのクリック音数の月平均値(棒の上の線は標準偏差、赤部はバズ音の割合)、折れ線グラフは月の平均水温を示す。図上部の黒いバーはノリ養殖の期間を示す。

これらの結果は、大阪湾のように都市化が進み人間活動が非常に活発な海域であっても、イルカに即座に負の影響を与えているわけではなく、季節的な環境変化などを通じてイルカが柔軟に海域を利用している可能性を示しています。

*補足:大阪湾にはネズミイルカ科のスナメリも生息していますが、本調査期間中にスナメリ由来のクリック音は1日しか検出されなかったため、本リリースではハセイルカのクリック音に関する結果を紹介しています。

図4 大阪湾で見られるハセイルカ

今後の展開

今回の研究は、大都市圏に隣接し多様な経済活動が集中する大阪湾を、ハセイルカが採餌のために利用していることを明らかにしたものです。これは、都市化の進んだ沿岸域においても、野生動物と人間活動が共存しうる可能性を示す重要な知見です。

現在、大阪湾内の他の海域でも音響データが蓄積されています。今後は、それらのデータを比較することで、イルカ類が大阪湾を利用する理由をより詳細に明らかにしていく必要があります。具体的には、餌生物の分布や海洋環境の違い、季節による出現パターンの変動などを総合的に解析し、彼らの生態の解明や人間活動との関連性を定量的に評価することが課題です。また、他地域の沿岸海域との比較研究を進めることで、都市湾における野生動物との共存の普遍性や地域固有の特徴を明確にすることができます。

こうした知見の蓄積は、海洋利用と生態系保全を両立させるための政策づくりにも直結し、大阪湾が持続可能な海域利用のモデルケースとして役割を果たす可能性を広げます。本研究はその第一歩として、都市化された海での新たな生態系理解を切り開くものとなると期待されます。

用語解説

注1 受動的音響モニタリング(Passive Acoustic Monitoring: PAM)

水中にハイドロフォン(マイク)を設置し、イルカなど海洋生物の音や船舶の人工音を記録する調査手法。

注2 クリック音

ハクジラ類が発する高周波音で、周囲を探る(エコーロケーション)のために用いられる。

注3 バズ音

クリック音の一種で、餌生物を捕らえるときに発する高速連続音。捕食行動の指標となる。

謝辞

本研究は、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20224R01)、クラウドファンディング「スナメリの未来を救え!大阪湾で生きるスナメリが人と共存するために」、科学技術振興機構の創発的研究支援事業(JPMJFR2171)、京都大学東南アジア地域研究研究所「グローバル共生に向けた東南アジア地域研究の国際共同拠点」(R7-8 5-1)より資金サポートを得て実施しました。

野外調査においては、神戸市、国土交通省近畿地方整備局姫路河川国道事務所東播海岸出張所、東洋建設株式会社、有限会社プラフィット工業にご協力いただきました。

論文情報

タイトル

A Possible Example of the Coexistence of Dolphins and Marine Economic Activity in Osaka Bay, Japan

DOI

10.1578/AM.52.1.2026.1

著者

Takashi Iwata (岩田高志), Taichi Matsumoto (松本大一), Mayu I. Ogawa (小川真由), Tomonari Akamatsu (赤松友成), Takahide Araki (荒木陸秀), Satoko S. Kimura (木村里子)

掲載誌

Aquatic Mammals

報道問い合わせ先

神戸大学総務部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者

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