神戸大学大学院農学研究科の木田森丸助教(当時。現:准教授)、農業・食品産業技術総合研究機構の和穎朗太上級研究員(当時)、新潟大学農学部の永野博彦助教らの研究グループは、火山灰を母材とする土壌(黒ボク土、図1)を対象に、土壌中の炭素を安定に保持する仕組みを全球規模で解析しました。世界34カ国から収集した約2850点の土壌データを統合解析した結果、土壌有機炭素の量と最も強く関連する要因は、「有機物と結びついた状態のアルミニウム(有機複合体アルミニウム)」であることを明らかにしました。黒ボク土は母材や生成過程のばらつきが比較的小さいため、これまで議論が続いてきた「全球規模で土壌炭素貯留を規定する鉱物特性は何か」という問いに対し、説得力のある証拠を提示した点が大きな成果です。

この発見により、数ある土壌鉱物特性の中で重点的に調べるべき指標が明確となり、効率的なデータ取得が可能になります。これによって、全球規模の土壌炭素動態モデルの精緻化や、土壌の炭素貯留ポテンシャルの評価の高度化が期待されます。

さらに本研究では、土壌の酸性度(pH)の違いによって、炭素を保持するメカニズムが体系的に変化することも示されました。酸性条件ではアルミニウムが炭素安定化の中心的役割を担う一方、中性条件ではカルシウムの寄与が強まることが明らかとなり、土壌の化学状態に応じて炭素安定化の仕組みが切り替わることが示唆されました。

これらの成果は、土壌炭素の安定性を理解するための新たな枠組みを提示するものであり、気候変動予測モデルにおける土壌炭素の扱いの高度化、さらには炭素を効率よく蓄える土壌の評価や管理手法の開発につながることが期待されます。

この研究成果は、2026年2月20日に、土壌学分野の国際誌である『Geoderma』に掲載されました。

図1.多様な黒ボク土の断面 黒ボク土は主に火山灰を母材とする比較的若い土壌であるため、他の土壌タイプに比べて、母材の種類(土壌が生成する基となる物質、通常は鉱物)や土壌生成に要する時間が狭い範囲に収まる。にもかかわらず、気候や立地条件などの違いにより多様な土壌が形成される。土壌有機物を比較的多く保持できることも特徴であり、炭素含量は図中の色が薄い表層土壌であっても3%程度あり、暗色の層では、15%に達する場合もある。図の黄色と黒の尺は各10 cmで、どの土壌断面も約1mの深さまで見えている。©島田紘明(CC-BY-ND)

ポイント

  • 世界34カ国・約2,850点の黒ボク土データから、土壌炭素貯留を支配する主要因として有機複合体アルミニウムを特定した。
  • 土壌pHの違いに応じて切り替わる、炭素安定化メカニズムを体系的に解明した。
  • 気候変動予測モデルの精緻化や、炭素貯留を最適化する土壌管理技術への応用可能性が期待される。

研究の背景

土壌有機炭素※1の長期的な安定性は、気候変動の将来予測において重要な不確実性の一つです。これまで、土壌有機炭素は鉱物との相互作用によって保護されると考えられており、特に粘土鉱物や鉄・アルミニウムを含む反応性金属相の重要性が指摘されてきました。しかし、土壌は母材や生成時間が大きく異なるため、これらの要因が複雑に影響し合い、土壌有機炭素と鉱物の関係を全球規模で統一的に理解することは困難でした。

そこで本研究では、火山灰を母材とする土壌(黒ボク土※2、図1)に着目しました。黒ボク土は、母材が比較的均一で、生成時間も比較的若いという特徴を持ち、土壌生成過程に伴うばらつきをある程度抑えることができます。この特性を活かすことで、気候や土壌化学条件の違いに起因する影響をより明確に捉え、土壌有機炭素と鉱物との関係を全球規模で比較することが可能になります。

特にアルミニウムについては、短距離秩序鉱物※3(非晶質鉱物)や有機物との複合体など複数の形で存在し、それぞれが異なるメカニズムで炭素と相互作用する可能性があります。しかし従来の研究では、これらを区別せずに評価することが多く、炭素安定化の実体的な担い手が曖昧なままでした。また、これらの関係が環境条件に応じてどのように変化するのかについても、体系的な理解が十分に進んでいませんでした。

研究の内容

本研究では、土壌有機炭素と反応性金属相との関係を全球規模で明らかにするため、火山灰由来土壌(黒ボク土)に着目し、世界34カ国から収集した約2850点の土壌データを解析しました(図2)。他の土壌タイプに比べて、黒ボク土は母材や土壌発達時間が比較的共通しているという特徴があります。そのため、それらの影響を最小限にすることで、全球規模における気候や土壌化学条件の影響をこれまで以上に明確に評価できます。

図2.本研究で収集した土壌データのマップ 各点の色は土地利用を、形は土壌の発達度合い(AndicがVitricよりも土壌生成が進んでいる)を表す。NAはデータ無し。Kida et al. Geoderma(2026) CC BY-NC。

解析では、アルミニウムおよび鉄をそれぞれ異なる存在形態に分けて評価し、特に有機物と結合したアルミニウム(有機複合体アルミニウム※4)と、非晶質鉱物として存在するアルミニウムを分離して評価しました。その結果、土壌有機炭素の量を最も強く説明するのは、有機複合体アルミニウムであり、非晶質鉱物や鉄も一定の寄与を示すものの、それらに比べて有機複合体アルミニウムの寄与が顕著に大きいことが明らかになりました(図3)。これは、従来ひとまとめに扱われることの多かった反応性アルミニウムの中でも、特定の形態が炭素安定化において中心的な役割を担っていることを示しています。

図3.土壌有機炭素含量に対する有機複合体アルミニウム含量の影響(一般化加法混合モデルによる偏効果) 縦軸は土壌有機炭素含量(%)スケールでの変化量を示す。各点の色は土壌の発達度合いを、形は主要な土壌Alの形態を表し、網掛けは影響の95%信頼区間を示す。Kida et al. Geoderma(2026) CC BY-NC。

さらに、統計モデルを用いた解析から、これらの金属形態と土壌有機炭素との関係が、土壌の酸性度(pH)※5および気候条件、特に年間の水分収支(降水量と蒸発量の差)に応じて系統的に変化することが示されました(図4)。水分条件が高い環境では土壌が酸性化しやすく、アルミニウムが支配的な役割を果たす一方で、より乾燥した条件や中性に近い環境では、塩基性元素であるカルシウムの影響が増大することが明らかになりました。これらの結果は、土壌中の炭素安定化が単一の要因で決まるのではなく、気候と土壌化学状態が連動する中で、支配的なメカニズムが切り替わることを示す重要な知見です。また、このメカニズムの切り替わりは、将来的な気候変動に伴う水分環境の変化が、土壌炭素の安定性に直接影響しうることも示唆しています。

図4.各土壌pHクラスにおける、土壌有機炭素含量に対する各変数の重要度 水分条件が高い環境では土壌が酸性化しやすく、有機複合体アルミニウムが支配的な役割を果たす一方で、より乾燥した条件や中性に近い環境では、カルシウムの影響が増大する。相対的重要度は一般化加法混合モデルにおける、各変数をモデルから除去した際の赤池情報量基準の変化量(ΔAIC)に基づき推定。Kida et al. Geoderma(2026) CC BY-NC。

今後の展開

本研究は、土壌中の炭素がどのように安定化されるかを理解するための新たな枠組みを提供するものです。特に、本研究で示されたように、炭素安定化の仕組みは土壌の酸性度や土壌生成環境に応じて変化します。この知見は、気候変動予測に用いられる地球システムモデルにおいて、土壌炭素の振る舞いをより現実的に再現するための基盤となります。特に、単一の指標ではなく、土壌の化学状態に応じて支配的なプロセスが切り替わることを考慮することで、炭素循環の予測精度の向上が期待されます。

さらに、土壌の炭素貯蔵能力を評価・管理する上でも、本成果は重要な示唆を与えます。有機複合体アルミニウムが炭素安定化の中心的役割を果たすことが明らかになったことで、この形態のアルミニウム形成を促す土壌条件の理解は、炭素を長期間保持しやすい土壌の特定や、土地利用・管理手法の設計につながる可能性があります。今後は、有機物の投入と金属供給(風化・溶脱)の相互作用を統合的に評価することで、より実践的な炭素管理戦略の構築が期待されます。

用語解説

※1 土壌有機炭素(SOC:Soil Organic Carbon)

土壌中に含まれる有機物由来の炭素の総称。植物や微生物に由来し、地球規模の炭素循環や気候変動に大きく関わる。

※2 黒ボク土(Andisols)

火山灰等を母材として形成された土壌で、日本をはじめ火山地域に広く分布する。有機物や反応性の高い鉱物を多く含み、炭素を多量に蓄積する特徴を持つ。

※3 短距離秩序鉱物(Short-range-order minerals)

結晶構造が未発達な鉱物(非晶質鉱物)。火山灰土壌などに多く含まれ、有機物と結合することで炭素の安定化に関与する。

※4 有機複合体アルミニウム(organically complexed aluminum)

土壌中の有機物と物理的または化学的に結合した状態のアルミニウム。土壌中の有機物を安定化し、分解されにくくする働きを持つと考えられている。

※5 土壌の酸性度(pH)

土壌の酸性・アルカリ性の程度を示す指標。土壌中の化学反応や鉱物の性質を大きく左右し、炭素の安定化にも影響する。降水量が多い森林植生下において低く、蒸発散量が多い乾燥地では高くなる傾向がある。

謝辞

本研究で構築した世界黒ボク土データベースは、秋田県立大学の高橋正教授および東北大学の南條正巳名誉教授によって提供された、Tohoku University World Andosol Database (TUWAD)を拡張したものです。データベースはこちらから無償で公開されています。 
https://doi.org/10.1594/PANGAEA.977631

本研究は、神戸大学農学部スタートアップ経費および科研費JP24H01513(研究代表者・木田森丸)、JP25K03249(研究代表者・木田森丸)、JP21H02231(研究代表者・永野博彦)、JP22H05717(研究代表者・永野博彦)、JP21H03580(研究代表者・伊藤 昭彦)の助成を受けたものです。

論文情報

タイトル

“Organo-aluminum complexation as a dominant metal control on soil carbon storage in Andisols: Global evidence across pedogenic and pH gradients”

DOI

10.1016/j.geoderma.2026.117740

著者

Morimaru Kida, Hirohiko Nagano, Hiroaki Shimada, Jumpei Fukumasu, Rota Wagai

掲載誌

Geoderma

報道問い合わせ先

神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者

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