神戸大学大学院医学系研究科 放射線医学分野の祖父江 慶太郎 准教授、村上 卓道 教授および消化器内科学分野の増田 充弘 准教授、児玉 裕三 教授 らの研究グループは、造影CTおよび非造影CT画像から膵癌に関連する直接的および間接的な画像所見を検出し、膵癌を高精度に診断する深層学習(AI)モデルを開発しました。

膵癌に対する画像診断において、特に小さな膵癌の発見は熟練した医師にとっても困難を伴います。本研究では、腫瘍の直接的な影(腫瘤)だけでなく、膵実質の萎縮や主膵管の拡張・狭窄といった「間接所見」をも同時に検出する特化型AIモデルを開発しました。外部データを用いた評価の結果、開発したAIモデルは、経験豊富な専門医と同等あるいはそれを上回る診断性能を示しました。とりわけ、20mm以下の小さな膵癌においては、専門医を大きく上回る感度で病変を発見できることが証明されました。今後、これらのAIモデルを実際の臨床現場における「第二の読影医」として活用することで、膵癌の早期発見や見落としの防止に大きく貢献することが期待されます。

この研究成果は、2026年6月17日に放射線医学分野の国際学術誌『Radiology』に掲載されました。

ポイント

  • 膵癌の早期発見にはCT検査が重要ですが、病変が小さいために見落とされることが多く、診断には高度な専門性が求められます。
  • 腫瘍そのもの(直接所見)に加えて、膵癌に伴う膵実質の萎縮や主膵管の異常(間接所見)を同時に評価できる深層学習モデルを造影CTと非造影CTで開発しました。
  • 開発したAIモデルは、6名の専門医と比較して造影CTにおいて同等(AUC 0.99)、非造影CTにおいて専門医を上回る(AUC 0.93 vs 0.91)診断性能を示しました。
  • 特に20mm以下の小さな膵癌に対する感度においては、造影CT(AI 98% vs. 医師平均 82.6%)および非造影CT(AI 86% vs. 医師平均 41.1%)の双方で、AIが医師を大きく上回りました。

研究の背景

膵癌は極めて悪性度が高く、5年生存率が約13%と予後不良な疾患です。しかし、10mm以下あるいはステージ0といったごく初期の段階で発見されれば、切除後の10年生存率は90%を超えることが報告されています。膵癌の診断には造影CT検査が広く用いられますが、腫瘍が小さいために見落としが生じやすいのが現状です。また、日常診療や健康診断で頻用される造影剤を使用しない「非造影CT」では、さらに病変の特定が困難になります。一方、早期の膵癌であっても腫瘍自体が見える前から主膵管の拡張や狭窄、膵実質の局所的な萎縮といった間接的な画像所見が先行して現れることが多く、これらを手掛かりにすることが早期発見の鍵となります。しかし、これらのわずかな形態変化を視覚的に捉えるには、豊富な経験が不可欠です。これまでにも膵癌診断用の深層学習※1モデルは報告されてきましたが、それらは腫瘍そのものの検出に限定されており、早期診断に極めて重要となる「間接所見※2」を統合して評価できるモデルは存在しませんでした。

研究の内容

研究グループは、2007年から2022年にかけて国内9つの医療機関や公開データから収集した2251名の患者の腹部CT画像を用いて、膵癌を総合的に診断する新たな深層学習モデルを開発しました。このモデルは、腫瘍の直接所見(膵腫瘤)に加え、早期病変のサインとなる間接所見(膵実質萎縮、主膵管拡張、主膵管狭窄)をそれぞれ個別に検出し、各所見の確率を組み合わせることで最終的な診断を下します。実際の臨床現場の様々な状況に対応できるよう、このAIシステムは造影CT※3用と非造影CT用の2つのモデルに分けて独立して構築されています。

画像①:AIモデルの診断プロセス(ワークフロー図) ©祖父江慶太郎(CC BY) 

Step 1 抽出:3D CT画像から膵臓(膵実質)と主膵管の領域をAIが自動で抽出します。
Step 2 検出:腫瘤の体積(直接所見)だけでなく、膵臓・膵管の太さの変化(グラフ)から「膵萎縮」「主膵管拡張」「主膵管狭窄」の確率(間接所見)を検出します。
Step 3 診断:検出された直接・間接の所見を組み合わせ、統計解析によって最終的な「膵癌の確率」を算出します。

開発したモデルの汎用性を検証するために、AIの学習には使用していない9つの医療機関から収集した外部テストデータセット(造影CTセット:190名/非造影CTセット:187名)を用意し、6名の経験豊富な医師(放射線科医および消化器内科医)による読影成績と比較しました。その結果、AIモデルの膵癌を診断する総合的な性能(AUC:受信者動作特性曲線の下の面積※4)は、造影CTにおいて0.99と医師の平均(0.99)と同等であり、非造影CTにおいては0.93と医師の平均(0.91)を有意に上回る結果となりました開

画像②:AIによる実際の膵癌検出の成功例(実際の画像とカラーマップ) ©祖父江慶太郎(CC BY) 造影CT検査(左):膵体部に20mm以下の小さな膵癌が認められ、末梢側の膵管拡張と膵実質萎縮がAI解析画像で検出できている。
非造影CT検査(右):人間の目では同定することが難しい膵頭部の膵癌であってもAI解析画像では確実に捉えることができている。

特に注目すべきは「小さな膵癌・早期のステージ」における発見率(感度)です。20mm以下の小さな膵癌において、AIモデルは医師の平均感度を凌駕しました(造影CT:AI 98% vs 医師 82.6%/非造影CT:AI 86% vs 医師 41.1%)。さらに、早期ステージであるステージ1(T1)の病変に関しても、AIモデルは医師よりも有意に高い感度で病変を検出できることが実証されました。これは、非造影CTであっても人間の目では見逃されやすい間接的な形態変化などを、AIが高感度に捉えられたことを示しています。

画像③:「小さな膵癌」の発見率(感度)におけるAIと専門医との比較 ©祖父江慶太郎(CC BY) 造影CT検査(左):専門医の平均感度が82.6%であるのに対し、AIモデルは98.0%と高い精度で小さな病変を検出した。
非造影CT検査(右):専門医でも発見が困難な(専門医平均41.1%)非造影CT検査でもAIモデルは86.0%の検出感度を維持し、医師の2倍以上のパフォーマンスを示した。

今後の展開

本研究により、直接所見と間接所見を統合したAIモデルが、造影CTおよび非造影CTの両方において膵癌を高精度に検出できることが実証されました。AIモデルが示した極めて高い「感度(病変を見つける能力)」と、医師が持つ高い「特異度(癌でないものを癌でないと正しく判断する能力)」は相互補完的な関係にあります。今後は、このAIモデルを実際の臨床現場において医師をサポートする「セカンドリーダー(第二の読影者)」として導入することで、読影者の経験不足を補い、診断のばらつきを減少させることが期待されます。特に、見落とされやすい小さな早期膵癌の発見率を向上させ、膵癌患者の予後改善に直結することが強く期待されます。

用語解説

※1 深層学習(Deep Learning / DL)
人工知能(AI)技術の一つで、人間の脳神経回路を模した多層のニューラルネットワークを用い、大量のデータから特徴を自動的に学習し高度なパターン認識を行う技術。

※2 間接所見(Indirect imaging findings)
腫瘍そのもの(直接所見)ではなく、腫瘍が存在することによって周囲の臓器や組織に引き起こされる二次的な変化のこと。膵癌においては、腫瘍によって引き起こされる膵実質の局所的な萎縮や、主膵管の拡張および狭窄などが代表的である。

※3 造影CT / 非造影CT(CECT / NCCT)
ヨード造影剤を血管内に投与して血流状態や組織のコントラストを明瞭にして撮影するCTを造影CT、造影剤を用いずに撮影するCTを非造影CTと呼ぶ。

※4 AUC:受信者動作特性曲線の下の面積(Area Under the Receiver Operating Characteristic Curve)
診断法の性能を評価するための指標。0.5(偶然)から1.0(完全な判別)の範囲をとり、1.0に近いほど診断精度が高いことを示す。

謝辞

本研究は、富士フイルム株式会社の支援を受けて行われました。また、科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業(助成番号:JPMJMS2022)、日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究プログラム(課題番号JP26ym0126817)の支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル

"Deep Learning Detection of Direct and Indirect Imaging Findings Associated with Pancreatic Cancer at Contrast-enhanced and Noncontrast CT"

DOI

10.1148/radiol.253122

著者

山口 尊(Takeru Yamaguchi), 祖父江 慶太郎(Keitaro Sofue), 増田 充弘(Atsuhiro Masuda), 平原 暢之(Nobuyuki Hirahara), 小笠原 彩(Aya Ogasawara), 權田 真知(Masanori Gonda), 三木 美香(Mika Miki), 上嶋 英介(Eisuke Ueshima), 矢部 慎二(Shinji Yabe), 梅野 晃弘(Akihiro Umeno), 戎 直哉(Naoya Ebisu), 小林 隆(Takashi Kobayashi), 酒井 新(Arata Sakai), 田中 宇多留(Utaru Tanaka), 家本 孝雄(Takao Iemoto), 角山 沙織(Saori Kakuyama), 江﨑 健(Takeshi Ezaki), 池川 卓哉(Takuya Ikegawa), 平田 祐一(Yuichi Hirata), 津村 英隆(Hidetaka Tsumura), 荻巣 恭平(Kyohei Ogisu), 塩見 英之(Hideyuki Shiomi), 藤垣 誠治(Seiji Fujigaki), 那賀川 峻(Takashi Nakagawa), 古松 恵介(Keisuke Furumatsu), 山中 広大(Kodai Yamanaka), 佐藤 悠(Yu Sato), 藤田 光一(Koichi Fujita), 芦名 茂人(Shigeto Ashina), 加藤 隆夫(Takao Kato), 武井 瑞希(Mizuki Takei), 児玉 裕三(Yuzo Kodama), 村上 卓道(Takamichi Murakami)

掲載誌

Radiology

掲載日

2026年6月17日

報道問い合わせ先

神戸大学企画部広報課

E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者