神戸大学大学院医学系研究科の青井貴之教授、二井諒子大学院生らの研究グループは、iPS細胞から作製したγδT細胞(iγδT細胞)が、患者由来大腸がんオルガノイドおよび動物モデルに対し、in vitro 培養系と動物移植モデルのいずれにおいても高い抗腫瘍効果を示すことを明らかにしました。

従来の研究では、免疫細胞の抗腫瘍効果は主に既存がん細胞株で検証されていましたが、本研究では患者由来がん組織を用いてiPS細胞由来γδT細胞の有効性を確認しました。さらに、動物移植モデルにおいては、腫瘍生着後の静脈内投与においても腫瘍増殖を抑制することを示しました。この結果は、進行・再発がんに対する効果を示唆し、同種iPS細胞由来の「オフ・ザ・シェルフ(既製品)型」がん免疫細胞療法の実現につながることが期待されます。

本研究成果は、7月24日にStem Cell Reports誌に掲載されました。

© R Futai and T Aoi (CC BY) 

ポイント

  • iPS細胞からフィーダーフリー・ゼノフリー条件でγδT細胞を作製。
  • 患者由来大腸がんオルガノイドに対する抗腫瘍効果をin vitroおよびin vivoで確認。
  • 腫瘍生着後の静脈内投与においても腫瘍増殖を抑制することを示した。
  • 健常人由来PBMCに対しては細胞傷害性を示さず、同種細胞治療としての安全性が示唆された。
  • 「オフ・ザ・シェルフ型」がん免疫細胞療法の実現につながることが期待される。

研究の背景

現行のCAR-T細胞療法は血液がんに対しては高い治療効果を示していますが、固形がんでは十分な効果が得られていません。また、自家細胞を用いるため製造に時間とコストを要するという課題があります。

γδT細胞※1は、主要組織適合抗原(MHC)に依存せず腫瘍を認識できる特徴を持ち、同種細胞を利用した細胞療法への応用が期待されています。しかし、末梢血由来γδT細胞は大量製造が困難であることから、実用化には新たな細胞供給源が必要でした。また、高い抗腫瘍効果が期待されている一方で、これまではがん細胞株を用いる評価にとどまっており、実際のがん患者さんの組織に対する効果は検証されていませんでした。

研究の内容

ヒトγδT細胞から作成したiPS細胞を用い、臨床応用を見据えたフィーダーフリー・ゼノフリー条件下でγδT細胞を誘導することに成功しました。

がんとの混合培養実験では、大腸がん細胞株および患者由来大腸がんオルガノイド※2に対して強い細胞傷害活性を示しました。

© Futai et al., Stem Cell Reports, 2026 (DOI: 10.1016/j.stemcr.2026.103018) (Permission required) 

さらに、免疫不全マウスへの移植モデルを用いた実験では、白血病細胞株、大腸がん細胞株、患者由来大腸がんオルガノイドに対して腫瘍増殖抑制効果を示しました。

また、局所投与だけでなく静脈内投与でも抗腫瘍効果が認められました。

© Futai et al., Stem Cell Reports, 2026 (DOI: 10.1016/j.stemcr.2026.103018) (Permission required) 

一方で、健常人由来PBMCに対しては細胞傷害性を示さず、同種細胞治療としての安全性が示唆されました。

今後の展開

本研究は、iPS細胞由来γδT細胞が患者由来大腸がん組織に対して抗腫瘍効果を示すことを明らかにした初めての報告です。

今後は臨床応用に向けて、臨床用iγδT細胞の製造や臨床試験開始に必要な非臨床データパッケージの取得を目指します。また、肺がんや膀胱がんなど他の固形がんへの応用も進める予定です。

さらに、CAR等の細胞機能を高める因子の導入技術との組み合わせにより、より高い治療効果を持つ次世代型細胞療法の開発へと展開します。

用語解説

※1 γδT細胞
ヒト末梢血リンパ球の数%を占めるT細胞の一種。MHCに依存せず腫瘍細胞を認識できる。

※2 オルガノイド
患者の腫瘍組織から作製した三次元培養組織。実際の腫瘍の性質を比較的よく保持している。

※3 オフ・ザ・シェルフ型細胞療法
患者ごとに細胞を作製するのではなく、あらかじめ製造・保存した細胞製剤を使用する治療法。

謝辞

本研究は JSPS 地域中核・特⾊ある研究⼤学強化促進事業(J-PEAKS)、広島・神戸・熊本 医療革新・研究共同推進イニシアティブ(HK²-MIRAI)等の支援を受けて行われたものです。

論文情報

タイトル

"Allogeneic iPSC-derived γδT cells demonstrate antitumor efficacy against patient-derived tissues"

DOI

10.1016/j.stemcr.2026.103018

著者

Ryoko Futai, Michiyo Koyanagi-Aoi, Aito Nakahashi, Daiki Katsura, Manabu Horikawa, Kazumasa Horie, Yoshihiro Kakeji, Yuzo Kodama, Takashi Aoi

掲載誌

Stem Cell Reports

報道問い合わせ先

神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者