神戸大学大学院理学研究科の末次健司教授(兼 神戸大学高等学術研究院卓越教授)は、森林内を歩き回るオカヤドカリが、光合成をやめた寄生植物「リュウキュウツチトリモチ」の種子を運んでいることを明らかにしました。
リュウキュウツチトリモチは、ほかの植物の根に寄生して栄養を得るツチトリモチ科の植物です。花が終わって結実期を迎えると、長さ約0.3mmのごく小さな果実を大量につけます。しかし、こうした“ほこり”のように小さな果実や種子が、風通しの悪い暗い林床でどのように散布されているのかは、これまでよくわかっていませんでした。
今回、石垣島の森林で昼夜にわたる直接観察とインターバルカメラによる調査を行ったところ、オカヤドカリがリュウキュウツチトリモチの果実を活発に食べていることがわかりました。また、果実を食べていたオカヤドカリのハサミや体表、背負っている貝殻には、多数の果実が付着していました。また、リュウキュウツチトリモチの株から離れた場所で見つかった個体からも、果実の付着が確認されました。さらに、オカヤドカリの糞からは無傷の種子が見つかり、その一部は消化管を通過した後も生存能力を保っていました。これらの結果から、オカヤドカリは果実を体表や背負っている貝殻に付着させて運ぶとともに、果実を食べた後に生きた種子を糞とともに排出することで、リュウキュウツチトリモチの種子散布に貢献していると考えられます。
本研究は、オカヤドカリが植物の種子散布者として機能することを世界で初めて実証したものであり、暗い林床に暮らす無脊椎動物が果たす、これまで見過ごされてきた生態学的役割に光を当てる成果といえます。
本研究成果は、8月11日に国際誌『Ecology』に掲載されました。

ポイント
- オカヤドカリが植物の種子散布者として機能することを、世界で初めて実証した。
- オカヤドカリは、リュウキュウツチトリモチの果実を食べるだけでなく、ハサミや体表、背負っている貝殻に果実を付着させて運んでいた。
- オカヤドカリの糞から無傷の種子が見つかり、その一部は消化管を通過した後も生存能力を保っていた。
- 暗く風通しの悪い林床では、地表を歩き回る無脊椎動物が、光合成をやめた植物の重要な種子散布者になりうることを示した。
研究の背景
植物は自力では移動できないため、種子を親植物から離れた場所へ運ぶことは、分布を広げ、次世代を残すうえで欠かせません。多くの鳥や哺乳類は、果実を食べ、消化されずに残った種子を糞とともに排出することで、植物の種子散布者として働いています。
一方、林床に暮らす小さな無脊椎動物の役割は、これまで十分には注目されてきませんでした。しかし近年、カマドウマ、ゴキブリ、ダンゴムシ、ハサミムシなど、従来は見過ごされがちだった動物が、生きた種子を運ぶ例が報告されるようになっています。特に、光合成をやめた植物の多くは、暗く風通しの悪い林床に生育します。そのような環境では、種子散布を風や鳥に頼るのではなく、地表を歩き回る小さな動物を利用した独自の種子散布システムが進化している可能性があります。
リュウキュウツチトリモチ※1は、光合成を行わず、ほかの植物の根に寄生して栄養を得る植物です。普段は地中で生活し、地上に姿を現すのは、キノコのようにも見える肉質の花序だけです。成熟すると、長さ約0.3mmのごく小さな果実を大量につけます。このような“ほこり”のように小さな果実や種子は、風や重力によって散布されると考えられがちです。しかし、本種が生育する暗い林床は風通しが悪く、風による散布に適した環境とはいえません。そこで本研究では、リュウキュウツチトリモチの果実を食べる動物がいるのか、さらに、そうした動物が単なる消費者ではなく、種子散布者になりうるのかを調べました。
研究の内容
末次健司教授は、石垣島の常緑林に生育するリュウキュウツチトリモチを対象に、成熟した果実をつけた株を訪れる動物を調査しました。昼夜を通じた直接観察に加え、インターバルカメラを用いて約90時間にわたる観察を行いました。
その結果、果実を主に食べていたのはオカヤドカリ※2であることがわかりました。オカヤドカリは、ハサミを使って果実や肉質の組織を削り取るように食べており、複数の個体が一つの株に集まる様子も確認されました。また、一晩のうちに株の地上部の大部分が食べられる例もありました。次に、オカヤドカリが実際に種子を運び得るのかを調べました。果実を食べていた個体を採集し、ハサミや体表、背負っている貝殻を洗浄したところ、多数の果実が回収されました。果実を食べている最中の個体には、平均で数十個、個体によっては100個以上の果実が付着していました。さらに、リュウキュウツチトリモチの株から5m以上離れた場所で見つかった個体からも、果実の付着が確認されました。これらの結果は、オカヤドカリが果実を体表や背負っている貝殻に付けたまま移動し、親植物から離れた場所へ運んでいる可能性を示しています。リュウキュウツチトリモチにとって、オカヤドカリは林床を歩く“種子の運び屋”になっていると考えられます。
さらに、果実を食べたオカヤドカリの糞を調べたところ、多数の無傷の種子が見つかりました。野外で果実を食べていた個体からも、実験的に果実を与えた個体からも、糞の中に無傷の種子が確認されました。また、TTC染色※3によって、消化管を通過した種子の一部が生存能力を保っていることも示されました。オカヤドカリ類が果実を食べることは知られていましたが、その行動が種子を壊す「食害」なのか、植物の繁殖を助ける「種子散布」なのかは、これまで十分に検証されていませんでした。本研究は、オカヤドカリが、体表への果実付着と糞中への生存種子の排出という二つの経路を通じて、植物の種子散布に関わりうることを初めて実証したものです。
また、オカヤドカリ類は国の天然記念物として保護されていますが、ペット利用などを目的とした捕獲が問題になることもあります。本研究は、オカヤドカリ類が珍しい生き物であるだけでなく、植物の繁殖を支える存在でもありうることを示しています。こうした生物同士のつながりを踏まえると、オカヤドカリ類を保全することは、オカヤドカリ類と関わる植物、ひいては生態系を守ることにもつながると期待されます。

注釈
※1 リュウキュウツチトリモチ
ツチトリモチ科ツチトリモチ属の寄生植物。光合成を行わず、ほかの植物の根に寄生して栄養を得る。地上に現れる肉質の花序はキノコのようにも見えるが、菌類ではなく被子植物である。
※2 オカヤドカリ
オカヤドカリ科オカヤドカリ属に属する陸生の甲殻類。本研究で扱った種はオオナキオカヤドカリ(Coenobita brevimanus)で、オカヤドカリ類の中でも大型で、比較的内陸の林床にも進出する。腹部を巻貝の殻に収め、その貝殻を背負って陸上を移動する。日本に生息するオカヤドカリ類は、国の天然記念物に指定されている。
※3 TTC染色
種子の生存能力を調べるための染色法。生きた種子は代謝活性によって赤く染まるため、生存能力の有無を判定できる。
謝辞
本研究は、科学技術振興機構(JST)さきがけ「情報分子が拓く植物による菌根菌への寄生能力獲得と制御」(課題番号:JPMJPR21D6、研究代表者:末次健司)の支援を受けて行われました。
論文情報
タイトル
"Unexpected allies: Land hermit crabs and cockroaches contribute to seed dispersal in a non-photosynthetic plant "
(意外な協力者:オカヤドカリとゴキブリが光合成をやめた植物の種子散布に貢献する)
著者
Kenji Suetsugu(末次 健司・神戸大学大学院理学研究科 / 神戸大学高等学術研究院)
掲載誌
Ecology
DOI
10.1002/ecy.70462
報道問い合わせ先
神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)






