神戸市が新型コロナウイルス感染症対策などの地域・行政課題の解決につながる研究を助成する「大学発アーバンイノベーション神戸」に、本学から10件の研究テーマが採択されました。神戸エリア(神戸市と阪神間、淡路島)にある大学の研究者が対象で、23件の応募があり14件が助成対象になりました。

 人文・社会科学分野で神戸市の地域課題、行政課題の解決につながる研究が対象です。今年度は特に、①新型コロナウイルス感染症拡大防止及び派生して生じる地域・行政課題、②感染拡大収束後に生じる地域・行政課題――が優先されました。49歳以下の若手研究者が助成対象になっており、本学からは特命助教2人、准教授6人、教授2人が研究代表者を務めています。部局別では、人間発達環境学研究科4人、人文学研究科3人、国際文化学研究科、経営学研究科、工学研究科各1人となっています。

 助成金額上限250万円の一般助成型では、「新型コロナウイルス感染症流行下における高齢者の運動不足解消支援の効果検証」(人間発達環境学研究科・原田和弘准教授)、「保育のICT環境に関する実態調査と保育者支援システム創りに関する研究」(同・北野幸子准教授)など新型コロナ感染症流行の影響を受けている人々を支援する研究や、「神戸における観光資源の再設定:ユダヤ人観光の可能性」(国際文化学研究科・辛島理人准教授)のようにコロナ感染収束後を見据えた政策提言につながる研究、神戸エリアに埋もれている文化や資料に光を当てる研究など、多彩な研究テーマが採択されました。

 助成金額上限1000万円の複合領域・民間企業連携型には、工学研究科・寺田努教授が研究代表を務める「スタジアム体験における自然な混雑緩和に寄与する要素の探索」が選ばれました。法学研究科の砂原庸介教授、重村荘平助手が研究分担者、楽天モバイル株式会社が連携企業になり、5G(第5世代移動通信システム)を活用して多人数が集まるスタジアムの混雑緩和方法の確立などを目指します。


「大学発アーバンイノベーション神戸」概要

(1)助成対象
研究内容:人文・社会科学分野とその関連分野からなる人文・社会科学系の研究
研究者:神戸エリアにキャンパスを有する大学等に所属する若手研究者
(2)助成条件
  • ・当該研究のテーマが神戸市の地域課題、行政課題の解決につながること
  • ・当該研究の中で、神戸市の文化、歴史、産業、地域、土地などを活用すること
(3)助成区分
①一般助成型
対象研究:助成対象及び助成条件を満たす全ての研究。 ただし、市内の地域団体やNPO等又は市の各部局と協働して行う研究を優先して採択。
助成金額:上限 300万円/ 件(大学等の事務経費を含む)
助成期間:~(最長)令和3年度末
審査方式:書面審査
審査項目①解決したい課題の内容、②研究内容、③NPO等との連携
②複合領域・民間企業連携型
対象研究:複合領域の研究者と連携しながら、スタートアップも含めた民間企業と協働し、研究を通じて、新たな社会的価値を創出する事業につながる研究
助成金額:上限 1,200万円/ 件(大学等の事務経費を含む)
助成期間:~(最長)令和4年度末
審査方式:面接審査
審査項目①解決したい課題の内容、②研究内容、③社会実装

本学から採択された研究テーマ

本学から採択された研究テーマは下記のとおりです。

今後、それぞれの研究活動で具体的な成果を出せるよう、神戸市による支援のもと、研究者が主体となって研究活動を進めていきます。

 

①一般助成型

研究代表者 井上 舞 (人文学研究科)

研究テーマ「神戸市域に所在する文書群の調査・活用・公開に関する研究」

概要:
本研究では、神戸市が抱える諸課題やコロナ後の地域社会を見据えた、地域存続の基盤となる地域歴史文化継承のための実践的研究に取り組む。具体的には、将来的に地域住民自身が地域歴史文化の担い手になってもらうことに重点を置き、①地域歴史文化の基礎となる地域歴史資料を保全すべく、神戸市北区をフィールドに、地域に所在する歴史資料の悉皆調査を実施する。②地域に残された歴史資料を用いて調査・研究に取り組み、神戸市の主要産業である酒造業や、近世以降大きく変化した中央区の景観に関する具体的な歴史像を提示する。③①・②を通して得られた学術的成果を、地域住民によりわかりやすく提示・共有する方法について検討し、神戸市の歴史文化発展へとつなげる。

研究代表者 加藤 明恵 (人文学研究科)

研究テーマ「灘の酒造家吉田家の文化・学術活動の研究」

概要:
本研究では、住吉の豪商・吉田家を対象として、近世灘酒造家の文化・学術的活動にかかわる具体的な歴史像を新たに提示する。吉田家は灘の有力な酒造家・廻船業者として地域経済を担う一方で、古器物・古文書等を蒐集し、模写・拓本を『聆濤閣集古帖』として編集するなど、全国的にも希有な文化・学術活動を展開した。しかしながら現在、地域においてその存在はほとんど忘れられており、神戸の文化史・経済史における重要な人物を見落としてしまっている。そこで、近世中後期を対象に、吉田家の茶会や学術的交流などの文化活動に加え、かかる活動を可能にする廻船業・酒造業についても実態を解明し、神戸の文化的土壌の再検討へとつなげる。

研究代表者 佐々木 祐 (人文学研究科)

研究テーマ「「病」と「厄災」をめぐる比較都市史的研究:感染症対策と公衆衛生言説を中心に」

概要:
海港都市・神戸の歴史的・社会的編成は、外部から到来する人・モノだけでなく、様々な病や災害との交渉によっても彩られている。本研究では、そうした経験がどのように想起され記述されたか、またどのように継承され現在に息づいているのかを、さまざま報道・記録資料、そしてオーラルヒストリー資料の収集・分析を組み合わせ、この地に根ざした記憶に人文学的な光を当てることを目的とする。神戸新聞や外国人支援団体との緊密な連携によって進められる本研究の成果は、その都度広く公開され、さらなる資料や経験の発掘・収集と分析へとつながる。開港以降数次にわたる戦争や疫病、そして震災とコロナ禍を経験した港町神戸に蓄積された知恵の数々は、より良き未来の生のための貴重な資産となるだろう。

研究代表者 辛島 理人 (国際文化学研究科)

研究テーマ「神戸における観光資源の再設定:ユダヤ人観光の可能性」

概要:
ユダヤ世界とのつながりを考えた場合、神戸にはどのような資源があるか? また、それらは外国からの旅行者を魅了する観光資源になりうるか? 開港以降の神戸とユダヤ社会の関係、特に、ユダヤコミュニティの形成史、戦時期におけるヨーロッパからのユダヤ系難民受け入れ、戦後神戸におけるユダヤ人の活躍、これらの歴史をふまえ、ユダヤ人旅行者を誘致しうる文化資産を整理する。それを通じて、神戸におけるグローバルな歴史文化資源を再発見し、ポストコロナを見越したインバウンド戦略、特にヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドからの海外個人旅行者(FIT)の開拓のための観光政策立案に寄与する。

研究代表者 佐藤 真行 (人間発達環境学研究科)

研究テーマ「新型コロナウィルスの感染拡大下での都市の生態系サービスとその評価」

概要:
新型コロナウィルスの感染拡大が深刻化するなか,都市住民の生活は大きく変容し,様々な制約を強いられている。本研究は,災害リスクの緩和やレクリエーションの提供といった従来認識されてきた生態系の機能に対する評価だけでなく,パンデミック下における生態系の価値を認識し,都市域の生態系が都市住民の生活に与える貢献を定量的に評価することで,神戸市において生態系保全を行うことの意義や効果を分析する。これにより、きたるべき将来のパンデミックや、都市開発に伴う土地改変の圧力を想定したうえで、望ましい都市生態系保全策について、生態学、経済学、リスク論の学際的研究によって明らかにする。

研究代表者 原田 和弘 (人間発達環境学研究科)

研究テーマ「新型コロナウイルス感染症流行下における高齢者の運動不足解消支援の効果検証」

概要:
新型コロナウイルス感染症の流行は、高齢者の運動不足をもたらし、彼らの健康リスクを高めることが懸念されている。運動は、健康に大切と分かっていても習慣化に挫折しがちな行動の代表格のため、運動不足の健康リスクや自宅での運動法などの情報を発信するだけでは、運動不足を解消できない。一方、申請者らの実績では、高齢者の運動の習慣化には、運動の自己管理スキル(自己調整)を高める支援が有効である。そこで本研究では、運動の自己管理スキルを高める情報を中心としたリーフレット教材を開発し、週1回・7週、灘区での募集に応じた高齢者へ郵送することで、同感染症流行下でも彼らの運動時間を増大できるかを検証する。今後、本教材を神戸全体で提供することで、高齢者の運動不足解消と健康リスク低減を期待できる。

研究代表者 大野 朋子 (人間発達環境学研究科)

研究テーマ「感染症対策下における都市公園の重要性評価とこれからの公園利用への提案」

概要:
外出自粛が続く中、公園の利用者は著しく増加し、過密状態となった公園での感染リスクが懸念された。実際には公園利用による感染報告は無かったが、今後は感染予防を踏まえた利用法を考える必要がある。一方で、都市公園はKOBE VISIONにより、賑わいやコミュニティ形成の場として期待され、将来の神戸らしいまちづくり構想には、人々の賑わいや触れ合いを創出しつつ、感染を防止する公園利用の提案が不可欠である。従って、本研究は都市公園の利用状況を感染症発生前後で明らかにし、感染拡大リスクを客観的に分析したうえで、公園の重要性評価を行う。この成果から神戸市の再整備計画に寄与する今後の都市公園のあり方や利用方法を提案する。

研究代表者 北野 幸子 (人間発達環境学研究科)

研究テーマ「保育のICT環境に関する実態調査と保育者支援システム創りに関する研究」

概要:
コロナ禍においてクラスター発生への不安や緊張を抱きつつ開所し続けた保育施設が社会基盤を支える重責を担ったことに心より敬意を表する。しかしその機能への社会的認知と実際の体制整備については、園による差が大きいといった実態があったことが予測される。本研究では特に、不安を軽減し、各種判断の根拠となる研究データの提供や、遠隔にかかわる各種支援に資するため、神戸市内の園のICT環境の実態を調査し、コロナ禍における各種工夫とニーズについて情報を収集し、第二波および今後の感染症や災害時において機能しうる神戸市の包括的保育者支援システム創りを行う。

研究代表者 森村 文一 (経営学研究科)

研究テーマ「新型コロナウイルス感染症拡大による制限等緩和後の消費者のデジタル経験の継続利用または地域コミュニティへの回帰に関する研究」

概要:
神戸は、最先端のデジタル技術を用いて様々なサービスや消費経験を構築し新たな価値を創造しようとしている先進的取り組みを行っている地域である。一方で、例えば店舗数が増加している地域型・近隣型商店街が多くあり、魅力的な非デジタル経験を提供し続けている地域でもある。 昨今の新型コロナウイルス感染症拡大とそれに伴う緊急事態宣言によって、消費者は強制的にデジタル経験(例えば、電子商取引(EC)やデリバリーサービス、デジタル行政サービスなど)を採用することとなった。「強制的」に、またデジタル経験の価値を理解しないまま「不本意に」デジタル経験を採用した消費者が、今後も採用し続けるのか、採用を止めて従来の非デジタル経験の採用に戻るのか、これら異なる行動を分ける要因や発生メカニズムは理論的には解明されていない。この研究を通して、強制的にデジタル経験を採用した消費者が、a)新型コロナウイルス感染症拡大の収束後、制限が無くなってもデジタル経験を採用し続けるのか、それともb)新型コロナウイルス感染症拡大以前の非デジタル経験(例えば、従来の小売店舗や飲食店を含む地域コミュニティの利用や、対面コミュニケーション等)の採用に戻るのか、これら異なる行動を分ける要因を特定し、サーベイ調査および実証分析を通してそのメカニズムを解明することを目指す。

②複合領域・民間企業連携型

研究代表者 寺田 努 (工学研究科)

研究テーマ「スタジアム体験における自然な混雑緩和に寄与する要素の探索」

概要:
新型コロナウイルスの世界規模での蔓延から三密を避けた行動が求められており、スポーツ観戦などの多人数が一堂に会するイベントにおける混雑緩和は、今後のスポーツ・エンタテインメントやその地の行政にとって最重要課題になる。本研究は、ストレスなく自然な形で人々の混雑緩和を誘発する方式により、システムを利用した被験者の行動変容に与える影響とその要因を明らかにする。具体的には、イベント等での混雑緩和を(a)参加形態の分散による効果と(b)帰宅を分散させることによる効果に分け、特に5Gを活用した行動センシングを活用し、イベント終了後の関連コンテンツ提示による誘因効果を用いた無意識での分散帰宅を実現する仕組みを確立する。

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