理化学研究所(理研)計算科学研究センター複雑現象統一的解法研究チーム坪倉誠チームリーダー(神戸大学大学院システム情報学研究科教授)らの共同研究グループ は、2020年に世界最速のスーパーコンピュータ「富岳」[1] を用いて、詳細かつ定量的なCOVID-19の飛沫・エアロゾル拡散モデルを構築し、感染症疫学のデジタルトランスフォーメーションに初めて成功しました。このたび、本研究が、高性能並列計算を科学技術分野へ適用することに関してイノベーションの功績が最も顕著と認められた研究に与えられる米国計算機学会のゴードン・ベル賞のCOVID-19研究特別賞を受賞しました。特に飛沫やエアロゾルの飛散の様子を見える化することで、飛沫エアロゾル感染についての理解と対策の重要性を啓発し、日本のみなならず世界の人々の行動に変化をもたらしたことが評価を受けました。

ゴードン・ベル賞の発表は米国ミズーリ州セントルイスのアメリカズ・センター及びオンラインで開催される国際会議において、現地時間11月18日(木)12時30分(日本時間11月19日(金)午前3時30分)より行われました。

※ 本研究の計算資源の一部は東京大学情報基盤センターと筑波大学計算科学研究センターが共同運営する「Oakforest-PACSスーパーコンピュータシステム」が使用されています。

飛沫・エアロゾル拡散モデルシミュレーション画像例

(素材提供:理研、神戸大、阪大、豊橋技科大、京工繊大、東工大、九州大学、北翔大学、鹿島建設、ダイキン工業、数値フローデザイン、トヨタ自動車、いすゞ自動車、大王製紙、サントリー、凸版印刷、三菱総研、産総研、ESPEC、KANOMAX、日本航空、神戸市消防局、川崎市、国土交通省)

※共同研究グループ

理化学研究所
計算科学研究センター 複雑現象統一的解法研究チーム
チームリーダー 坪倉 誠 (つぼくら まこと)(神戸大学大学院システム情報学研究科教授)
研究員 大西 慶治(おおにし けいじ)
研究員 ラフール・バレ (Rahul Bale)
客員研究員 リー・チョンガン(Li Chung-Gang)(神戸大学大学院システム情報研究科)
上級テクニカルスタッフ 安藤 和人(あんどう かずと)
計算科学研究センター
センター長 松岡 聡 (まつおか さとし)(東京工業大学 情報理工学院特任教授)

背景

理研では、Society 5.0時代のものづくりを実現するため、産学連携で計算シミュレーション技術の開発を進めてきました。このためには、産業界でみられるような流れや熱、構造変形、さらには液体から気体への相変化を含む複雑な現象を高精度に予測するのみならず、さまざまな形状に対して高速にシミュレーションモデルを構築する技術、さらには膨大な対象に対して高速に結果を得てビッグデータ解析する技術が求められます。2020年初頭から急速に世界中に蔓延した新型コロナウイルスに対しては、このシミュレーション技術の一部である自動車エンジン内の熱流動予測技術を急遽活用し、室内空間における感染リスク評価をデジタルトランスフォーメーションし、「富岳」に実装しました。

研究手法と成果

空気の運動とそれに乗って輸送される熱や液滴、さらには液滴の蒸発や壁への付着等を数理モデル化した連立非線形方程式に対して、従来の産業界で用いられているシミュレーションのデータ構造を抜本的に見直すことで、「富岳」の性能を十分活用できるようにしました。このデータ構造に対して、物体近傍のモデル化技術を新しく開発することで、計算モデルの作成速度を従来の手法に対して数百倍から一千倍以上に加速しました。これらの技術を用いた「富岳」でのシミュレーションにより、50程度のさまざまな感染シーンと1,000を超える多種多様な感染条件に対して、社会が求める的確なタイミングで、感染状況に応じた感染リスクの評価とその対策についての提案を行いました。

これらの結果を行政機関や各種業界団体に提供することで、社会経済活動の再開に向けた政策立案やガイドラインの策定に貢献しました。また、得られた結果を動画として提供し、社会に対する新型コロナウイルスの飛沫・エアロゾル感染に対する理解と対策の重要性の啓発に貢献しました。

本活動は、理研と神戸大学が中心となり、豊橋技術科学大学、京都工芸繊維大学、東京工業大学、九州大学、大阪大学、鹿島建設(株)、ダイキン工業(株)とが密に産学連携して実施しました。また、感染シーンに応じて、大王製紙(株)、トヨタ自動車(株)、日本航空(株)、三菱ふそうトラック・バス(株)、サントリーホールディングス(株)、凸版印刷(株)ほか企業の協力を得て進めました。

今後の期待

ウィズコロナ、ポストコロナ時代においては、従来の快適性や衛生的な観点からの室内環境設計に加え、新たに感染症に対してレジリエントな設計が求められます。このような新しい室内環境設計に、本デジタルトランスフォーメーション技術が強力な手段となるよう、さらに予測技術の高精度化や、AI技術を併用したコンピュータ支援設計システムの実現を目指します。

補足説明

[1] スーパーコンピュータ「富岳」
スーパーコンピュータ「京」の後継機。2020年代に、社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAIの加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年3月に共用を開始した。

研究支援

  • 「富岳」一般課題:「新型コロナを対象とした統合的飛沫感染リスク評価システムの開発と社会実装」(hp210086)
  • 文部科学省「富岳」成果創出加速プログラム「富岳」が拓くSociety 5.0時代のスマートデザイン(JPMXP1020210316)
  • CREST「異分野融合による新型コロナウイルスをはじめとした感染症との共生に資する技術基盤の創成」プロジェクト「スパコンによる統合的飛沫感染リスク評価システムの開発と社会実装」(科学技術振興機構)
  • ポストコロナ時代に向けた主要技術の実証・導入に係る事業(内閣官房)
  • スーパーコンピュータ「富岳」政策対応枠「経済活動と感染防止対策の両立の実現のための「飛沫シミュレーション」の実施」
  • 「新型コロナウイルス対策を目的としたスーパーコンピュータ「富岳」の優先的な試行的利用について」(文部科学省/理研)
  • 「スマートライフ実現のためのAI等を活用したシミュレーション調査研究」(内閣官房)

論文情報

タイトル
Digital transformation of droplet/aerosol infection risk assessment realized on “Fugaku” for the fight against COVID-19
著者
Kazuto Ando1, Rahul Bale1, ChungGang Li1,2, Satoshi Matsuoka1,3, Keiji Onishi1, and Makoto Tsubokura1,2
1 理研計算科学研究センター
2 神戸大学大学院システム情報学研究科
3 東京工業大学
*著者はアルファベット順
掲載誌
to appear on International Journal of High-Performance Computing Applications

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