2022年12月12日の贈呈式にて

後列右端が中教授。

本学人文学研究科の中真生教授が、第44回サントリー学芸賞(思想・歴史部門)を受賞しました。受賞作は、『生殖する人間の哲学——「母性」と血縁を問いなおす』(勁草書房)です。

「サントリー学芸賞」は、公益財団法人サントリー文化財団により、毎年、広く社会と文化を考える独創的で優れた研究、評論活動を行った個人に対して、著作物を対象に贈呈されます。「政治・経済」、「芸術・文学」、「社会・風俗」、「思想・歴史」の4部門に分かれており、今年度は合計9名が受賞しました。1979年の創設以来、受賞者は371名を数え、これらの受賞者の業績は、主題への斬新なアプローチ、従来の学問の境界領域での研究、フロンティアの開拓などの点で高く評価されています。

概要

母親が子ども産んだという事実は、特別なことなのだろうか。それは母親が、父親や養親に優る根拠になりうるのだろうか。いやむしろ、産んだことと育てること、産んだこととその人が子どもにとっての一番の親であることは、切り離して考えるべきなのではないか。この問いが本書を貫いている。

「親」とは、産むことや、血縁とは関係ないところで形成されうる。誰であれ、子どもを世話し、日々触れ合い、ぶつかり合う中で、徐々に「親」になっていく側面がある。そのような本来流動的であるはずの「親」のあり方を固定してしまっているのが、「母性」という見方であり、それと連動した、母親と父親のあいだに、そして生みの親と育ての親のあいだにはっきり境界線を引く見方である。その「母性」の核にあり、また母親と父親、生みの親と育ての親のあいだに決定的な境界線を引くその根拠となるのが、母親が「産んだこと」なのである。

しかし、親であることを、産むことや血縁から切り離して考えることで、それは変わりうる。ひとつには母親と父親のあいだの差異が、また生みの親と育ての親のあいだの差異が決定的なものではなくなるだろう。多様な差異は残るが、どこかにはっきりした境界線を引けるような差異ではなく、グラデーション様の、濃淡の差があるのみとなるだろう。

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