神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター臨床ウイルス学分野の森康子教授らの研究グループは、2020年8月6日から10月1日に、兵庫県内の5病院、1施設から提供を受けた10,377人の血清中における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体※1の有無を多角的に解析し、中和抗体の保有率がわずか0.15%であることを明らかにしました。この調査結果は、いわゆる第二波が終息の兆しをみせた2020年10月初め時点においても、兵庫県内における新型コロナウイルスの感染率が極めて低いことを示す結果であると考えられます。

現在、兵庫県をはじめ日本全国でいわゆる第三波が到来していますが、今後も新型コロナウイルス感染拡大に注意を要する必要があると考えられます。

この研究成果は科学雑誌「JMA Journal」にオンライン掲載される予定です。

*注:本研究は論文掲載前のため、一部内容が変更される可能性があります。

 

ポイント

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19※2)を引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は感染性が高く、世界中に広がっている。
  • 日本には現在第三波と呼ばれる感染拡大が到来しているが、各時点における新型コロナウイルスの感染率を正確に把握することで、その対策に貢献すると考えられる。
  • 2020年8月6日から10月1日に兵庫県内の病院・施設から提供を受けた計10,377人の血清中に含まれる新型コロナウイルスに対する抗体量を多面的に解析したところ、抗体保有率は0.15%だった。
  • 2020年10月初めの時点では、兵庫県に在住するほとんどの人は新型コロナウイルスに対する抗体を持っておらず、その後新型コロナウイルスに感染する可能性があることを示している。

研究の背景

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は感染性が高く、世界中に広がっています。日本では、夏季に発生した第二波が2020年10月初旬に一旦終息の兆しをみせましたが、12月時点では第三波の途上にあると考えられます。さらに、呼吸器感染症が一般的に増加する冬季において新型コロナウイルス感染者が今後も増加することが懸念されます。

COVID-19への対策を考える上で、各時点における新型コロナウイルスの感染率を正確に把握することは極めて重要であると考えられます。そのため本研究では、2020年8月から10月時点での、兵庫県内における新型コロナウイルスに対する抗体保有率を大規模に調査しました。その結果、第二波が終息傾向にあった時点においてもその感染率が極めて低かったことが明らかになりました。

研究の内容

2020年8月6日から10月1日において、兵庫県内の5病院(神戸大学医学部附属病院、兵庫県立尼崎総合医療センター、兵庫県立西宮病院、兵庫県立こども病院、匿名病院)および1施設(兵庫県健康財団)から提供頂いた計10,377人の血清に含まれる新型コロナウイルスに対する抗体量を測定しました。まず電気化学発光免疫測定法※3(Roche社)によって、新型コロナウイルスNタンパク質に対する抗体の有無を解析したところ、0.26%が陽性でした。次に、化学発光酵素免疫測定法※4(Sysmex社)によって新型コロナウイルスNおよびSタンパク質に対する抗体の有無を解析したところ、0.49% が陽性となりました。また、施設ごとの保有率には変化はありませんでした(表1)。

 

表1 施設ごとの検体情報の詳細 (JMA Journal オリジナル版を日本語訳に改変)

さらに、いずれかの測定法で陽性と判定された64検体(0.6%)を、イムノクロマト法※5(INNOVITA社)および中和法※6によって解析しました。64検体中22検体(34%)がイムノクロマト法で陽性となり、64検体中16検体(25%)において中和抗体価が認められました。電気化学発光免疫測定法および化学発光酵素免疫測定法がいずれも陽性であった14検体のうち、12検体(85%)がイムノクロマト法で、13検体(92.8%)が中和法で陽性でした。一方、電気化学発光免疫測定法または化学発光酵素免疫測定法のいずれか一方のみが陽性であった50検体の中では、イムノクロマト法によって10検体(20%)のみ、中和法によって3検体(6%)のみが陽性でした。また、本研究で解析した全検体における中和抗体の存在率は、0.15%でした。

今後の展開

血清中の抗体価測定は、集団内における病原体の広がりを把握するために、最も信頼できる方法と考えられています。特に新型コロナウイルス感染者の40%以上は無症候(不顕性感染)であると考えられており、PCRや抗原検査だけでは、実際のウイルスの広がりを見誤る可能性があります。この研究は、日本国内における第二波終息傾向にあった時点における新型コロナウイルスの広がりを大規模に示した初めての報告です。現在日本では第三波が到来しており、本研究は第二波が落ち着いてきた時点での新型コロナウイルス感染率を示した、貴重なデータといえます。また、本研究は、兵庫県全域にわたる新型コロナウイルス感染状況を初めて示した報告でもあります。今回本研究チームが明らかにした、兵庫県における0.15%の新型コロナウイルス抗体陽性率は、2020年6月に厚生労働省によって行われた東京都、大阪府、宮城県における大規模血清調査(陽性率0.03-0.17%)とあまり変わりませんでした。

本研究の結果から、電気化学発光免疫測定法および化学発光酵素免疫測定法がともに陽性になった場合、イムノクロマト法および中和法いずれにおいても高い陽性率となることがわかりました。ただし、電気化学発光免疫測定法または化学発光酵素免疫測定法いずれか単独で陽性となった検体の中にも、中和法で陽性となる検体が存在します。このため、今回のように複数の方法で新型コロナウイルスに対する抗体を検出しなければ、正確な陽性率を算出することは難しいと考えられました。

新型コロナウイルスに対する抗体は、回復後徐々に減少することが分かっています。そのため、今回測定した新型コロナウイルスに対する抗体の陽性率は、実際の感染率よりも低く算出されている可能性もあります。

兵庫県の東隣にある大阪府は、東京に次いで全国2位の感染者数が報告されており、新型コロナウイルス流行地であったと考えられます。今回の解析では、大阪府からの距離によらず、どの施設も同じ陽性率でした。この結果は、2020年10月初め時点の兵庫県内において新型コロナウイルスの感染域は拡大しておらず、伝播は終息傾向にあったことを示唆すると考えられます。

今回の結果から、兵庫県に在住するほとんどの人は、2020年10月初め時点では新型コロナウイルスに対する抗体を持っていなかったことが明らかとなりました。この事実は、これまでの対策の有効性を示唆すると同時に、ほとんどの人は、今後新型コロナウイルスに感染する可能性があることを示しています。第三波が到来し、呼吸器感染症が増加する冬季に向けて、今まで以上に新型コロナウイルスの感染予防に務める必要があると考えられます。

また、今回の陽性率は不顕性感染率を示すとも考えられ、実際の検出率よりも高い感染者が存在する可能性も示唆します。

用語解説

※1 抗体
病原体に対抗して体内で作られるタンパク質で、いわゆる“免疫”として、感染症から免れるために貢献する。一般的に、病原体に感染後しばらく経ってから作られ、ある程度の期間持続すると考えられている。このため、抗体があれば、かつてその病原体に感染したことがあることを示唆する。
※2 COVID-19
いわゆる新型コロナウイルス感染症。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされ、一般的には飛沫感染や接触感染で感染すると考えられている。
※3 電気化学発光免疫測定法
特定の抗原に反応する抗体の量を電解反応による発光によって定量する方法。大規模な血清調査に用いられる。
※4 化学発光酵素免疫測定法
特定の抗原に反応する抗体の量を、酵素による発光基質の分解によって定量する方法。大規模な血清調査に用いられる。
※5 イムノクロマト法
特定の抗原に反応する抗体の有無を、金コロイドを用いて目視で判定する方法。特別な装置を必要としない簡便な手法だが、多検体を解析することはできない。
※6 中和法
血清に含まれる抗体が、ウイルスの感染性を喪失させる能力があるか否かを解析する手法。本研究では、バイオセーフティレベル(BSL)3という封じ込め設備の中で、生きた新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を用いて実験を行っている。

謝辞

本研究は兵庫県からの支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル
“Seroepidemiological survey of the antibody for severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 with neutralizing activity at hospitals: A cross-sectional study in Hyogo prefecture, Japan”
著者
Koichi Furukawa1,*, Jun Arii1,*, Mitsuhiro Nishimura1,*, Lidya Handayani Tjan1,*, Anna Lystia Poetranto1, Zhenxiao Ren1, Salma Aktar1, Jing Rin Huang1, Silvia Sutandhio1, Yukiya Kurahashi1, Arisa Nishino1, Shiho Shigekuni1, Yuichiro Takeda1, Kenichi Uto2, Keiji Matsui2, Itsuko Sato2, Yoshiaki Inui3, Kazuo Endo4, Yoshiyuki Kosaka5, Jun Saegusa2, Yasuko Mori1
  • 1 神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター 臨床ウイルス学
  • 2 医学部附属病院 検査部
  • 3 兵庫県立西宮病院
  • 4 兵庫県立尼崎総合医療センター
  • 5 兵庫県立こども病院
*These authors contributed equally to the work.
掲載誌
JMA Journal
Acknowledgement
We thank Kazuro Sugimura MD, PhD (Executive Vice President, Kobe University) for his full support to promote this study. We express our sincere gratitude for cooperation and participation of staffs of Kobe University Hospital, Hyogo Prefectural Amagasaki General Medical Center, Hyogo Prefectural Nishinomiya Hospital, Hyogo Prefecture Health Promotion Association, anonymous Hospital, and Hyogo Prefectural Kobe Children’s Hospital.

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