兵庫県と神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター臨床ウイルス学分野の森康子教授らの研究グループは2021年6月から2022年1月にかけて、ファイザー社製新型コロナウイルスmRNAワクチン(Pfizer/BioNTech BNT162b2)を2回接種した神戸大学医学部附属病院の医師82人を対象として、接種後約2ヶ月と7ヶ月の時点の血清中における新型コロナウイス(SARS-CoV-2)変異株(オミクロン株を含む)に対する中和抗体※1, 2を測定しました。さらに、3回目の接種(ブースター接種)※3を行った72人の血清中の中和抗体を測定し、オミクロン株やデルタ株に対する年齢ごとの抗体価の推移を解析しました。

ワクチン接種後約2ヶ月の時点で、88~100%の接種者が従来株、アルファ株およびデルタ株などの変異株に対して中和抗体を保有していましたが、オミクロン株に対する保有率は、わずか28%でした。一方、デルタ株などでは若年者では、高齢者より有意に高い中和抗体が誘導されていたものの、オミクロン株に対しては、若年者においても低い中和抗体価を示し、年齢差は認められませんでした。

ワクチン接種の約7ヶ月後では、従来株に対しては93%、デルタ株に対しては67%が中和抗体を持っていたものの、オミクロン株に対してはわずか6%しか中和抗体を保有していませんでした。

しかし、ブースター(3回目)接種を受けた72人の解析では、全員(100%)がオミクロン株に対する中和抗体を獲得し、さらにその抗体価は2回接種後2ヶ月および7ヶ月の時点より遥かに高い値でした(32倍および39倍上昇)。また年齢群別の比較では、59歳以上の高齢者もブースター接種で十分に中和抗体価が上昇することが示されました(2回接種後7ヶ月の時点の約27倍上昇)。

一方、ワクチン接種後に発熱、倦怠感の出現する頻度は1~2回目接種よりもブースター接種で増加する傾向がありましたが(発熱:33%、倦怠感:63%)、それらと産生された中和抗体価に相関は認められませんでした。

これらの結果は、ワクチンの2回接種のみではオミクロン株の感染を予防するには不十分であるものの、ブースター接種は年齢によらず非常に高いレベルの中和抗体を誘導でき、さらにそれらがオミクロン株に対しても有効であることを示唆しています。これは、今後さらに拡大が危惧されるオミクロン株感染拡大を抑える上でブースター接種が重要な鍵となりうること、そして年齢によらず推奨されることを示しています。

この研究成果は2022年5月9日に科学雑誌「JAMA Network Open」に掲載されました。

ポイント

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)※4を引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は感染性が高く、様々な変異株が世界中で広がっています。
  • 特に2021年11月に初めて報告されたオミクロン株は、現在驚くべき速度で日本や世界中で拡大しています。
  • オミクロン株は、感染に重要なスパイクタンパク質 ※5に30箇所以上とこれまでのどの変株よりも多い変異を有しており、ワクチンや抗体治療により抵抗性であることが懸念されています。
  • ワクチンを2回接種した医師82人の血清を採取し、オミクロン株やデルタ株など計7種類の変異株に対する中和抗体価を測定し、比較しました。
  • ワクチン接種2ヶ月の時点で全体の28%が、接種後7ヶ月の時点で6%がオミクロン株に対する中和抗体を持っていたものの、他のどの変異株よりも低値でした。
  • 年齢別の比較では、若年者で抗体価が高く、高齢者で低い傾向がありましたが、オミクロン株に関しては若年者でも低値でした。
  • 一方、ブースター接種後は、全員(100%)がオミクロン株に対する中和抗体を獲得しており、抗体価も30倍以上も上昇していました。
  • またブースター接種は高齢者においても中和抗体価を大きく上昇させており、年齢を問わず有効であることが示唆されました。
  • これらの結果より、ワクチンの2回接種はオミクロン株に対して効果が不十分である一方、ブースター接種は感染を防ぐのに十分な効果があり、年齢を問わず有効であることが示唆されました。
  • オミクロン株が大流行している現在、3回目のワクチン接種による免疫のブースターが重要であると考えられます。

研究の背景

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は現在も世界中で続いており、世界中で3億2000万人以上が感染しています。この流行を抑制するためワクチン接種が世界中で行われてきましたが、一方で様々な変異株ウイルスが発生し、感染力の上昇やワクチンに対する抵抗性が報告されています。日本ではデルタ株による第5波が2021年7月から10月頃にかけて起こり、その後は一時的な小康状態であったものの、2021年末にオミクロン株の出現が報告されて以降感染は再度急拡大し、オミクロン株の流行による第6波が到来しています。

ワクチンの2回接種を大半が終えている日本で再度感染拡大が起きている理由の一つとして、オミクロン株が持つスパイク(Spike; S)タンパク質の変異が挙げられます。現行のワクチンは抗原として従来株のスパイクタンパク質を利用していますが、オミクロン株のスパイクタンパク質上には30箇所を超える変異があることが判明しており、ワクチンの効果が大きく減弱する可能性が懸念されています。これに対して、現在日本ではワクチンの3回目接種(ブースター接種)が始まりましたが、2回および3回のワクチン接種がオミクロン株に対してどれほど効果があるのか、またブースター接種の効果が年齢によって異なるのか、などまだ不明な点も多く残されています。

そこで今回、2回および3回のワクチン接種により誘導されるオミクロン株に対する中和抗体を、他の変異株と比較し、またワクチン接種者の年齢別でも比較しました。

研究の内容

新型コロナウイルスmRNAワクチン(Pfizer/BioNTech BNT162b2)の2回接種を完遂した神戸大学病院の医師82人を対象として、ワクチン接種後約2ヶ月の時点の中和抗体を測定しました。その結果、従来株とアルファ株に対しては全員が、デルタ株に対しては93%が中和抗体を持っていましたが、オミクロン株に対しては28%しか中和抗体を持っていませんでした(図1A)。さらに、オミクロン株に対する中和抗体価はどの変異株と比較しても有意に低い値でした(図1B)

図1 (A) 各種変異株に対する中和抗体陽性率 (B) 中和抗体価の比較

また、38歳以下(若年)、39歳から58歳(中高年)、59歳以上(高齢)の3群間での比較では、59歳以上の群で中和抗体陽性率は低下する傾向があり、デルタ株では有意に抗体価も低下していました(陽性率:若年97%、高齢79%)(図2)。一方、オミクロン株では全ての年齢群で抗体陽性率が低く(若年32%、中高年31%、高齢16%)、抗体価に有意差は認められませんでした(図2)。

図2 各変異株に対する中和抗体陽性率(年齢別)

ワクチン接種後7ヶ月の時点ではさらに抗体価は低下し、デルタ株に対しては67%、オミクロン株に対しては全体のわずか6%しか中和抗体を持っていませんでした(図3A)。

しかし、3回目の接種(ブースター接種)を行った72人を対象として、オミクロン株、デルタ株および従来株に対する中和抗体を解析すると、驚くべきことに全員がオミクロン株を含めて全ての変異株に対して中和抗体を獲得していました(図3A)。またオミクロン株に対する中和抗体価は、ワクチン2回接種後2ヶ月および7ヶ月の時点の抗体価を遥かに超えており(それぞれ32倍及び37倍上昇)、従来株やデルタ株に対しても同様の傾向が認められました(図3B)。

図3 (A) 2回目ワクチン接種7ヶ月後およびブースター接種後の中和抗体陽性率の推移 (B) ブースター接種後の中和抗体価の推移
図4 オミクロン株に対する中和抗体価の推移 (年齢別)

ブースター接種の年齢別の比較では、59歳以上の高齢者も十分にブースター接種で中和抗体価が上昇しており(2回接種後7ヶ月の時点の約27倍上昇)、高齢者でも効果が変わらないことが示されました(図4)。

一方、ワクチン接種時の副反応は、発熱が1回目:0%、2回目:20%、3回目:33%、倦怠感が1回目:5%、2回目:17%、3回目:63%と上昇する傾向があり、接種部位の疼痛は1回目:89%、2回目:87%、3回目:90%と、変化はありませんでした。また、重大な副反応は認められませんでした。

今後の展開

この研究では、ワクチンの2回接種はオミクロン株以外に対しては有効であるものの、オミクロン株の感染を防ぐには不十分であることを示しています。一方でブースター接種は、年齢に関係なくオミクロン株に対する中和抗体を上昇させることが示されました。これは、ブースター接種により、従来株とオミクロン株が持つ共通のエピトープを認識する中和抗体が強く誘導されたことを示唆しています。一方、ブースター接種は発熱や倦怠感などの全身性の副反応の頻度が1、2回目の接種よりも増加する傾向があることも示されました。

2022年1月以降、これまでにない速度で新型コロナウイルス感染者は増加し第6波が到来していますが、オミクロン株が中心であると考えられています。この研究の結果は、オミクロン株が猛威を振るう現在このブースター接種が感染を抑制させる鍵となることを示しており、副反応の懸念はあるもののあらゆる年代の人に推奨されると考えられます。

一方で、ブースター接種により獲得された中和抗体の持続に関しては不明であり、新規の変異株が出現する可能性も懸念されます。引き続きCOVID-19の終息に向けて、ワクチン接種者の中和抗体の経時的変化を評価することが必要と考えられます。

用語解説

※1 抗体
病原体に対抗して体内で作られるタンパク質で、いわゆる“免疫”として、感染症から免れるために貢献します。一般的に、病原体に感染後しばらく経ってから作られ、ある程度の期間持続すると考えられています。このため、抗体があれば、かつてその病原体に感染したことがあることを示唆します。また、ワクチンによって人為的に抗体を誘導することで、新たなウイルスの感染や病態発現を抑制することが可能です。
※2 中和抗体
体内に侵入したウイルスを攻撃し、不活化する能力のある抗体。ウイルスを排除し、二度目の感染を防ぐための役割も担っていると考えられています。
※3 ブースター接種
新型コロナウイルスmRNAワクチンの3回目の接種。現在は18歳以上で、2回目の接種から半年~8ヶ月経過した後に接種することが可能となっています。
※4 COVID-19
いわゆる新型コロナウイルス感染症。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされ、一般的には飛沫感染や接触感染で感染すると考えられています。
※5 スパイクタンパク質
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のウイルス粒子に存在する突起を構成し、標的細胞への結合を担う。Sタンパク質に対する抗体は、ウイルスによる細胞侵入を阻害するため、mRNAワクチンは、Sタンパク質を体内で発現するように設計されています。

謝辞

本研究は兵庫県からの支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル
Assessment of Neutralizing Antibody Response Against SARS-CoV-2 Variants After 2 to 3 Doses of the BNT162b2 mRNA COVID-19 Vaccine
DOI
10.1001/jamanetworkopen.2022.10780
著者
Koichi Furukawa1, Lidya Handayani Tjan1, Yukiya Kurahashi1, Silvia Sutandhio1, Mitsuhiro Nishimura1, Jun Arii1, Yasuko Mori1

1 神戸大学大学院医学研究科 附属感染症センター 臨床ウイルス学分野
掲載誌
JAMA Network Open

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