神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野の粟野宏之特命教授、山本暢之講師、坊亮輔助教、野津寛大教授、および兵庫医科大学小児科学の竹島泰弘教授、李知子講師、兵庫県立こども病院の飯島一誠院長らが実施している、子どもの治療可能な難病に対する拡大新生児マススクリーニング検査において、国内で初めて「重症型」の脊髄性筋萎縮症の患者さんを発見することに成功しました。

今後、本検査が多くの自治体で導入されることで、難病の早期発見と効果的な治療の促進が期待されます。

ポイント

  • 脊髄性筋萎縮症 (SMA) は運動神経が十分に機能せず、全身の力が徐々に弱くなる難病です。重症型の例では、生後早期に運動発達が止まり、次第に寝たきりとなり、食事をすることや呼吸ができなくなります。適切な治療を行わない限り2歳までにほとんどの患者さんが亡くなります。
  • SMAに対し、運動発達を改善する治療が開発されていますが、治療効果を最大にするためには、生後できるだけ早期に治療を行うことが重要です。
  • 私たちの研究グループは、SMAなどの7つの難病注1の早期発見を目的とした赤ちゃんの任意の有料検査 (拡大新生児マススクリーニング検査)注2 を2021年2月より実施してきました。その中で、一人の重症型のSMAの新生児を発見することに成功し、生後1か月以内に早期治療を実施したところ、運動発達の改善がみられ、重症型の患者さんにみられる呼吸困難などの症状は認められていません。
  • 拡大新生児マススクリーニングで発見されたSMAの重症型の患者さんは国内初です。早期治療により重症型の患者さんに対しても高い治療効果が期待されます。

研究の背景

脊髄性筋萎縮症 (SMA) は先天性に運動神経が障害される難病です。患者さんは運動神経が十分に機能せず、全身の力が徐々に弱くなります。重症の場合、赤ちゃんのうちに運動発達が止まり、次第に寝たきりとなって、食事をすることや呼吸ができなくなります。そして、適切な治療を行わない限り2歳までにほとんどの患者さんが亡くなります。最近になり、SMAの運動発達を改善する治療が開発されました。しかし、病気が進行した後に治療を行っても効果が限定的であるため、生後早期に治療を行うことが重要です。早期治療を行った場合は、高い治療効果を得られることが予想されます (図1)。そのため、早期に治療を行うためには、SMAを早期に発見する必要があります。早期発見の方法として、新生児マススクリーニング検査が注目されてきました。

図1 SMAの治療開始時期と治療効果の関係

研究の内容

わが国では、すべての赤ちゃんに対して生後4日目から6日目の間に採血し、血液をろ紙にしみこませた「ろ紙血」を用いた新生児スクリーニングが行われています。このろ紙血を用いて、私たちの研究グループは、SMAなどの7つの難病の早期発見を目的とした赤ちゃんの任意の有料検査(拡大新生児マススクリーニング検査)を2021年2月より開始しました。現在は兵庫県下17の医療機関が研究に参加し、2022年5月までに6590件の検査を実施してきました。その中から、一人の重症型のSMA患者さんを新生児期に発見しました。

患者さんは生後21日目に発見され、その後、精密検査を受けて、生後23日目でSMA患者さんであると診断されました。診断した時点で、全身の筋力が低下するSMAの症状が出現していたため、重症型の患者さんであることがわかりました。生後25日目に直ちに治療を開始したところ、生後3か月の時点で運動発達の改善がみられました。また重症型の患者さんにみられる呼吸困難などの症状は認められていません。注2

今後の展開

2022年7月現在、わが国では兵庫県の他、千葉県、熊本県、大阪府など限られた地域でのみSMAを対象にした拡大新生児マススクリーニングが行われています。その中から数名のSMA患者さんが発見されていますが、症状のある重症型の患者さんの発見は今回が初めてです。早期発見によって、重症型の患者さんに対しても効果の高い治療が行われることが期待されます。

また、この研究には現在、兵庫県下の17の病院が参加していますが、兵庫県下で生まれる赤ちゃんすべてにこの任意検査を提供できているわけではありません。今後は、さらに参加施設を増やし、多くの赤ちゃんを検査して、SMA患者さんの早期治療に結び付けたいと考えています。

注釈

注1
SMAの他に、重症複合免疫不全症、ポンぺ病、ファブリー病、ゴーシェ病、ムコ多糖症1型、ムコ多糖症2型をスクリーニングしています。
注2
拡大新生児マススクリーニング検査によって重症型のSMAを早期に発見し、治療を開始した例は今回が初めてであるため、早期治療の効果については、今後本検査による早期発見と早期治療が進められる中で、更なる検証を行っていく予定です。

謝辞

この研究は、兵庫県および神戸市の協力を得て実施しています。また、一般社団法人日本小児先進治療協議会からの支援を得て実施しています。

関連リンク

研究者

SDGs

  • SDGs3