神戸大学大学院理学研究科の津田明彦准教授らの研究グループは、AGC株式会社(以下、AGC)、および三菱ガス化学株式会社(以下、三菱ガス化学)と協力して、アルコールと触媒を溶解させたクロロホルム溶液に紫外光を照射するだけの簡単なプロセスで、医薬品中間体やポリマーの原料となる高反応性カーボネートや、レンズおよび有機ガラスなどとして用いることができるポリカーボネートの合成に成功しました。

本研究成果は2017年7月に特許出願し、2018年4月にPCT優先権主張出願、 2018年11月の特許公開を経て、2021年6月29日に、関連の学術論文が The Journal of Organic Chemistry に掲載されました。

ポイント

  • 汎用有機溶媒のクロロホルムを原料にして、光で医薬品中間体やポリマーを合成できる。
  • 汎用のポリカーボネートに加え、ポリマー主鎖にフッ素原子を組み込んだ機能性フッ素化ポリカーボネートの合成に成功。これらは撥水性、耐候性、耐摩耗性、摩擦特性、摺動性、非粘着性、非誘電特性などの高い材料としての利用、更なる性能・機能の向上が期待される。
  • 現在、カーボネート類の多くは、毒性が高く危険なホスゲン(COCl2)ガスを用いて製造されている。本合成法では、必要な時、必要な量だけ、溶媒のクロロホルムから光で任意に発生させて合成に用いることができるため、ホスゲンを直接取り扱う必要がない。
  • 高価で特殊な装置や薬品が不要であり、光で自在に反応をコントロールすることができるため、安全で簡単にオン・サイト、オン・デマンドの合成が可能となった。

研究の背景

クロロホルムは高い化学的安定性、揮発性を持ち、多くの有機化合物を溶解させることができる汎用の有機溶媒であり、世界中で大量に生産・消費されています。クロロホルムが分解すると、その分解物には人体に極めて有害なホスゲン、一酸化炭素、塩素、塩化水素などが含まれていることが知られています。これらは有害ではあるものの、例えばホスゲンはポリカーボネートなどの合成樹脂の原料となるため、非常に有用です。しかし、クロロホルムを効率良く分解する方法は見出されておらず、含まれるこれらを実用的な有機合成に利用した例はこれまでありませんでした。

津田准教授らの研究グループは、これまでの研究で、クロロホルムに短波長の紫外光を照射すると、酸素と反応して、ホスゲンが高効率で生成することを世界で初めて見出しました。そしてそれをさらに安全かつ簡単に用いるために、クロロホルムが汎用の溶媒であることに着目して、クロロホルムにホスゲンと反応させるための反応基質や触媒をあらかじめ溶解させておき、光でホスゲンを発生させると、即座にそれらが反応して生成物が得られる手法を見出しました。この方法では、あたかもホスゲンを使用していないかのように、ホスゲンを用いる有機合成を実施することができます。研究グループはこれを「光オン・デマンド有機合成法」と命名し、これまでに数多くの有用な有機化学薬品やポリマーの合成に成功してきました(http://www2.kobe-u.ac.jp/~akihiko/List.html)。例えば、クロロホルムとアルコールの混合溶液(必要に応じて塩基も混合)に紫外光を照射するだけで、安全・安価・簡単にクロロギ酸エステルとカーボネートを合成することに成功しています。さらに、当該反応をDMFに適用したところ、ビルスマイヤー試薬が、高収率・高純度で得られることを見出しました。

図1 共同研究体制

このような日本発のオリジナリティーの高い化学反応を、神戸大とAGC、および神戸大と三菱ガス化学のそれぞれで協力して発展させ、実用化に向けた研究を行ってきました。また、神戸大学とAGCは、JST A-STEPによる支援を受け、この合成法のさらなる応用研究、ならびに機能性ポリウレタンへの開発を行っています(図1)。

この光オン・デマンド有機合成法については、津田准教授らの研究グループがその特許(第5900920号)を有しています。

研究の内容

本研究グループは、フッ素化学品およびその原料としてのクロロホルムの製造企業であるAGCと、ポリカーボネートの製造企業である三菱ガス化学との産学共同研究に取り組み、高反応性カーボネートや、汎用および機能性ポリカーボネートの合成に成功しました。

具体的には、アルコールと触媒を溶解させたクロロホルム溶液に紫外光を照射するだけで、それらが化学反応を引き起こし、簡単かつ高収率に、これら高反応性カーボネートなどを合成できることを見出しました。高反応性カーボネートは機能性ポリカーボネートや機能性ポリウレタンなどの原料としての応用が期待されています。一方、フッ素原子を主鎖に組み込んだ機能性ポリカーボネートは、高い撥水性や耐候性、および低誘電性などの性質を持つ機能性プラスチック材料などとしての利用が期待されています。

更に詳細な手順は次のとおりです。アルコールと、触媒としてピリジンが溶解したクロロホルム溶液に、酸素ガスを吹き込みながら、低圧水銀ランプを用いて紫外光を照射して、高反応性カーボネートや、汎用および機能性ポリカーボネートを合成します(図2)。具体的には、フェノール(反応1)、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP) (反応2)などを原料として高反応性カーボネートを合成し、さらにビスフェノールA(反応3)から汎用のポリカーボネートを合成しました。またさらに、ヘキサフルオロペンタンジオール(反応4)から、新規のフッ素化ポリカーボネートの合成に成功しました。

本反応のメカニズムは、(1)クロロホルム溶媒の酸化的光分解によりホスゲンなどの高反応性物質が溶液中に一時的に生成し、共存する塩基触媒の効果によって、(2) それらがin situ(その場)で即座にアルコールと反応して生成物を与えている、と考えられます。実験室レベルでの合成実験は数グラムから数十グラムスケールで実施しており、反応は数時間で完結し、収率も高く、安全であり、低コストであるため、アカデミアから化学産業まで幅広い分野での利用が可能と考えられます。

図2 光化学反応の様子と化学反応式

今後の展開

光オン・デマンド有機合成法は、ホスゲンを用いるカーボネート合成を代替することが可能です。また、これまで毒性の高い試薬を用いなければならなかったために躊躇されてきた、特殊なカーボネートや機能性ポリカーボネートなどの合成を可能にします。これによって、フッ素原子だけでなく、様々な元素や機能性官能基を、カーボネート化合物へ自在に導入でき、医薬品やポリマー材料の分子レベルでの高性能・高機能化が達成され、より独創性および新規性の高い高付加価値製品の開発に結びつくことが予想されます。また、大量生産を目的とする製造だけでなく、小中規模で多品種の生産を必要とする化学薬品製造メーカーにも、大きな恩恵があると予想されます。

本研究性は、これまでの有機合成および有機工業化学に革新的イノベーションを引き起こし、産学官の連携によってさらに大きな発展を遂げることが期待されます。

謝辞

本研究成果は、科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同フェーズ シーズ育成タイプの研究課題「含フッ素カーボネートを鍵中間体とする安全な製造プロセスによる高機能・高付加価値ポリウレタン材料の開発」(企業名:AGC株式会社, 研究代表:津田 明彦)による支援を受けています。

論文情報

タイトル
Photo-on-Demand Base-Catalyzed Phosgenation Reactions with Chloroform: Synthesis of Arylcarbonate and Halocarbonate Esters
DOI:10.1021/acs.joc.1c01210
著者
Yuka Hashimoto, Sasuga Hosokawa, Fengying Liang, Yuto Suzuki, Namin Dai, Gegen Tana, Kazuo Eda, Toshifumi Kakiuchi, Takashi Okazoe, Hidefumi Harada, and Akihiko Tsuda*
* Corresponding author
掲載誌
The Journal of Organic Chemistry

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