四国と九州の間に位置する豊後水道では、フィリピン海プレートがアムールプレートの下に北西方向に沈み込んでいます。この地域下のプレート境界面では、数ヶ月から数年の継続時間を持つ長期的スロースリップ※1(L-SSE)が約6年の間隔で繰り返し発生しています。神戸大学 大学院理学研究科惑星学専攻 博士課程前期課程1年の瀬下幸成氏と神戸大学 都市安全研究センターの吉岡祥一教授は、国土地理院が提供しているGNSS時系列データ※2 を用いて、2018-2019年に発生したL-SSEの解析を行いました。

その結果、このイベントは2つのサブイベントに分けられ、1つ目のサブイベントは2018.3年~2018.7年(0.1年 = 36.5日)に豊後水道下の南西側で、2つ目のサブイベントは2018.8年~2019.4年に豊後水道直下で発生したことがわかりました。過去の豊後水道L-SSEと比較すると、2018-2019年L-SSEは、最も継続時間が短かったにもかかわらず、すべり量、すべり速度、地震モーメント※3、モーメントマグニチュード※4 は、いずれも最大でした。また、すべりの発生場所やすべり分布、サブイベントの発生順は、いずれも2002-2004年L-SSEと類似していることもわかりました。

この成果は、1月10日(イギリス時間10時)、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

ポイント

  • 豊後水道スロースリップのすべり分布を明らかにすることは、近い将来、発生が懸念されている南海トラフ巨大地震の発生メカニズムを解明する上でも重要なことと考えられています
  • 2018-2019年スロースリップの時空間分布を明らかにしました
  • 過去の豊後水道スロースリップと比較すると、2018-2019年スロースリップは、最も継続時間が短かったにもかかわらず、すべり量、すべり速度、地震モーメント、モーメントマグニチュードはいずれも最大でした
  • 2018-2019年スロースリップの発生場所やすべり分布、サブイベントの発生順は2002-2004年スロースリップと類似していました

研究の背景

図1 豊後水道周辺のテクトニック図

フィリピン海プレートがアムールプレートの下に北西方向に沈み込んでいる。赤点は解析に使用したGNSS観測点を、赤枠は解析領域の水平面投影を、薄い緑色の大きな円は豊後水道L-SSEが発生している大まかな位置を表す。

四国と九州の間に位置する豊後水道では、フィリピン海プレートがアムールプレートの下に北西方向に沈み込んでいます。この地域下のプレート境界面では、数ヶ月から数年の継続時間を持つ長期的スロースリップ(L-SSE)が約6年の間隔で繰り返し発生しています。これまでの研究では、1996-1998年、2002-2004年、 2009-2011年に発生したL-SSEのすべり分布が解析されています。このイベントは、南海トラフ巨大地震の発生と関連している可能性も指摘されており、豊後水道L-SSEのすべり分布を明らかにすることは、南海トラフ巨大地震の発生メカニズムを解明する上でも重要なことと考えられています。本研究では、新たに、2018-2019年に発生したL-SSEの解析を行いました。

研究の内容

2018-2019年に発生した豊後水道L-SSEのすべりの時空間分布を、国土地理院が提供しているGNSS時系列データを用いて推定しました。その結果、このイベントは2つのサブイベントに分けられ、1つ目のサブイベントは2018.3年~2018.7年(0.1年 = 36.5日)に豊後水道下の南西側で、2つ目のサブイベントは2018.8年~2019.4年に豊後水道直下で発生したことがわかりました。

過去の豊後水道L-SSEと比較すると、2018-2019年L-SSEは、継続時間が1年と最短だったにもかかわらず、すべり量、すべり速度、地震モーメント、モーメントマグニチュードは、いずれも最大でした。さらに、2018-2019年L-SSEのすべりの発生場所やすべり分布、サブイベントの発生順は、2002-2004年L-SSEと類似していることもわかりました。また、過去のL-SSEの発生間隔は約6年でしたが、2018-2019年L-SSEは前回の2009-2011年L-SSEから約8年が経過した後に発生しました。

図2 2018-2019年豊後水道L-SSEのすべり分布

連続した0.1年=36.5日ごとの解析結果を示す。矢印は沈み込んだプレート境界での下盤に対する上盤のすべりの方向と大きさを、カラーコンターはすべりの大きさを表す。コンター間隔は1 cm。灰色は解析結果の信頼度の低い領域を表す。

図3 4つの豊後水道L-SSEの地震モーメント(左縦軸)とモーメントマグニチュード(右縦軸)の時間発展

黄色は1996-1998年L-SSE、青色は2002-2004年L-SSE、緑色は2009-2011年L-SSE、赤色は本研究によって得られた2018-2019年L-SSEの地震モーメントとモーメントマグニチュードの時間発展を表す。ピンク色の点線で挟まれた期間は2018-2019年L-SSEの1つ目と2つ目のサブイベントが発生した期間を表す。

図4 2002-2004年豊後水道L-SSEと2018-2019年豊後水道L-SSEのすべり量の空間分布

青色は2002-2004年L-SSEの、赤色は2018-2019年L-SSEのすべり量の空間分布を5㎝のコンター間隔で表す。(a)は1つ目のサブイベントのすべり量空間分布、(b)は2つ目のサブイベントのすべり量の空間分布、(c)は両期間での総すべり量の空間分布を表す。

今後の展開

豊後水道L-SSEは、今後30年以内に70~80%の確率で発生すると推定されている南海トラフ巨大地震の震源域に隣接するプレート境界の深部延長面上で発生しています。南海トラフ巨大地震の前兆的なシグナルを検出するためには、このようなスロー地震※5 の挙動の時空間変化を監視することが重要であると考えられています。このような観点から、2018-2019年の豊後水道L-SSEのすべり分布の時空間変化を解明し、過去の豊後水道L-SSEと比較することは非常に重要です。引き続き、豊後水道下のプレート境界でのすべりと固着状態をモニタリングし、解析を進めることで、来る南海トラフ巨大地震の早期検出や地震発生メカニズムの解明につながるものと期待できます。

用語解説

※1 長期的スロースリップ(L-SSE)
数か月から数年かけて、プレート境界の一部がゆっくりすべる現象。L-SSEは、long-term slow slip eventの略。
※2 GNSS時系列データ
国土地理院が全国約1300カ所に設置しているGNSS(Global Navigation Satellite Systemの略。全球測位衛星システム)観測点で得られる地殻変動の時間変化のデータ。
※3 地震モーメント
地震のエネルギーに関連した量で、(断層がすべった距離)×(すべった断層の面積)に比例。
※4 モーメントマグニチュード
周期が数十秒以上の長周期の地震波とその波の形を使って計算されるマグニチュード。地震モーメントから求めることもできる。
※5 スロー地震
断層破壊がゆっくりと進行する地震現象。低周波地震、低周波微動、超低周波地震、短期的スロースリップイベント、長期的スロースリップイベントなど、多様な時定数をもつ低速な断層すべり現象の総称。

論文情報

タイトル
Spatiotemporal slip distributions associated with the 2018-2019 Bungo Channel long-term slow slip event inverted from GNSS data
DOI:10.1038/s41598-021-03982-6
著者
瀬下幸成1、吉岡祥一2,1
1 神戸大学理学研究科惑星学専攻、2 神戸大学都市安全研究センター
掲載誌
Scientific Reports (Nature Publishing Group)

関連リンク