ウラシマソウには、50cm以上にも及ぶ長い釣り竿のような付属物が花の集合体の上部から突き出ています。この様子を浦島太郎が釣りをする様子に見立てたのが「浦島草」の名前の由来です。しかしウラシマソウを特徴づける「竿」の機能的意義は長年の間未解明のままでした。そこで、神戸大学大学院理学研究科の末次健司准教授、西垣宏紀氏 (大学院生) らの研究グループは、ウラシマソウの「竿」が花粉の運び手 (送粉者) の誘引にどのような影響を与えているのかを3年間に渡るフィールド実験によって検証しました。

ウラシマソウに特徴的な「竿」の切除実験から、「竿」は主要な送粉者と想定される特定のキノコバエ類に対してだけ誘引効果を発揮し、その他の昆虫は「竿」の影響を受けないことが分かりました。さらに、「竿」を切除すると、花が果実に成長する確率 (結果率) が有意に低下することも分かりました。つまりウラシマソウの「竿」は、主要な送粉者を文字通り選択的に「釣る」道具として機能し、繁殖成功を高めていることを解明できました。

本研究成果は、6月28日に、国際誌「Ecology」にオンライン掲載されました。

研究の背景

ほとんどの植物は、花粉や蜜などの報酬を提供し、ハナバチなどの動物に花粉を他の花に運んでもらうことで、受粉の手助けをしてもらっています。しかしながらこうした一見仲睦まじく見える生物同士の関係でも、実際にはしたたかな駆け引きが繰り広げられています。例えば植物の中には、あたかも蜜があるように見える綺麗な花をつけるものの、実際には昆虫を騙して花粉を運んでもらうものが存在します。このように花粉を運んでくれる昆虫 (以下 送粉者) を一方的に搾取する植物は多数存在しますが、その中でも最も狡猾な戦略をとっているのがテンナンショウの仲間 (以下、総称として単にテンナンショウと呼ぶ) です。テンナンショウの水差しのような姿を見て、食虫植物を思い浮かべる方も多いかもしれません (図1)。実際にはテンナンショウは食虫植物ではありませんが、両者の形が似ているのは偶然の一致ではなく、両方ともおびき寄せた昆虫をずっと捕まえておくという共通の特 徴をもつため、似た姿を進化させたのです。

テンナンショウがなぜおびき寄せた送粉者をずっとトラップに掛けて捕まえておくのかを、もう少し詳しく説明してみましょう。テンナンショウには、雌株と雄株がありますが、両方とも仏炎苞と呼ばれる構造物でたくさんの花が包まれています (図1)。そして送粉者は、主にハエの仲間であるキノコバエ類で、付属体と呼ばれる棒状の器官から放出される匂いに誘われ仏炎苞上部から侵入します。しかし仏炎苞の内側は滑りやすいワックスで覆われており、キノコバエ類は外に出ることができません。このため雄株に侵入したキノコバエ類は脱出しようと花の周りをうろうろする間に体に花粉を付け、最終的には底に位置する小さな穴を見つけ外に出ます。しかし、雌株にはこのような出口がなく、雌株を訪れたキノコバエ類は脱出しようと花序内でもがく間に多くの雌花を受粉させ、やがて死んでしまうのです (図1)。


図1 テンナンショウの仲間と食虫植物の昆虫トラップの模式図

目的は異なる (テンナンショウは確実な受粉、食虫植物は栄養摂取) が、昆虫の捕獲という共通の選択圧のため似た見た目を進化させた

図2 竿状の長い付属物を持つウラシマソウ

浦島太郎の釣り竿に見立てたことが名前の由来となった (撮影 加藤恵美子)

また興味深いことに、一部のテンナンショウでは、付属体の先端が竿状に伸びることが知られています。その好例が日本固有種であるウラシマソウで、50cm以上にも及ぶ長い釣り竿のような付属物が、仏炎苞から突き出して垂れ下がっています。この様子を浦島太郎が釣りをする様子に見立てたのが名前の由来です (図2)。さらにテンナンショウだけではなく、同じようにハエの仲間に受粉されるウマノスズクサなどの縁遠い植物でも、同様の竿状の付属物を持つ植物が存在することが多く知られています。しかしこの特徴的な竿状の付属物が、送粉者の行動にどのような影響を与えているかはこれまでほとんど検討されておらず、100年以上もの間議論の的となっていました。

研究の詳しい内容

図3 処理区ごとのウラシマソウ1花序あたりの捕獲昆虫数

竿切除により減少したのは主要な送粉者であるMycetophila属だけであった (括弧内の数字は捕獲された総昆虫数/総ウラシマソウ数)

そこで末次健司准教授、西垣宏紀氏、福島成樹氏 (千葉県農林総合研究センター研究員)、 石谷栄次氏  (元 千葉県農林総合研究センター研究員)、柿嶋聡氏 (国立科学博物館特定非常勤研究員)、末吉昌宏氏 (森林総合研究所研究員) からなる研究グループは、ウラシマソウの「竿」が送粉者にとって魅力的かどうかを解明すべく、2019年と2020年にウラシマソウ自生地において、開花直前のウラシマソウを、付属体の竿状の部分だけを除去し、典型的な他のテンナンショウと同程度の付属体を残した「竿切除区」、付属体を全て取り去った「全切除区」、何も手を加えない「無処理区」に割り振りました注1。そして花期が終了した後、それぞれの処理区の花序内にトラップされた昆虫の種類と数を調べました。その結果「竿」部分を切除しただけで、これまで主要な送粉者と考えられていた特定のキノコバエ類 (ナミキノコバエ属Mycetophila) の訪花頻度が有意に減少することが分かりました (図3)。その一方でそれ以外の昆虫では、「竿」部分を切除しても訪花頻度は変化せず、香りの放出源である膨らんだ基部を含めた付属体を完全に切除した場合にのみ訪花率が減少することが分かりました (図3)。

図4 本研究により解明された「竿」の機能

ウラシマソウの「竿」は、主要な送粉者を文字通り選択的に「釣る」道具だった

「竿」が、主要な送粉者と思われる昆虫を誘引することが解明できたため、2021年は処理を施していない雌個体と竿を切除した雌個体を、果実が成熟するまで放置し結果率に差が見られるかを検討しました。その結果「竿」を切除しただけで結果率が著しく減少することが明らかになりました。「竿」を除去しても多くの昆虫の訪花頻度は変化しないことから、繁殖成功の違いは特定のキノコバエの訪花頻度の違いを反映していると考えられます。つまりこの実験により、ナミキノコバエ属がウラシマソウの主要な送粉者であることも実証することができました。これらの二つの実験を併せて考えると、ウラシマソウの「竿」は、主要な送粉者を文字通り選択的に「釣り」あげる道具として機能し、繁殖成功を高めているといえます (図4)。ハエの仲間によって受粉される植物の中には、同じように長い「竿」を持つものがたくさんあるため、今後同様の構造物を持つ他の植物においても、その機能的意義を検討することが望まれます。


注釈

注1
ウラシマソウに捕獲された全昆虫数をカウントするため (底部の穴から逃げるのを防ぐため)、雄株を実験に使う際は実験開始前に綿詰めの処置を行った。

論文情報

タイトル
Thread-like appendix on Arisaema urashima (Araceae) attracts fungus gnat pollinators
DOI:10.1002/ecy.3782
著者
Kenji Suetsugu, Hiroki Nishigaki, Shigeki Fukushima, Eiji Ishitani, Satoshi Kakishima, and Masahiro Sueyoshi
掲載誌
Ecology

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