神戸大学大学院工学研究科の岡野健太郎准教授、森 敦紀教授、井上拳悟大学院生と、東京大学大学院薬学系研究科の内山真伸教授、平野圭一特任准教授(現 金沢大学教授)らの研究グループは、ピリジンとよばれる芳香環に結合したハロゲン原子の位置を変える新しい触媒を開発しました。今後、この触媒を利用した医薬品や農薬、機能性材料への応用が期待されます。

この研究成果は、2023年3月3日にアメリカ化学会 ACS Catalysis 誌にオンライン掲載されました。(3月17日発行号の表紙に選定)

ポイント

  • 芳香環の望みの位置にハロゲン原子を導入する方法は、多様な化合物を合成する観点から重要視されています。
  • 本研究では、ピリジンに結合したハロゲン原子をうごかす新しい触媒を発見し、その機構を明らかにしました。
  • この触媒によって、医薬品や農薬、機能性材料などの「ものづくり」分野の発展が期待されます。

研究の背景

ベンゼンに代表される芳香環に結合したハロゲン原子は、クロスカップリング反応 (2010年ノーベル化学賞) などにより、医薬品や農薬、機能性材料の化学合成に用いられています。しかし、ハロゲン原子を芳香環に組み込む際には、芳香環の種類や性質に応じて、決められた位置にしかハロゲン原子を導入できない問題点がありました (図1)。


図1:本研究の背景とポイント、期待される効果

研究の内容

本研究では、ハロゲン原子をうごかすための添加剤について検討しました。その結果、触媒量の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体 (BF3·OEt2) を用いた場合にのみ、ハロゲン移動が劇的に加速されました。この結果について、さらに詳細を調べたところ、三フッ化ホウ素を含むピリジンが反応容器の中で発生し、この化学種がハロゲンをうごかす触媒としてはたらく機構を実験的に明らかにしました (図2)。さらに、計算化学を用いても、この機構が支持されることもわかりました。


図2:本研究を見出す端緒となった実験結果と本反応の触媒活性種

今後の展開

本研究において見出された触媒は、従来法では得られない位置にハロゲンをもつ芳香族化合物の供給に有用であり、ものづくりに関わる分野の発展が大きく加速されると期待できます。

用語解説

ピリジン:
ベンゼンを構成する6つの炭素(実際にはC–H)のうち1つを窒素(N)に置き換えたもの。医薬品や農薬、機能性材料に幅広く含まれる部分構造である。
ハロゲン:
周期表の第17族に属する元素の総称。本研究では、クロスカップリング反応を含む多様な反応に利用できる臭素原子に着目している。
クロスカップリング反応:
異なる二種類の化合物をつなぎ合わせる反応。

謝辞

本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金 基盤研究(B)「短寿命炭素アニオンの捕捉を基盤とするヘテロ芳香環の直接的官能基化法の開発(研究代表者:岡野健太郎)」および特別研究員奨励費「ハロゲンダンスにおける短寿命芳香族リチウムの選択的捕捉と構造異性体のバッチ合成(研究代表者:井上拳悟)」による助成を受けて行われました。

論文情報

タイトル
Lithium Aryltrifluoroborate as a Catalyst for Halogen Transfer
DOI:10.1021/acscatal.2c06082
著者
Kengo Inoue, Keiichi Hirano*, Shota Fujioka, Masanobu Uchiyama*, Atsunori Mori, and Kentaro Okano*
*Corresponding authors
掲載誌
ACS Catalysis

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