琉球大学理工学研究科海洋自然科学専攻大学院生の満留由来氏および理学部の土岐知弘准教授らの共同研究グループは、種子島沖海底泥火山の表層堆積物中における希ガスの溶解平衡温度が、海底下数kmの地温に相当することを明らかにしました。この成果は、海底泥火山の噴出メカニズムを明らかにする上で重要な知見であると言えます。また、海底泥火山へのマントル起源ヘリウムの寄与はあまりなく、あくまでも非火山的な活動による噴出現象であることを裏づける結果であると言えます。

この研究成果は、日本時間2023年4月6日(グリニッジ標準時間2023年4月6日)にScientific Reports誌に公表されました。

発表のポイント

  • 種子島海底泥火山の表層堆積物中の希ガスは、海底下数kmから来ている
  • 種子島沖海底泥火山の噴出は、非火山的な活動である
  • 沖縄の近くでは見つかっていないので、引き続き調査を続けてゆく

研究の背景

海底泥火山 (注1) は、巨大地震に関連して活動を活発化させている可能性も指摘されており、陸上であれば大災害にも発展するおそれもあることから、その噴出メカニズムに関する知見の蓄積がたいへん重要になってきています。日本周辺では、以前から熊野沖に数多く見つかっており (図1a)、近年では種子島沖にも新たに海底泥火山が発見されています (図1b)。海底泥火山の表層堆積物中の物質の起源深度 (注2) は、海底泥火山の噴出メカニズムの解明につながる知見であり、これまでにも様々な手法で推定が試みられてきています。例えば、水の同位体比を用いた研究では、水の起源が粘土鉱物の脱水起源であることから、60~160℃で起きる反応であることを利用して、その温度範囲で生成した水が供給されていることが示されてきました。この他、メタンの炭素の同位体比からも、メタンの起源が有機物の熱分解起源であることから、60℃以上で起こる有機物の熱分解起源のメタンが供給されていることが示されてきました。一方、地下水や湖底の間隙水において、過去の気温の復元に、アルゴンやクリプトンの濃度を利用した研究はありましたが、海底におけるこれらの濃度を用いた平衡温度の推定は、これまでにない手法と言えます。

図1a:本研究の調査海域
図1b:第1~第14まで認定されている種子島沖海底泥火山の分布 (×)

このうち、本研究では、第1 (●) および第14 (■) 泥火山から得られた希ガスに関する成果を発表している。この他、第2 (▲) および第3 (◆) 泥火山については、ヘリウムの起源については報告しているが、アルゴンやクリプトンの分析は行っていない。

研究内容

図2:それぞれの泥火山について、それぞれの希ガス種から見積もられる溶解平衡温度

琉球大学の大学院生・満留由来氏 (2022年3月まで在籍) は土岐知弘准教授と共に、学術研究船「白鳳丸」を用いたKH-19-5調査航海に参加し、表層堆積物を採取、希ガス (注3) の化学分析を行い、それらの溶解平衡温度 (注4) が第1泥火山であれば83~230℃、第14泥火山であれば91~168℃であると見積もることに成功しました (図2)。この海域における地温勾配は、25℃/kmであることと報告されていることから、得られた溶解平衡温度を深度に換算すると、3~9 km程度であることが明らかとなりました。このことから、種子島沖海底泥火山の希ガスの起源震度は海底下3~9 km程度であり、海底下18 km付近にあるとされているプレート境界までは達していないことが示唆されました。このことは、泥火山活動が非火山性の活動であることを裏づけています。

今後の予定

種子島沖海底には、いまだに調査されていない泥火山が眠っており、2023年8月には学術研究船「新青丸」を用いた調査航海が予定されています。さらに、北は日向灘沖、南は喜界島沖に至るまで、琉球海溝北部には未踏の海底泥火山らしき地形が見つかってきており、それらの噴火の規模やプレート境界からの希ガスの寄与など、日本周辺における泥火山に共通した特徴と個々の海域の泥火山の特徴について、今後明らかにしてゆきたいと考えています。

謝辞

本研究は、科研費「海底泥火山活動を介した地下深部生命、炭素の海洋への拡散・循環モデルの構築」(代表:神戸大 井尻 暁)及び総合地球環境学研究所・実践プロジェクト「陸と海をつなぐ水循環を軸としたマルチリソースの順応的ガバナンス:サンゴ礁島嶼系での展開」(代表:新城 竜一)の支援を受けて実施しました。

用語解説

(注1)海底泥火山
泥火山は陸上にもあり、地下に閉じ込められた高圧な物質が、閉じ込めている地層の破壊をきっかけに噴き出す現象で、いわゆるマグマが噴き出す火山とは異なり、天然ガスが噴き出しているものと考えてよい。
(注2)起源深度
文字通り、元々どこにあったのか、という情報のこと。泥火山表層の物質においては、どの深さから上がってきたのか、という情報が、泥火山の噴火の規模を考える上でのイメージとして捉えられる。
(注3)希ガス
ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどが属する化学的に不活性なガス。
(注4)溶解平衡温度
物質は、温度、圧力、塩分などに応じて、決まった濃度まで水に溶ける。逆に、ある濃度が観測されたとき、その溶液が溶解平衡に達していると仮定して、圧力や塩分を仮定すると、平衡になったときの温度を予想することができる。

論文情報

タイトル
Estimation of the depth of origin of fluids using noble gases in the surface sediments of submarine mud volcanoes off Tanegashima Island
DOI
10.1038/s41598-023-31582-z
著者
Yuki Mitsutome, Tomohiro Toki*, Takanori Kagoshima, Yuji Sano, Yama Tomonaga, Akira Ijiri
掲載誌
Scientific Reports

研究者