神戸大学大学院保健学研究科の小瀧将裕助教、亀岡正典教授らの研究グループは、新型コロナウイルスに対する安全な創薬スクリーニング系を構築しました。本研究により、新型コロナウイルスに対する新薬開発の加速が期待されます。
本成果はプレプリントリポジトリ「bioRxiv*注」へ掲載されています。
*注:本研究は専門家による査読前のため、内容が変更される可能性があります。新型コロナウイルス関係論文は査読前にpreprintとして*bioRxiv*等に登録、公開されるよう推奨されています。
ポイント
- 新型コロナウイルスの創薬スクリーニングは感染性のウイルスを使用するため、危険性が高い。
- ウイルスを用いない安全かつ簡便なスクリーニング系の構築は、治療薬開発に有用である。
- 本研究では感染性のないコロナウイルス遺伝子 (レプリコン) の構築を世界で初めて報告した。
- それを利用することで、抗ウイルス活性の評価が安全かつ簡便に実施可能となった。
- 今後さらに改良を加えることで、新型コロナウイルスに対する新薬開発の加速が期待される。
研究の背景
新型コロナウイルスは現在世界中で猛威を振るっています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の終息には治療薬の開発が必要不可欠です。現状、治療は既存の承認薬の転用により行われており、COVID-19に対する新規治療薬の開発は緊急の課題です。
通常、新規治療薬候補のスクリーニングには感染性のあるウイルスを用います。しかし、新型コロナウイルスは病原性・感染性が高く危険なため、高度な病原体封じ込め施設(BSL-3実験室)での使用しか認められておらず、治療薬開発の障害となっています。このため、安全かつ効率的な創薬スクリーニング系の構築は、新規治療薬の開発に重要です。
研究の内容
本研究では、安全な創薬スクリーニング系の構築を目指して、新型コロナウイルスのレプリコン*1を構築しました。レプリコンとは感染性のない、自己増殖の可能なウイルス遺伝子です。
新型コロナウイルスの遺伝子には、ウイルス遺伝子の増殖に関わる遺伝子と、ウイルス粒子の形成に関わる遺伝子があります (図1)。このうち、遺伝子の増殖に関わる部分を残し、ウイルス粒子形成に関わる部分の一部(S、M、E)を欠損させることで、感染性のウイルス粒子を産生しない、かつ自己増殖が可能な遺伝子の構築が可能です。この遺伝子は感染性がないため、高度な病原体封じ込め施設でなくても扱うことが可能です。また、本研究ではレプリコンの増殖を簡便に測定するため、ウイルス遺伝子の一部にレポーター遺伝子*2を導入しました。
結果、自己増殖が可能かつ、増殖すると発光するレプリコンの構築に成功しました (図2)。また、このレプリコンの増殖はレムデシビル*3により阻害されることを確認しました。その阻害の程度は、感染性の新型コロナウイルスを用いた場合と同程度であり、感染性のウイルスを用いた評価系と同等に扱うことができると考えられます (図2)。
今後の展開
今回の研究成果は、新型コロナウイルスのレプリコン構築方法を世界で初めて報告するものです。しかし、現状では大量検体を用いた創薬スクリーニングには適していません。今後このレプリコンが改良されることで、より簡便に大規模な創薬スクリーニングが可能となります。ひいては、COVID-19治療薬の開発へとつながると期待されます。
用語解説
- *1 レプリコン
- ウイルス粒子の産生に必要な遺伝子を欠損させ感染性を無くした、自己増殖可能なウイルス遺伝子。ウイルスと同様の機構で増殖するため、ウイルスの代わりに創薬スクリーニングに用いることが可能です。また、感染性はないため安全に用いることができます。
- *2 レポーター遺伝子
- ある遺伝子が発現・増幅しているかを容易に判断するために用いられる遺伝子。本研究ではレプリコンの増殖の指標として、発光タンパク質の一部が組み込まれています。
- *3 レムデシビル
- 現時点で唯一効果の確認されている、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス薬。
謝辞
本研究は一部、神戸大学若手教員長期海外派遣制度、兵庫県「ポストコロナ社会の具体化に向けた補助事業」、日本医療研究開発機構 (AMED: 課題管理番号JP20he082206) の支援を受けて実施されました。
論文情報
- タイトル
- “A PCR amplicon–based SARS-CoV-2 replicon for antiviral screening”
- DOI
- 10.1101/2020.08.28.267567
- 著者
- Tomohiro Kotakia, Xuping Xieb, Pei-Yong Shib, Masanori Kameokaa
a 神戸大学大学院保健学研究科パブリックヘルス領域
b テキサス大学医学部ガルベストン校 - 掲載
- bioRxiv