神戸大学大学院工学研究科の宋佳潞大学院生、杉本泰准教授、藤井稔教授らは、金属光沢のような外観をもちながら、見る角度による色変化がほとんど生じないカラーコーティング技術を開発しました。

構造色は色あせにくく鮮やかな発色を実現できる一方、角度によって色が変化することが課題でした。また、多くの構造色は複雑な多層構造や周期構造を必要とするため、立体物への均一なコーティングは容易ではありませんでした。

本研究では、シリコン(ケイ素)をコア、その表面をシリカ(二酸化ケイ素)で覆ったコアシェルナノ粒子を開発し、ナノ粒子を一層だけ規則正しく並べることで、金属光沢のような外観と、見る角度によって色が変わりにくい構造色を両立しました。さらに、自動車模型などの立体物にも均一にコーティングでき、耐候性だけでなく、剥離耐性も有することを実証しました。塗膜重量は0.4g/m²以下と、これまで報告された構造色コーティングの中でも世界最軽量クラスです。

本成果は、モビリティおよび包装材、建築材などに用いる省資源化に貢献する次世代カラーコーティングとしての応用が期待されます。

この研究成果は、9月3日に、国際科学誌『Small Structures』に掲載されました。

図:ナノ粒子コーティングで着色した模型の写真。 ©杉本泰(CC BY)

ポイント

  • ナノ粒子を一層だけ並べるコーティング技術で、金属のような光沢のある外観で、且つ虹色にならない構造色を実現
  • 厚さ250nm以下、重量0.4g/m²以下の世界最軽量級クラスの構造色コーティング
  • 立体物にも均一にコーティングでき、幅広い工業製品への応用に期待

研究の背景

現在のカラーコーティング技術には、主に顔料塗装、メタリック塗装、そして構造色を利用する方法があります(図1)。顔料塗装は、色素による光の吸収によって色を表現する最も一般的な方法ですが、光をさまざまな方向に散乱・吸収するため光沢が低く、また色素の劣化により長期間の使用で退色しやすいという課題があります。これに対し、メタリック塗装は、着色材と金属顔料などによる鏡面性の高い反射を組み合わせることで、高い光沢を実現できますが、やはり色の表現には色素を用いるため、退色の問題を本質的には避けられません。

一方、モルフォチョウの羽などに見られる構造色は、ナノメートルサイズの規則構造によって光を制御して発色するため、色あせにくく、鮮やかな色や高級感のある外観を実現できる技術として注目されています。しかし、従来の構造色の多くは周期的なナノ構造を利用するため、見る角度によって色が変化するイリデッセンス(虹色効果)が生じやすく、観察角度によらず安定した色調が求められる自動車塗装、建材、製品外装などへの応用には大きな制約がありました。さらに、こうした構造色は複雑な三次元構造や多層膜により実現されるため、大面積塗装や立体物への均一なコーティングが難しいという課題もありました。

本研究では、これらの課題を解決するため、シリコンナノ粒子を一層だけ配列した新しい構造色コーティング技術を開発しました。この技術では、従来の周期構造全体ではなく、ナノ粒子一つ一つの光学的な共鳴(Mie共鳴※1)を利用して発色するため、鮮やかな色と高い光沢を両立しながら、見る角度によって色が変わりにくい構造色を実現できます。さらに、単層のナノ粒子コーティングで発色できるため、立体物にも均一に適用しやすい、軽量である、といった実用的なカラーコーティング技術として大きな可能性を有しています。

図1:代表的なカラーコーティング技術と本研究。
(a) 顔料塗装:光を拡散・吸収して発色するため光沢が低い。
(b) メタリック塗装:鏡面反射と色素を組み合わせ、高い光沢を実現。
(c) 従来の構造色:規則的なナノ構造により鮮やかに発色するが、見る角度によって色が変化する。
(d) 本研究:ナノ粒子一層による構造色。粒子一つ一つの光共鳴を利用することで、虹色にならない発色を実現。 ©Small Structures(2026)(DOI: 10.1002/sstr.70600)を改変。(CC BY)

研究の内容

研究グループは、シリコン(Si)ナノ粒子の表面をシリカ(二酸化ケイ素、SiO2)で覆った「コアシェル構造」のナノ粒子を開発しました(図2(a))。シリコン部分はMie共鳴により光と強く相互作用して鮮やかな構造色を生み出す役割を担い、その外側を覆うシリカ層は、粒子同士が一定の距離を保ちながら規則正しく並ぶために機能します。実際に電子顕微鏡で観察すると、粒子は基板上に一層だけ並び、二次元六方最密構造と呼ばれる高い規則性をもった構造を形成していることが確認されました(図2(b))。

シリコンコアの大きさを変えることで反射する波長を調整できるため、青色から緑色、黄色、赤色まで幅広い色を発現させることができます。実際、コア径を110nmから204nmまで変化させると、反射スペクトルのピークが長波長側へ連続的に移動し、粒子サイズによって発色を自在に制御できることが分かりました(図2(c))。さらに、この構造色は観察する角度を変えても色の変化が比較的小さいという特徴を示します。一般的な構造色では、見る方向によって色が大きく変わる「虹色」のような角度依存性が現れることがありますが、本研究の単層膜では、異なる角度から観察した場合でも発色が比較的安定しています(図2(d))。

図2:(a) シリコンコア-シリカシェルナノ粒子(コアシェルナノ粒子)の電子顕微鏡像。コントラストの低い表面層がシェル層であり、厚さ40nm程度の均一なシェルが形成されている。
(b) コアシェルナノ粒子を用いて形成した単層膜の写真と電子顕微鏡像。上面図および断面図から、粒子が単層の二次元六方最密構造を形成していることがわかる。
(c) Siコア直径が110~204nmのコアシェルナノ粒子単層膜の全光線反射率スペクトル。コア径の増加に伴って反射ピークが長波長側へ移動し、可視広域全体をカバーしている。
(d) 角度10~60°で入射・観察した単層膜の写真。角度を変えても発色の変化が小さい。©Small Structures(2026)(DOI: 10.1002/sstr.70600)を改変。(CC BY)

ラングミュア–シェーファー法※2を改良し、水面上に形成したナノ粒子単層膜を立体物へ転写する独自のコーティング技術を開発しました(図3(a))。本手法では、約10cmの自動車模型のような複雑な曲面をもつ三次元物体にも、ナノ粒子一層からなる均一なコーティング膜を形成できます。シリコンコアの粒径を変えることで反射する光の波長を制御でき、紫色から赤色まで幅広い色を、顔料や染料を用いることなく鮮やかに発色させることに成功しました(図3(b))。

さらに、本手法では、ナノ粒子そのものを変えることなく、下地表面の粗さによって光沢感を制御できることも大きな特徴です(図3(b),(c))。平滑な表面では、規則配列したナノ粒子からの光が特定方向へ反射するため、金属のような強い光沢を示します。一方、表面に微細な凹凸を導入すると、ナノ粒子単層膜はその形状に沿って形成され、反射光がさまざまな方向へ分散します。その結果、鮮やかな発色を維持しながら、落ち着いたマット調の外観へ変化させることができます。このように、「色」と「光沢」を独立して設計できる点は、従来の構造色コーティングにはない特徴です。粒径を変えることで、幅広い色を自在に発現させることができます(図3(d))。さらに、粒径の異なるナノ粒子を使い分けることで、複雑な模様や図柄をカラー描画できることを示しました(図3(e))。

図3:(a)水面上に形成したナノ粒子単層膜を立体物へ転写するコーティング技術の概要図。
(b-c) 滑らかな表面および微細な凹凸のある粗い表面に、ナノ粒子単層膜をコーティングした写真(上段)と鏡面反射および拡散反射を示す構造の模式図(下段)。
(d) 滑らかな表面(上)および粗面(下)を有するカーシェイプ模型にコア粒径の異なるナノ粒子をコーティングした写真。
(e) 粒径の異なるナノ粒子を使い分けることで、複雑な図柄をカラー描画した例。ル ©Small Structures(2026)(DOI: 10.1002/sstr.70600)を改変。(CC BY)

今後の展開

今回開発したナノコーティング技術は、顔料に頼らず、シリコンナノ粒子による光の制御によって金属のような光沢のある鮮やかな発色を実現するため、退色しにくく環境負荷の低い次世代カラー材料として期待されます。さらに、見る角度による色変化が少ないことから、従来の構造色では適用が難しかった幅広い製品への展開が可能になります。

加えて、本コーティングはナノ粒子一層という極めて薄い膜で形成され、最大でも厚さ約250nm、塗膜重量も0.4g/m²以下と世界最軽量レベルです。そのため、航空機塗料など、軽量化が省エネルギー化に直結する分野への応用も期待されます。加えて、透明樹脂によるトップコート後にも発色がほとんど変化せず、テープテスト※3でも剥離しないことを確認しており、実用的な表面コーティングとしての可能性も実証されています。今後は、大面積に均一にコーティングする技術の開発および材料の量産プロセスの確立、耐候性・耐久性の試験を経て、モビリティおよび包装材、建築材など、さまざまな分野での実用化を目指します。

用語解説

※1 Mie共鳴
光の波長と同程度の大きさをもつ粒子に光を照射した際に生じる共鳴的な光散乱現象。特にシリコンのような高屈折率誘電体ナノ粒子では、顕著な共鳴が現れる。粒子サイズを変えることで共鳴する波長を制御できる。

※2 ラングミュア–シェーファー法
水面上に形成したナノ粒子の単層膜を、基板や物体の表面に接触させて転写する薄膜形成手法。

※3 テープテスト
コーティング表面に粘着テープを貼り付けて剥がし、膜の剥離や損傷の有無を確認する密着性評価試験。

謝辞

本研究は、科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)(課題番号:JPMJPF2503)、大学発新産業創出基金事業 ディープテック・スタートアップ国際展開プログラム(D-Global)(課題番号:JPMJSF2405)、次世代研究者挑戦的研究プログラム (SPRING) (JPMJSP2148)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業(課題番号:JP24KF0158, JP24K01287, JP25K22206, JP25K01608)の支援を受けて行われました。

論文情報

タイトル

"Glossy yet Non-Iridescent Conformal Structural Color Coating of 3-Dimensional Objects with All-Dielectric Nanoparticle Monolayers"

DOI

10.1002/sstr.70600

著者

Jialu Song, Keisuke Moriasa, Yosuke Ito, Mojtaba Karimi Habil, Patrick T. Probst, Hiroshi Sugimoto, Minoru Fujii

掲載誌

Small Structures

報道問い合わせ先

神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者