京都工芸繊維大学電気電子工学系 粟辻安浩教授、大学院生 高瀬裕基(工芸科学研究科博士前期課程電子システム工学専攻)、井上智好(工芸科学研究科博士後期課程電子システム工学専攻)、神戸大学先端融合研究環 的場修教授、産業技術総合研究所計量標準総合センター 夏鵬主任研究員らの研究グループは、人間の耳に聞こえない、超音波※1が伝搬する様子を動画像観察するのと同時に、音を発するスピーカの位置を3次元的に特定することに世界で初めて成功しました。3次元画像技術であるディジタルホログラフィ※2を応用した高速イメージング技術を用いて、スピーカの位置を求め、そこから発される音の疎密波が伝搬する様子を高速に動画像記録しました。

 この研究成果は、2020年11月7日に、米国光学会 (The Optical Society) が出版する科学誌「Applied Optics」に掲載されました。

ポイント

  • 超音波の伝搬の様子の動画像記録と、音源の3次元定位の同時実証に、世界で初めて成功した。
  • 3次元画像技術であるホログラフィを応用した技術を用いて、スピーカから発される超音波の伝搬の様子を動画像として可視化に成功した。

研究の背景

 音の伝搬している空間、即ち音場を可視化すること、また、音場を定量的に計測し、音圧分布や音の周波数などの情報を定量的に取得することは楽器の開発、建築物の構造設計や車のエンジンの騒音解析などの製品開発、体内超音波画像化、耳小骨の振動の解析などの医療診断など多分野にとって重要です。一般的に、音の計測にはマイクロホンが用いられますが、マイクロホンは音場への挿入が必要なため、計測対象である音場を乱してしまい、計測精度に影響を及ぼします。そこで、場を乱さずに音場を定量的に可視化できる光を用いた音場計測のニーズが近年高まっています。光を用いた音場計測技術は、音源の性質を変えずに音源近傍の音場を計測できるというメリットがあります。

 京都工芸繊維大学 粟辻安浩教授、同大大学院博士前期課程 高瀬裕基、同大大学院博士後期課程 井上智好らの研究グループは、ディジタルホログラフィを応用した、物体を3次元的に動画像記録できる技術を用いて、音場を乱すことなく、高精度に計測する技術に関する研究を行いました。また、ディジタルホログラフィは物体の3次元情報を記録できる技術であるので、奥行方向も含めて音源を定位できます。しかしながら、この技術を用いて、音が伝搬する様子の動画像観察と、音源の定位を同時に行った例はこれまで報告されていませんでした。

研究の内容

 本研究では、物体を3次元的に、かつ高速に動画像記録できる技術を用いて、スピーカから発される音を記録しました。スピーカが発する音については、超音波を用いました。人間の耳に聞こえない超音波を可視化、計測することは楽器やスピーカ、超音波プローブの音響設計など音響に関連する様々な産業にとって重要です。

 このたび、光の干渉によりできた干渉縞をディジタル的に記録することで物体の3次元情報を取得するディジタルホログラフィを応用した、本研究グループの発明である並列位相シフトディジタルホログラフィ※3と呼ばれる、物体の3次元情報を動画像記録できる技術を用いることで時間的空間的に変化する音場を動画像として観察に成功しました。音場中では、媒質中に疎密の変化が生じます。よって、光波が音場を通過するとき、光波には位相変化が生じます。ディジタルホログラフィは音場によって生じる光波の位相変化を捉えられる技術であるので、時々刻々と変化する音場の様子を動画像として可視化できます(図1)。またこの技術では、光波の位相を計測することで、音場を可視化するだけでなく、音圧分布や周波数分布など、音に関する様々な情報の2次元分布を一度にかつ高空間分解能で取得できます。

 音の波長をより多く記録範囲に収め、音の伝搬する様子を観察しやすくするため、レンズを用いて物体の像を縮小するような光学系を構築しました。まず、スピーカから発される超音波の伝搬の様子を動画として可視化しました(図2)。さらに、得られた結果から、光の位相の時間変化の周波数スペクトルを求めることで、スピーカから発される音が40,000 Hzであることを定量的に確認できました。また、超音波を発するスピーカを2つに増やすことで、本研究で用いた技術が、3次元的な音源の定位もできることを示しました(図3)。さらに、2つのスピーカから発されるについて周波数スペクトルを求めることで、2つのスピーカが発する40,000 Hz、 41,000 Hzの音を正確に計測できていることを確認しました(図4)。本論文では超音波を動画像記録しましたが、本技術は可聴音にも適用できます。

図1 光を用いて音場を可視化する手法の概念図。

図2 スピーカからの音場を動画像観察した実験の結果。

(a)スピーカと記録領域の位置関係。(b)~(p)音の伝搬の様子をスローモーション観察した結果。音の正体である空気の粗密波に対して、その粗密がグレースケールで可視化できており、時間的空間的に変化する音場(音の伝搬)を動画像観察できていることがわかる。

図3 異なる奥行き位置にあるスピーカへのフォーカス実験の結果。

(a)文字「3」へのフォーカス結果、(b)文字「D」へのフォーカス結果、(c)文字「3」へのオートフォーカス結果。文字「3」の奥行き位置に対応する位置にピークが立っている。(d)文字「D」へのオートフォーカス結果。文字「D」の奥行き位置に対応する位置にピークが立っている。このことから記録した画像から、異なる奥行き位置に配置したスピーカの位置を正確に検出できたことがわかる。

図4 2つのスピーカが発する超音波の周波数を記録した画像から計測する実験の結果。

(a)周波数スペクトルを求めるために用いた画像内の点、(b)(a)中の点(50,110)における周波数スペクトル。41,000 Hzの部分にピークが立っている。(c)(a)中の点(270,110)における周波数スペクトル。40,000 Hzの部分にピークが立っている。なお、それぞれのスピーカからは40,000 Hzと41,000 Hzの周波数ピークの音をそれぞれ発するように設定しており、設定通りの周波数が記録動画像からも得られていることがわかる。

今後の展開

 今後の展開としては、可視化、計測する音の対象を可聴域に拡張することが挙げられます。これにより、本技術が様々な音響設計にとって、より実用的なツールとなることが期待できます。また、画像から音を復元することもできますので、光を用いたマイクロホンとして利用することもできます。さらに、今回行った超音波の動画像可視化は、音響製品の設計と評価、構造物、自動車のエンジン・モーターなどの振動解析など種々の製品検査や、産業分野や体内の超音波画像診断など医療分野への応用が期待できます。

用語解説

1. 超音波
人間の耳が聞き取れない周波数範囲の音です。人間の耳が聞き取れる音の周波数範囲は凡そ20 Hz~20,000 Hzで、これらの音は可聴音と呼ばれます。これに対し、20,000 Hz以上の周波数の高い音が超音波と呼ばれます。
2. ディジタルホログラフィ
光の干渉と回折を利用して、物体からやってくる光のすべての情報を記録・再生できる3次元画像技術です。私たちが物体を見るときに認識している、物体を透過または物体で反射した光である物体光と、基準となる光(参照光)を干渉させて、干渉した光の明るさ分布をCCDやCMOSイメージセンサなどのカメラを用いて干渉縞画像としてディジタル的に記録します。記録された干渉縞画像がホログラムです。記録したホログラムに対してコンピュータで画像処理することで奥行きの情報も含めた、物体の3次元情報を復元できます。さらに、干渉縞画像がディジタル的に得られることより、周波数の解析など、結果を定量的に評価できるので3次元画像計測にも応用できます。
3. 並列位相シフトディジタルホログラフィ
ディジタルホログラフィを応用した、物体の3次元情報を動画像記録できるようにした技術です。従来のディジタルホログラフィでは記録したい物体の像にたいして不要な像が重なるために正確な像を記録できないという問題がありましたが、並列位相シフトディジタルホログラフィは、この不要な像を消すことができ、鮮明・正確な物体の像を、動画像として記録できます。

謝辞

 本研究は、独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽)「超音波伝搬の高速度ナノ分解能3次元動画像計測法の創生」ならびに公益財団法人 三豊科学技術振興協会研究助成金「ディジタルホログラフィックソノスコープによる超音波3次元イメージング」の支援を受けて行なったものです。

論文情報

タイトル
High-speed imaging of sound field by parallel phase-shifting digital holography
DOI:10.1364/AO.404140
著者
Yuki Takase, Kazuki Shimizu, Shogo Mochida, Tomoyoshi Inoue, Kenzo Nishio, Sudheesh K. Rajput, Osamu Matoba, Peng Xia, and Yasuhiro Awatsuji
掲載誌
Applied Optics

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