富山大学附属病院臨床研究管理センターの特命助教で神戸大学大学院医学研究科地域社会医学・健康科学講座 医療システム学分野の医学研究員の菅野亜紀博士と、富山大学先端抗体医薬開発センターの副センター長で富山大学大学院 医学薬学教育部 計算創薬・数理医学講座の教授(附属病院医療情報・経営戦略部 部長)、および神戸大学大学院医学研究科地域社会医学・健康科学講座 医療システム学分野の客員教授である髙岡裕博士らの研究チームが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロンBA.2.75株の感染力について解析しました。その結果、BA.2.75株の細胞への感染力は流行中のBA.5株よりも高くこれまでの変異株の中で最高であり、ワクチンの効果については最も弱い可能性を見出しました。

本研究結果は、オミクロンBA.2.75株の流行を警戒する必要性が高いことを意味しています。この成果は、8月25日(JST)に、第三者の査読を受ける前の論文として「bioRxiv(バイオアーカイヴ)」に投稿し27日に公表されました。

 

*注:本研究は専門家による査読前のため、内容が変更される可能性があります。新型コロナウイルス関係論文は査読前にpreprintとしてbioRxiv等に登録、公開するよう推奨されています。

ポイント

  • 今年の6月のプレスリリースでご紹介した、コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染力予測の方法を応用して、①武漢株からのスパイク蛋白質遺伝子の進化距離(ワクチンの効果)、②スパイク蛋白質とヒト細胞受容体(ACE2)の結合親和性(コロナウイルスの細胞への感染)、の2点を解析した。
  • オミクロンBA.2.75株は、流行中のBA.5株と比べ武漢株との進化距離が遠くワクチンによる中和抗体の効果の低下が示唆された。
  • オミクロンBA.2.75株のスパイク蛋白質とACE2との結合親和性は、突出して高い結果だったことから、細胞へ感染しやすいことが示唆された。
  • 今回の解析結果から、オミクロンBA.2.75株は過去のどの変異株よりも感染しやすく、またワクチン効果も低い可能性が示され、今後の動向を警戒する必要がある。

研究の背景

髙岡教授らの研究チームは、コンピュータシミュレーションを駆使した分子シミュレーション解析を駆使して、計算創薬、薬効予測、副作用予測、病態解明に取り組み、数理モデル化による蛋白質の機能予測を実現するなど、非常に多くの研究成果をあげています。実際、新型コロナウイルスSARS-CoV-2のスパイク蛋白とヒト細胞の受容体 ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)への結合を分子シミュレーションで再現し、その結果を用いて感染力予測の数理モデル化研究(本年6月23日プレスリリース)、スパイク蛋白が細胞の受容体 ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)に結合するのを防ぐ生薬の成分の発見(本年2月9日プレスリリース)など、新型コロナウイルス関連の研究でも分子シミュレーション解析が非常に有効な手法であることが分かっています。

新型コロナウイルスの変異株の感染力の予測は、今後の感染対策を立てやすくするためにも重要です。そこで今回、新型コロナウイルスBA.2.75株について、S遺伝子(スパイク蛋白質の遺伝子)の進化距離を武漢株のワクチン効果の指標として、分子シミュレーション解析による変異株のスパイク蛋白質とACE2の結合親和性を細胞への侵入(感染)の指標として解析しました。

研究の内容・成果

菅野特命助教が中心となり、S遺伝子の進化距離を解析すると共に、分子シミュレーションによりBA.4/5株とBA.2.75株のスパイク蛋白質の構造解析と、ヒトACE2との結合親和性を解析しました。

 


上の表の上の段は、新型コロナウイルスの武漢株からそれぞれの変異株との間のスパイク蛋白質遺伝子(S遺伝子)の進化距離(①)を表しています。この数値が大きいほど、武漢株のスパイク蛋白質と構造が異なっていることを意味しています。そして、この数値が大きいことはワクチンの中和抗体の効果が低い可能性を示しています。表の下の段は、スパイク蛋白質とACE2の結合親和性について武漢株を1とした比(②)によって表しており、数字が大きいほど結合親和性が高いことを意味しています。そして、この数値が高いほどウイルスの細胞への侵入(感染)が生じやすい可能性を示します。

BA.2.75株は①②共に最も数値が大きく、ワクチンが効きにくく高い感染性を有することが示唆されます。なお今回の結果には、BA.2.75株の重症化リスクについての知見は含まれません。しかし、仮に重症化リスクが低い場合であっても、感染者が多くなると結果として重症者の数も増えると予想され、警戒を要すると考えられます。

今後の展開

今後も、新たな変異株が出現した場合には、迅速な解析により変異株の性質に関する情報を提供してまいりたいと考えています。

また、現在はできていない重症化リスクの予測ができないか、検討を進めてまいりたいと思います。

用語解説

スパイク蛋白
新型コロナウイルスの表面に存在する糖蛋白質。各分子はウイルス表面から突起状に隆起する形状となっており、ヒトの細胞表面にある特定の蛋白質(ACE2)と結合することができる。
分子シミュレーション
蛋白質の3次元構造をコンピューター上に描出し、蛋白質同士や低分子化合物などとの物理的・化学的相互作用を解析する研究手法。数多くの蛋白質が公的なデータベース(Protein Data Bankなど)に登録されており、自由に研究に用いることができる。
進化距離
遺伝子の配列の変化を指標として計算される、遺伝子の進化的な距離の値。

論文情報

タイトル
SARS-CoV-2 Omicron BA.2.75 variant may be much more infective than preexisting variants
新型コロナウイルス オミクロン BA.2.75変異型は既存の変異型より非常に高い感染力の可能性がある
DOI:10.1101/2022.08.25.505217
著者
菅野亜紀(富山大・特命助教/神戸大・医学研究員), 髙岡 裕(富山大・教授/神戸大・客員教授), 片口治幸, 熊岡 穣, 大田美香, 木村重美, 荒木正健, 森永芳智, 山本善裕
掲載誌
bioRxiv (バイオアーカイヴ, コールド・スプリング・ハーバー研究所)

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